第15話 さっちゃん
「お久しぶりです、亜紀先輩♪」
「ん、久しぶりだね。どれくらいぶり?」
私が大学卒業してからだから、
「3年ぶりくらいですね」
「そっかー。そんなになるのかー」
高校、大学と一緒だったこともあってよく一緒に遊びに行っていたなぁ。
「さっちゃんは今どうしてるの?」
「私はですね、大学卒業してそのまま美容の会社に就職しました」
「へぇ、あ、でもさっちゃんぽいね。高校の頃からお洒落さんだったもんね」
「お洒落さんって。もう亜紀先輩、おばさんぽいですよ」
「あ、それ言ったら1個しか違わないさっちゃんもおばさんでしょ」
「いえいえ、四捨五入すれば私は二十歳、亜紀先輩は三十路ですから」
「お、ま、えー」
生意気な元後輩にヘッドロックをかますと、彼女の影からひょこと飛び出す影が。
「キャンキャン」
「おぅい、ワンコ?さっちゃんとこの?」
「はい、シュウっていいます。豆芝の女の子です。かわいいでしょー」
小さい体で尻尾をフリフリしながら近付いてくるシュウちゃんは誰が見てもかわいいと言ってしまいそうな可愛さがある。
「やばいね!」
「でしょー。亜紀先輩、いっぱい可愛がってください」
うはー、うちは動物飼うことがなかったからこんなかわいいの羨ましくなるなー。
こんなん見てたら飼いたくなってくるよ。
「お姉さん…」
「あ、ごめんごめん」
「いえ、いいんですけど…」
ああ、置いてきぼりになっちゃって、拗ねちゃってますね。
「えと、こっちが高校からの後輩の木下皐月。で、こっちが田岡有紀ちゃん」
「木下です。初めまして」
「あ、えと、田岡有紀です」
お互いに自己紹介も終わったのでこれでよし。
いや分かんないよ、ほんとは二人は初対面だからそれとなく仲良くなれるように話題振るんだろうけど、そんなスキル私にはない。
なので諦める、以上。
「キャンキャンキャン♪」
シュウちゃん…、犬ころよ、お前は楽しそうで何よりだよ。
なんかよくわからん沈黙が漂っている。何してるのがいいか分からんから、犬ころとじゃれとこうか。
おー、よしよし。
お前はかわいいなぁ。
「お姉さん、そろそろ行かないと」
ん、どこへ?
目的なく、というかこの海が目的地じゃなかったっけ?
「あ、そうなんですか?じゃあ亜紀先輩、また連絡してもいいですか?」
「ん?どうぞどうぞ。またいつかご飯でも…」
思い浮かぶのは仕事、仕事、仕事。
あんまり空いてる日がないからご飯行こうにもなぁ…。
「うん、空いてる日があったらいつかご飯行こう」
「はい、亜紀先輩楽しみにしてます」
嘘は言ってない、私嘘は言ってない。
空いてる日がそうそう取れないだけ。
いつかがいついつまでも訪れないというだけ。
「木下さん、さようなら」
「あ、ちょっ、そんな引っ張らないで。じゃあねさっちゃん。うわぁ
、有紀ちゃん早い早い」
「…またね、亜紀先輩」
有紀ちゃんに引っ張られながら、最後にさっちゃんへ手を振りながら別れの挨拶を済ます。
振り返してくれたさっちゃんの顔が暗いことに少しの違和感を覚えつつも、いつも以上の強引さの有紀ちゃんについていくのがやっとだった。
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