首だけ地蔵

 私が小学生の時の話です。友達と墓場で遊んでいたら……。ああ、と言っても入り口付近の開けた場所ですよ。別に墓石に悪さとかしてませんからね。

 茂みでお地蔵さんを拾ったんです……あ、拾ったと言っても首だけです。あはは、私そんな怪力じゃありませんから。多分誰かが壊したんでしょうね、胴体は見つかりませんでした。

 で、友達と二人でこれどうしようかと考えていたら、ふと頭に浮かんだんです妙案が。

 怖い話を作ってみんなに広めようって。ちょうど季節は夏で自分の中で怖い話のブームが来ていたので思いついたのでしょうね。

 行動は早かったですねぇ。友達、クラスメイト、同塾生、近所のおばちゃん。これ聞いた話なんだけど……から始まり私たちは誰彼構わず話を広めていきました。


 夏休みに入り、その事を忘れた頃。テレビを点けると見覚えのある景色が映りました。

 あの墓場です。えっ、と声を上げ私は慌ててテレビの前に駆け寄りました。怖い話の噂を検証する番組のようでした。もしやと思うとやっぱりです。あの首だけのお地蔵さんが映されました。ナレーションは私たちが広めた噂話そのままでした。


『そのお地蔵さんから目を逸らさずにじっと見つめていると、やがて自分で自分の首を絞めて死んでしまう』というものです。シンプルでいいでしょう。後から付け足しやすいですし、頭の中で映像が浮かびやすいですから。

 お笑い芸人の方でしょうか、ちょっと疎いので、どなたかわからなかったのですが、その方が検証を行うようです。

 じっと見つめると突然、うっ!と自分で自分の首を絞め始めました。なんだか少し滑稽でしたね。演技がその、あまり上手じゃなかったものですから……。出演者の皆さんも笑っていました。

 怖がって欲しかったのに、と残念な気持ちはありましたが嬉しい気持ちのほうが勝ってました。とうとうここまで来たか、と。私は一緒に考えた友達に電話し、喜びを分かち合いました。


 それから間もなくのことです。噂が本当だという話が出始めました。

 夜、そのお地蔵さんを見に行った子供たちが実際に話通りの体験をしたのです。

 その子供たちはうまく逃れたそうですが、その話は時間が経つにつれ、広まっていきました。


 そして、ある朝のことです。

 男性が一人、あの墓場で死んでいるところを発見されました。墓場には進入禁止のテープが張られ現場検証がされていました。私はその様子を野次馬に紛れ、見ていました。


 警察も信じてはいなかったでしょう。恐らく噂話を利用した殺人だと考えていたはずです。でも事件は結局自殺として処理されました。他殺の証拠が見つからなかったそうです。


 その後、そこにあったお地蔵さんの首は警察に回収され行方は知りません。

 私もあの件は噂話に託けた殺人だと思っています。

 ああ、噂自体が嘘で、あの子供たちが嘘を吐いていたと言いたいわけじゃありませんよ。

 だって……その子供たちの中に私、居たんですから。その中に当時、私が好きだった男の子がいてそれで……まあ、いいですねその話は。ええ、実際に体験しましたとも、一人ずつね。危ないなと思ったら他の子が地蔵にハンカチを被せるんです。首に手が伸び始めるともう目を瞑ることも逸らすこともできませんでしたから。一人だと死んでいたかもしれませんでしたね。


「じゃあ、どうして殺人だと思うのか」ですか?

 有り得ないからです。

 だって……あの後、私が入れ替えたんです。ほかの地蔵の首と。

 危険だと思ったからです。大変でしたよ、ハンマーを使って、うまく首が取れるように壊したんですけど手がマメだらけに……。

 噂の地蔵の首はその後、私が持ち帰り、箱に入れて大事に保管していたんですけど、それが先日、恋人が箱を開けてしまって……。なぜって? うーん、なんか私の浮気の証拠を探してたみたいです。え、実際してたか? 浮気を? そんなのどうだっていいじゃありませんか。


 さ、それより私を信じてくれますか刑事さん。あなた、あの日の現場検証に来てましたよね。よく覚えてます。だって不思議に思ったんですもの。どうしてあの夜、あの男の人を殺した人が現場で指揮を取っているのかと。

 え? どうしてあの場にって? ふふふ、犯人は現場に戻るっていいますよね。私はすり替えたのがばれてないか気になって時折、様子を見に行っていたのです。

 それにしても、ふふふ。タオルで首を絞めると痕があまり残らないんですね。感服です。その後の処理の仕方もええ、ん? 地蔵の首? ふふふ、今どこにあるんでしょうね。

 今日はお呼び立てしてすみませんでした。じゃあ彼の件はうまく、そう、自殺か何かでお願いしますね。


 目を逸らさないでくださいね。

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