雉白書屋短編集

受賞

　ここはとある町の大きな会場。この日、ここである大会の授賞式が行われていた。

　それは唐揚げ。並ぶパイプ椅子に座るのは主にその専門店の店主たち。各々、険しい顔で腕を組み手を握り耳を澄ましている。

　賞は上から金賞、銀賞、銅賞。そして特別賞がある。

　銅、銀と来て間に特別賞を挟み、今は金賞の発表。

　名前を読み上げられた者が壇上に上がり、各々、落胆の表情を浮かべる。

「発表は以上になります」

　その言葉を聞いた瞬間、椅子から立ち上がり歓喜の雄叫びを上げる者がいた。

　それを見た他の参加者は目を見開き『馬鹿な』『ありえない』『ただの目立ちたがり屋だ』などと口々に言う。

　そして壇上にいる受賞者の一人が審査委員長に詰め寄った。

「お、おい、まさかあいつは賞をもらっていないのか？」

「はい」

「何も？」

「はい。彼は何も受賞していません」

　会場がどよめく。さらに他の金賞受賞者たちも、大会委員長に掴みかからんばかりに詰め寄る。

「ありえない！　金賞の受賞者だけでも発表が終わるまで一時間近くかかったんだぞ！」

「そうだ！　銀賞と銅賞はさらに多い。その上特別賞もある。

どんなにマズくても必ず賞が貰えるのはこの大会に限った話じゃないぞ！」

　事実そうであった。世は賞レース時代。食品から始まりあらゆるもののコンテストが頻繁に開催されていた。

　だが金賞だのグランプリだの言ってもそれは建前で時代の流れ、あるいは利権からか誰でも必ず賞を貰えた。

　しかしそうなっては人目を引かない。大会に参加したのに賞を貰えなかった店にこそ、客はなんだどうしてだと興味を示し、店にやって来る風潮に。今となってはどの店もそれが狙いだった。

　この会場に集まった唐揚げ屋の店主たちもそうだ。各々が賞に選ばれないように工夫を凝らした。

　わざと唐揚げを不味く作ることから始まり、市販の物を出す。虫で作る。毒を少量入れる。審査員を脅す。賄賂を贈る。フライドチキンを作る。

　いずれもアイディア力を評価したと、審査員特別賞と称して賞が与えられ、夢は散っていった。

　死角はない。それなのになぜ、あの男は何も受賞しなかったのか。受賞者たちは審査員長に問いただす。

「なぜ、どうしてなんだ！　……あ、そうだ！　空の皿を出して

『馬鹿には見えない唐揚げです』とでも言ったんじゃないか？

食えないから審査できずに落としたってわけだろう。へへっ、俺もやろうか迷ったんだ」

「いいえ、それを出した人は特別賞の『裸の王様で賞』を受賞しました。彼は……」

　審査委員長は少し口ごもった後、言った。

「彼は宇宙人なんです」

　会場中が呆気に取られた。静まり返り、あるのは空気が切り裂かれたような音のみ。そしてそれは何を馬鹿なと怒号を浴びせようと受賞者たちが一斉に息を吸った音だ。

　だが、バリバリとまるでサクサクの唐揚げを食したような音を前に吸った空気はただ口から漏れた。

　敗れたのは唐揚げの皮ではなく男の皮膚。そしてその中身は人とはかけ離れていた。

「……えー、彼は他の星から参加したそうです。

『遠路はるばるようこそで賞』か『辺鄙なところで賞』

を差し上げようと議論も起きたのですが

やはり行ける距離、地球にお店がないことにはまぁ受賞資格はなしと……」

　それを聞いて海外から参加した者や南極や崖の上に店を出した店主たちがうなだれる。

　やられたな……。

　審査員長に詰め寄った受賞者の一人がそう思った。

　しかしアイツ喜びようは何だ？　受賞が目的でないのか？　なぜ地球に？

　……もしかしてあいつの星でも同じようなことが起きているのでは？

　やつはこれから自分の星に帰り、受賞しなかったという透明な勲章を掲げ店を繁盛させるのだろう。

　しかし、そこまでしなければならないとは……。

　歓喜し、狂ったように踊る宇宙人を前に受賞者たちは手にしたトロフィーを恨めしそうに見つめることしかできなかった。