第6話 夢の中

 目を開くとそこはレストランだった。


「3分間のカウントダウンを開始します。」


 守護ッチから音声が聞こえた。


「えっ?3分しかないのっ?」


 慌てて周りを見渡す。見たことのある風景だった。


「ここはいつものレストランか…。何かあるたびに奮発してたな。記念日とか、プロポーズとか…。」


 おめでたい事がある度に食事をしてきた、二人の思い出のレストランだった。

 いつも予約している席を見てみると笑顔で食事をしている愛子がいた。


 そこには優寿もいた。


「俺…?いや愛子の夢の俺か。まあそうだよな。今日は娘が産まれたっていうおめでたい日だからな…。」


 夢とはいえこんな幸せの象徴ともいえる場所で、自分が死んだ事を伝えなければならないとは。

 

「残り2分です。」


 時間がない。でも勇気がない。だけどもこんなチャンス二度とない。


「ちゃんと伝えなきゃ。俺も辛いけど残された方ももっと辛い。多分だけど。頑張れ俺!動け俺の足っ!」


 優寿は歯を食いしばり自分の頬をビンタした。足は無かった。


「バチンッ!!!」


突如聞こえた大きな音に愛子が振り返り、目があった…。


「え…優寿…?二人…?」


愛子に見つかってしまった。見つかっていいのだが。


「え、あ、そ、その…」


「どういう事?なんで二人も優寿がいるの?」


「えっと…………ごめん。」


「へ?何が?」


「実は…俺…∈≯β∞∏…もう一緒にいれないんだ…あ、いやいるんだけどさ!娘の∮√∥∷∅になったんだ。」


「何?途中聞こえないし何言ってるの?」


「だから俺∈≯β∞∏さ、娘の∮√∥∷∅になったんだ。」


「何言ってるの?」


 どうやら死んじゃってとか守護霊とかあの世関係の事は言葉にしても伝えられないようになっているみたいだった。


「残り1分です。」


 優寿は焦りながらも言葉を伝えたい事を振り絞った。

「やべっ。えーっとんーと、娘が産まれてさ。こんな時だけどさ。俺はもう一緒に暮らせないんだ。いるっちゃいるんだけどさ。何言ってるかわかんないいだろうけど。」


「残り30秒です。」


「本当に申し訳ないけどこれから大変だと思う。俺だってこんな事になるなんて思ってなかったし、ずっと家族でいれると思ってたけどさ。とりあえずこれだけは覚えておいて。」


「10…9…8…7…」


「これからもずっと愛してるし!これからもずっとそばにいる!だからっ…いつも見てるからっ…安心してっ!」


「2…1…」


「愛してるよ!愛子!」


 



……………………




 目を開くと病室に戻っていた。愛子を見るとまだ寝てはいるが目から涙がこぼれていた。

 

「ごめん…愛子…。」


 伝えられたかはわからない。自分の発してきた言葉を噛み砕きながら、この理不尽な状況に優寿も涙をこぼした。

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