忙しいけど、癒しがあればなんとかなる

田舎のたび猫

二人の出会い

第1話 仕事終わりに少女と出会った

仕事が終わり、時計を見ると針はすでに10時を過ぎていた。


今日はなんとか日を跨ぐことなく寝れそうだ。

そんなことに喜びを感じつつ、夜食をコンビニで買って家路につく。


ふとどこかから音楽…、というより誰か歌っているのか?


「…上手な歌」


最近音楽も全然聞いていないが、耳に入ってくる歌は私の心にじんわりと染み込んでくる、なんというか暖かな感じがした。

なんだかもっと聞きたいな。


そう思うと、自然と家からの道を外れ歌の聞こえる方へ足が動いていた。


「あれ?」


そして突然歌は終わった。

目の前には公園があって、どうやら公園内に歌い手はいるみたいだけれど、何故か歌は中途半端な終わりかたをしたので、もっと聞きたかったという欲と、どんな人が歌っていたのかという好奇心から、仕事の疲れも忘れ、ふらっと公園に立ち寄った。


「離して!」


喧嘩かな?

叫び声の方へ行くと、女の子とおじさんが言い争っていた。

しかもおじさんの方はふらふらしていて酔っぱらっているのか、言葉の呂律が回っていない。

というか、これはやばくない?


「おじさん、やめときなよ」


なので割って入り女の子を背におじさんに向き合う。

ああ、こりゃ相当酔ってるね。


顔を真っ赤にしたおじさんは邪魔をされたのが気にくわないのか、なにかを叫んで近付いてくる。

正直なに喋ってるのか理解できない。


日本語はもっと正しく話してくれ。


おじさんが近付き、私の腕を取ろうとしてきたのに合わせて、腕を捻り、昔とった杵柄、合気道で腕を捻り上げる。


「ぎゃあ!」

「お嬢ちゃん、大丈夫?」


悲鳴をあげているおじさんはとりあえず無視して、後ろの女の子に話しかける。


「あ、…大丈夫です。助けていただいてありがとうございます」


涙目になっている女の子を見ると、助けに入ってよかったと思う。


「おじさん、お酒飲むの悪いとは言わないよ。でもお痛はダメだよ。なんだったら警察呼ぼうか?」

「いや、すまん。すまんかった」


痛みで酔いが覚めたのか、幾分言葉が聞きやすくなった。

今なら腕を放しても大丈夫だろうと思い、ぱっと離すとおじさんはこちらに謝ったあとそそくさと公園から出ていった。


そして後ろから、とさっと何かが地面に落ちた音がした。


「うおっ、お嬢ちゃん大丈夫!?」


見ると、女の子が腰を抜かしていた。

知らないおっさんにこんな暗がりの公園で迫られていたらそれも当然か。


「大丈夫?怪我とかはしてない?」

「うん、大丈夫。ありがとうお姉さん」

「それならよかったよ。それにしてもこんな遅い時間に一人だったら危ないよ。よかったら家まで送ろうか」

「いや、いいです。家に帰りたくないですし」

「でも、ここにいても危ないよ」

「それでも帰りたくないです、あんな家に」


うーん、どうしよ。

そうはいってもこんな少女をここに置き去りもなぁ。


「家、くる?」


なんとなく提案してみた。

そしてその提案に彼女は少し考えて、そしてこくりと頷いた。

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