第2話 コンビニ依存の弊害
「あがってあがって」
「ふぁ、すごいねお姉さん」
私の家への帰り道、お互いに自己紹介を終えた。
少女の名前は田岡有紀(たおかゆき)。
ゆうきじゃなくて、ゆきらしい。
ちなみに私の名前は石原亜樹。
現在25歳とアラサーに入ってしまい、少々今後の人生に焦りが入ってきているお年頃。
肌の張りが学生時代に比べて落ちているのが目下の悩み。
そして有紀ちゃんがすごいと言っているのはこの家のことだろう。
20階建てのタワーマンション。
そこの最上階に私の家がある。
だてに夜遅くまで働いてないからね。
それに独り身、良いところに位住みたいよ。
なにはともあれあれから有紀ちゃんを家に連れてきた。
けっして誘拐ではない。
警察に連れていったらよかったんだろうけど、この子可哀想だから。
「えっと、なにか食べる…、って言いたかったけどレトルトのカレーとチンするご飯、もしくはラーメンしかないけど、どっち食べる?」
「…お姉さん、もしかして家事苦手ですか?」
「ぐふっ」
やっぱりバレるか。
そりゃそうだ。
私の食生活は基本弁当だ。
しかし言い訳させてもらおう。
「えっとね、苦手って訳でもないんだけどね、そのね、時間がね、」
「いいですよ、あたしが作ってあげます」
「えっ!?作れるの?でも…、ほんとに材料が何もないよ」
「冷蔵庫見てもいいですか?」
「いや、うーん、いいというか、ダメというか、うーん…」
「開けまー…、す…?」
はいごめんなさい。
料理なんてしない冷蔵庫の末路は酒蔵一直線です。
チューハイの缶がこれでもかと詰め込まれた冷蔵庫を前に、フリーズしてしまった有紀ちゃん。
ちょっと可愛いと思ってしまった。
ギギギと錆び付いた機械のようになんとか首を回し、こちらに顔を向け、
「お姉さん、これまでどうやって生きてきたの?」
「ど、ど、どうやってって、ははっ…、お弁当買ったりぃ、大体は夜ご飯は抜いてたかな。仕事で帰るのも遅いし、あ、でも朝ごはんはしっかり食べてるよ。ちゃんとお米!、お米食べてるから」
「どうせコンビニですよね」
「…」
「フライものなんかは食べても、どうせ野菜とかは取ってないんですよね」
「…」
その通りすぎてなにも言えない。
「外出る準備してください」
「え?、今帰ってきたばっかり…」
「コンビニに行きます」
「私、明日も仕事…」
「明日のための英気を養わないと」
「ワタシネムネム、オフトンヌクヌク」
「いいから!」
ああ、この子一度決めたら突っ走っちゃう子だ。
半ば諦めてもうすぐ0時を指そうとする時計をうらめしく眺めて辛いなと感じながら、握られた手のひらから、有紀ちゃんの手のひらがもちもちでやらかいなってちょっと幸せになれた。
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