第10話 私と有紀ちゃん
どこへ向かうか…。
私と有紀ちゃんの接点なんて昨日今日のものだし、有紀ちゃんが行きそうなところなんて思い付くわけもないけれど。
「有紀ちゃん!」
ただひとつ、私と有紀ちゃんが出会った公園だけが私たちの接点だった。
そして有紀ちゃんは公園のベンチで一人ポツンと座っていた。
「…有紀ちゃん」
前みたいにおじさんに絡まれたりもなく、ほっと安堵し、そして有紀ちゃんに駆け寄る。
「有紀ちゃん」
「…お姉さん」
「よかった。有紀ちゃんが無事で」
「お姉さん、あたし…」
何か言いたいけど、思ったことが言葉にできないのか、喋ることもなく有紀ちゃんの瞳からポロポロと涙が溢れ落ちていく。
「有紀ちゃん、私さ、料理が出来ないんだよね」
有紀ちゃんの隣に座りながら、でも有紀ちゃんの顔を見ずに喋る。
「ご飯はさコンビニで済ますし、それに掃除だってあんまり出来ないんだ。家に帰っても寝るだけで、ほんとにここ最近は職場で生活してるようなものだったんだよ。家は…ただ寝るためだけの場所」
そう思うと私は何のために仕事をしてたんだろうと思う。
そりゃ、生活するためにはお金が必要で、そのために働いてるんだろうけど、趣味と呼べるものもなくただの機械のような日々を過ごしていたように思う。
働き続けていたのも本山部長にお世話になったからだ。
あの人がいて、私はギリギリあの職場でやり続けていたんだろう。
「有紀ちゃん、あなたが来てからの1日は、これまでの日々と全然違った。たった1日の付き合いだけど、確かに私の生活が変わった。家に帰ることを喜べるんだから」
こんな話をしていて、有紀ちゃんには重く負担になっていないか、どんな顔で聞いているのか、私は有紀ちゃんの方を見ることができない。
それでも私は私の心の声を有紀ちゃんには伝えたかった。
もしかしたらこれで有紀ちゃんとはお別れになっちゃうかもしれない。
そうなったら嫌だけれど、それでも有紀ちゃんがいて私は救われたんだと言いたかった。
「有紀ちゃん…。有紀ちゃんが来てくれて、私はすごく救われたんだ」
「救われた?」
この場所で初めて有紀ちゃんが喋ってくれた。
「うん。私は救われた。だから私はもっと有紀ちゃんには居て欲しかった。でも私の家にいるのが嫌だったら「嫌なんかじゃない!」」
私の声を遮る叫びに反射的に隣を振り向くと、涙をこらえている有紀ちゃんがこっちを見ていた。
「嫌なんかじゃない…ない…」
最後は消え入りそうな声だったけれど、それが有紀ちゃんの紛れもない本心なんだと感じとり、どこかほっとした私がいた。
「そっか、嫌じゃなかったんだ…。よかった」
「うん、あたしもあそこにいたかったです」
「それじゃあ、いたらいいよ。違うな、私がいてほしい。有紀ちゃんに一緒にいてほしい」
「でもあたしは迷惑になるから」
「それでも私には有紀ちゃんにいてほしいと思ってる。帰ろ、一緒に」
「…うん」
有紀ちゃんには有紀ちゃんの事情があって、薄々察しているけど実家から逃げている有紀ちゃんを、本当は年上の私が向き合わせなきゃならないんだろうけど、私は有紀ちゃんの逃げ道になった。
後悔する日が来るかもしれない。
後悔させる日が来るかもしれない。
でもそれまで私は有紀ちゃんとの日々を過ごしていきたい。
彼女の笑顔に癒されたい、これは私のエゴだ。
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