第3話 沈黙とバカ
皆、娘の誕生に喜んでいた。優寿もちょんまげも犬も猫も。
しかしその場にいた者は皆優寿の死を知らない。そして優寿もちょんまげも犬も猫も忘れていた。
優寿と連絡が取れないので、とりあえず義母は優寿の両親に無事に出産した事を伝えようとした。
その時、義母の携帯に電話がかかってきた。
優寿の父からであった。
「もしもしー。立川さんタイミングいいわ!ちょうど産まれ」
「優寿が…事故で死んだ…」
「はい!?」
思わず大きな声が出た。
「優寿が轢かれて死んだ。」
義母は固まった。理解が追いつかずに。
こんな時に何を言ってるんだ。お互いの初孫が産まれたという日に。え?優寿君が死んだ?なんで?嘘でしょ?どういう事?いやいやまさか。ありえない。え?え?え?え?
頭の中をぐるぐると考えているのか考えていないのか、様々な感情?思考?が駆け巡ってるのか?とにかく訳がわからなくなって息をするのも忘れていた。
「かーさん急にでかい声出してどうした?」
義父の問いかけでやっと呼吸を思い出す。
「はぁ…はぁ…い、いやなんでもないわ。ちょっと電波悪いから外行ってくるわ。」
義母は病院の外へ駆け出す。
咄嗟に誤魔化してしまった。いや、言えるわけがない。出産したばかりで幸せ一杯の愛子に。皆に。
しかし隠した所でそこまで時間もかからずに皆がわかってしまう事だ。でもどのタイミングでどうやって伝えればいいのか。
「もしもし?もしもーし!?」
長い沈黙に耐えきれず優寿の父が呼びかける。
「は…はい…」
呼びかけたものの優寿の父もどうしたらいいのかよくわからなくなっていた。
そしてまた二人の間に沈黙が流れる…
その頃ちょんまげと犬と猫は飛び出していった義母を見て察していた。義母が優寿の死を知ったのだろう。と
優寿はわが子の手に指を握らせようとしていた。もちろん透けた。
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