知らない兄ちゃん
俺がガキの頃、高校生ぐらいのよく知らない兄ちゃんと公園でよく遊んでたんだ。その兄ちゃんはゲームとかお菓子とかたくさん持ってきてさ、そりゃ楽しかったな。
親とかは「小さい子が好きな変態じゃないのか」「やめときなさい」とか言ってたんだけど俺と他に遊びに来てたやつらはみんな男だったし気にならなかった。
まぁ、後から世の中には小さい男の子が好きな男もいるって知ったけど特にイタズラされたりとかはなかったな。その兄ちゃん、見た目とか変態っぽくなかったしな。友達はどうだろ、俺たちとよく遊ぶくらいだからいなかったのかもな。
親の言うことは無視して遊び続けた。年上と遊ぶってなんかほら、ちょっとクールだろ? みんなよりも先に行ってるって感じがしてさ。実際、酒やタバコの味もそこで知った。頼んだら持ってきてくれたんだ。でもそれがまずかった。ああ、味の事じゃない。
誰かが告げ口したのか噂が流れたのか、学校の先生から直々にやめるようにお達しが来たんだ。
まぁ別によかった。ガキだからな。あの頃は他に楽しいことがいっぱい溢れてたんだ。
それからしばらくして俺が高校生になった頃。
暇でブラついてたら、そういえばあの兄ちゃんどうしてんだろと思って何の気なしにあの公園に行ったんだ。
人気のない公園でさ。遊具もなくてあるのはベンチと木ぐらいだ。
そしたらさ……いたんだよあの兄ちゃん。
前と同じようにベンチに座ってた。まさか俺たちを来る日も来る日も待ってたのかと思ったね。正直引いたよ。ああ、ゾッとした。死期が迫った老人みたいだったよ。
でもすぐに「あ、違うかも」って思ったんだ。その兄ちゃんが俺に気づくことなく公園を出た後、俺はあの兄ちゃんが座ってたベンチに腰を下ろした。
あの兄ちゃんは昔もそのベンチに座ってよくあの家を見てた。きっとあの家はあの兄ちゃんの好きな子の家で俺たちと遊ぶのは口実で、あの家の窓を覗いてたんじゃないのかって思ったんだ。
だから俺もスケベ心で窓を見た。
何もなかった。当然だ。カーテンもかかってるしな。でも俺が視線を落として、その下にある木を見たとき気づいたんだ。
そいつは木の陰にいた。
一目で人間じゃないってわかったね。シミュラクラ現象って言うの? 点三つあると人の顔に見えるってやつ。そいつはギリギリ、人の顔に見えた。
俺はすぐ逃げ出したよ。みっともないくらいにさ、走った、走った。
でも逃げられなかった。
そいつはそれ以来ずっと俺の周辺にいる。物陰から時々顔を出すんだ。
で、俺は気づいたんだ。あの兄ちゃんは俺たちの誰かにアイツを押し付けたかったんだと。自然にアイツを見なきゃいけないんだ。「ほら! そこの陰にいる!」って俺が指差すとそいつはヒュっと姿を消しちまうんだ。
厄介だよな。おかげで親にも頭がおかしいと思われちまってさ。今じゃ腫物扱いさ。
でもあの兄ちゃんも馬鹿だよな。集まった俺たちの誰かがそいつを偶然、見る確率なんてどんだけよ? きっと毎回、腹の中で祈ってたんだと思うぜ。
……なんでこの話をお前らにしたかわかるか? 俺が来る日も来る日もガキのお前らのご機嫌を取ってきたのか。
この落書きだらけの廃倉庫。何もないよな。そう、俺がせっせと中の物を運び出したんだ。これで、あいつが隠れられるような物陰は一つしかないだろ?
ああ、見えるぞ。振り返らなくてもお前らの目に映っているからな。ああ、これでやっと
……あ?
その牙は知らな――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます