捕食者
真島は公園のベンチに座り、外灯を見上げていた。
虫の侵入を拒むためか、裸電球では心許ないのか、その外灯は丸い檻のようなもので覆われている。
蛾が一匹、ひらひらと外灯に近づいてきた。
夜に加え、真島のさほど良くない視力でもわかるぐらいだから大きい。
それから少しすると一匹の蝙蝠が外灯の周りを旋回し始めた。
あの蛾を狙っているのだろうか。これは良い。捕食シーンが見られる。
真島は足を組みベンチに深く座り直した。
見ていると何度か蝙蝠と蛾の距離が近づく瞬間はあったが食らいつくまではいかない。
ヤキモキし、行け! 行け! と真島は声を出したかったが、離れたベンチに人が座ったのを見て自重した。
男のようだ。手にはスマートフォンを持っているのだろうか、ぼんやりとした光がその男を照らす。
真島はどこか居心地の悪さを感じつつ、外灯に視線を戻した。
それから少しすると真島は欠伸をした。
蛾はまだ無事だ。しかし、さすがに飽きてきた。もう良い時間帯だからそろそろ行こうか。
そう思った真島はベンチから立ち上がった。
その時だ。蝙蝠がついに蛾を捕らえた。
真島はおおっと小さく声を漏らした。
間抜けな蛾め。交尾相手でも探していたのか知らないが、なんにせよ食われてしまった。
真島は蛾をせせら笑い、蝙蝠を見つめる。蝙蝠はもう二回ほど外灯の周りを旋回すると、どこかへ飛び去った。
蝙蝠に拍手でも送ってやりたいところだが、あの男がまだいるだろうからやめておくか。わずかでも印象に残りたくない。些細なことから足がつく可能性がある。用心に越したことはない。これからする事を考えると特に、な。
真島はそう思い、男が座ったベンチに視線を向けた。そしてビクッと体を震わせた。
そこに座っていたはずの男は何故かこちらに向かって歩き出していた。
男の手にあるものが光った。スマホではない。それは外灯の光に反射したのだ。
――ナイフだろうな。
真島がそう確信したのはこちらに近づき、外灯に照らされたその男の表情から怒りが窺えたからだ。
被害者の女の恋人、あるいは身内か。ああ、今月は派手にやりすぎたな。
真島はベンチから立ち上がりポケットからアイスピックを取り出した。
男が速度を上げ、さらに近づく。駆け出すようなその勢いに、真島はやるしかないかと思いつつも、頭の中で先程の蛾を自分に重ね合わせてしまっていた。
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