第14話 海と久々の再会
「海だー!!」
有紀ちゃんは元気だ。
私たちが一緒に暮らしだして一ヶ月ちょっと。
休日というものは常に私にとっては休息の時間だったのだけど、有紀ちゃんといるようになってからお出かけすることが多くなった。
ショッピングばっかりだっけど、今日は海に行きたいという有紀ちゃんの要望で近所の海岸に来た。
「有紀ちゃん、海には近付いちゃダメだよ」
「分かってるー」
「ほんとかなー?」
今なお有紀ちゃんが二十歳だとは少しばかり信じられない。
いや本当なんだろうけど。
見た目もさることながら、海にこんなにはしゃいだりとかすごく幼く見える。
まあそこが可愛いんだけど。
ちなみに今はまだ5月。
まだ肌寒いこの時期に海水浴している猛者はいない。
ちょくちょく私たちと同じように海岸を歩いているカップルやらペット連れの人らはすれ違いはするが、夏というには早すぎるため半袖の人すら見かけない。
「やっぱり季節的にまだ少し肌寒いね」
「え、そうですか?あたしは全然、暑いくらいですよ」
「うへー…」
これが若さというものか、代謝の違いか、確かに有紀ちゃんの肌にはじわりと汗がにじんでいるのが見える。
「お姉さん、あたしこう見えて海って見るの初めてなんですよ。テレビなんかで見たことはあったけど…。ほんとにおっきいんですね、海って」
天気もよく水平線が見えるほどに静かな海は、確かに初めての有紀ちゃんからしたら途方もなくおっきいだろう。
「お姉さん、夏になったら必ず泳ぎ行きましょうね」
「ええ…」
「嫌なんですか?あ、それとも泳げないとか」
「ん、んぅ…。泳げるっちゃ泳げるけどぉ…、海でしょ、泳ぐんでしょ、そしたら水着になるわけじゃん」
「いいじゃないですか。一緒に水着で海の沖まで競争です」
「しないよ。私そんなに上手じゃないし」
「でもでも、一緒に海には行きましょう」
「うーん…」
有紀ちゃんには分かんないだろうが、この年になって人前であそこまで肌を晒すというのは、かなりの抵抗があるのだ。
そうじゃなくても水着ってどう見ても下着と変わんないじゃん。
皆は、そして昔の学生だった私はよくあんな格好で人前に出れたなと思うよ。
ま、プールがあったのは小学生時代だけだったから、その時は楽しいが勝ってたんだろうけど。
「亜紀先輩!」
だからか、考え込んでいて声に反応するのに少し遅れた。
そして声のする方に振り向く前に、ふよんっとした柔らかなものが私の腕を挟み込んだ。
「なっ、なっ、なっ!?」
「亜紀先輩♪」
「んぁ、さっちゃん!」
「さ、さっちゃん!?」
そちらを見れば懐かしい顔が、高校・大学と同じだった桜井皐月ことさっちゃんが私の腕をぎゅーっと抱き込んでいた。
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