第9話 帰宅後…

「亜樹やん、今日はいつにもまして頑張ってたなー」

「ええ」


いつもなら夜10時くらいまでかかっている仕事も、今日は9時前には終わらせた。

いつもそれくらい頑張れと言われそうだが、体力の問題で無理だ。


しかし今日の私は人参をぶら下げられた馬車馬がごとく、休憩も返上しての突貫モードで仕事を片っ端から片付けていったのだ。


「というわけでお疲れ様でした!」

「あいよ、また明日な」


脱兎のごとく仕事場から家へ、途中のコンビニでデザートを買って帰るのも忘れずに、コンビニ袋を鳴らしながら玄関の鍵を開ける。


「ただいま!」


いつもなら無言での帰宅も、今日は活力に満ちあふれている。


「有紀ちゃん、コンビニでケーキ買ったんだけど…、食べ…る?」


玄関で靴を脱いで、リビングへと向かう最中にわずかな違和感はあった。

でもそれはリビングについたときに明確になった。


「有紀ちゃん?」


真っ暗な部屋。

そういえば昨日あった有紀ちゃんの靴も玄関になかった。


「…有紀ちゃん?」


リビングから寝室へ。


「有紀ちゃん!」


トイレからお風呂からくまなく探していくが、電気が点いてないのはもちろん有紀ちゃんの姿はどこにもない。

ふとリビングのテーブルを見ると今朝渡した五千円がそのまま置いてあった。


他にはなにもない。

ただ五千円札だけが置いてあるだけ。


「…」


言葉にならない。

よくドラマや歌詞には出てくる言葉だけど、初めて私自身に降りかかった。


「もしかして帰ったのかな…」


それならいい。

家出なんていいことではないし、帰ったのならそれは…、いいことなんだと思う。


でも、もし有紀ちゃんがどこかで事故に合ったりでもしていたら…。


ふとそんなことが頭によぎった瞬間、私はいてもたってもいられず家を飛び出した。

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