問答

「ねぇ、ネズミいない?」


 彼が押入れのほうを向いて私に問いかけた。


「いるわけないよ」


 私は野菜を切る手を止めずに答えた。トン、トンという音が心落ち着く。


「カリカリ、音がしたような気が、まぁいいけど」


 退屈なら手伝ってくれてもいいのにと思ったけど、彼がテレビを点けたので言うタイミングを逃した。


「ねぇ猫いる?」


 しばらくしてから彼がまた私に問いかけた。


「いないよ。どうして?」


「押入れからマァーって猫の鳴き声が聞こえたような気がしたから」


「いないよ」


 彼はふうんと呟くとまたテレビに集中する。


「ねぇ赤ちゃんいる?」


 振り向くと彼が押入れに手を伸ばしていた。


「どうして?」


「いや……赤ちゃんの笑い声が聞こえたような気がして」



「笑うはずないじゃない」

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