第2話 束の間の幸せ
目が覚めると分娩室だった。苦しそうにしている妻の愛子が居た。とっさに優寿は手を握ろうとしながら
「愛子!頑張れ!」
と思わず叫んだが反応は無かった。手も握れなかった。
狼狽えて周りを見るとそこには医者、看護師、義母。ちょんまげの人もいた。猫とか犬とかも居た。
ちょんまげ?犬?猫?なぜ?よく見ると足が透けている。足元を見てみる。…透けていた。
「お主は誰でござるか?」
ちょんまげがいかにもな感じで話しかけてきた。お前が誰だ。後犬と猫。
「俺は立川優寿。そこにいる妊婦の夫で今生まれてくる子の父親で…守護霊になったばかりだ…。」
ちょんまげは俺の足元を見るなりうなだれて泣き始めた。
「守護霊?そんなことって…あんまりでござるよ!ヨヨヨヨ…」
何だこのちょんまげ。泣きたいのはこっちだよ。
「で、お主は何者でござるか?」
時代劇っぽく話しした方がいいのかなと思ってござってみる。
「拙者は渡辺 新次郎でござる。愛子殿の先祖で守護霊なりよ。」
守護霊か。しかも愛子の。腕をよく見るとスマートウォッチみたいなのを着けている。身なりは江戸時代の人でちょんまげのくせに。あだ名もちょんまげでいいか。
犬と猫もよく見ると首にスマートウォッチみたいなのを着けている。こいつらも誰かの守護霊なのか。
そうこうしているうちに、愛子が息みだした。
「頭見えてるよー!頑張ってねー!はいひっひっふー!」
もうすぐ産まれそうだ。人にも物にも触れないことはさっき理解したのでせっかくなので特等席?医者をすり抜けて出てくる所を間近で見てみる。
ちょっと後悔した。元いた場所に戻った。
そして何も出来ないまま。娘が産まれた…
クリスマスの日の事だった。
「ゔ、ゔまれだー!ゔぁー!」
めっちゃ泣いた。
「無事産まれてよかったでござる!」
ちょんまげが肩を叩いてきた。泣いてた。
「にゃーにゃー!めでたいにゃ!」
「わんわん!おめでとうわん!」
犬と猫も泣いていた。てか喋るんだこいつら。怖っ。
産まれたてのわが子を抱き抱える愛子に抱きついたつもりでいながら、
「お疲れ様。ありがとう愛子。」
と話しかけたが、もちろん反応はなかった。
赤ちゃんをぷにってしようとしたけどもちろん触れなかった。
喜びと虚しさで一杯だが、無事産まれてくれてよかった…本当によかった…
「優寿くんさっき来るって言ってから結構経つのにまだ来ないわね。今どこにいるのかしら?もう産まれちゃったっていうのに…」
義母は優寿に電話をかけた。
二度と繋がることはない携帯に…
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