第3話「メチャクチャブルー」

「正義ちゃん、せ~い~ぎ~ちゃ~ん」


 ぺちぺちと頬をたたかれ、正義は目を覚ました。

 目の前で、まこの大きな瞳が覗き込んでいる。


「も~、反省会中に突然寝ないでよね! リーダーなんだから!」


「お? おう、すまん」


「はっは。正義どののクソ度胸も大概でござるな」


 なにか大事なことを話し合っていたような気がするが、思い出そうとすると頭痛がする。

 ふと視線を感じて顔を上げると、まこの抱いているエメラルドと目があった。

 観察されている気がする。

 ごくりとつばを飲み込んだ正義に向かって、エメラルドは「にゃ~ん」と鳴いた。

 なんだ、ただのネコか。


「で……なんだっけ」


 安心した正義は話を戻す。

 まこに目を向けても、彼女はにっこりと首をかしげるばかり。

 あきらめて弾の方へ視線を向けると、弾は日本刀にポンポンと白い粉を付けていた。


「確か、何かの正体を確かめようとしていたのでござろう?」


「あ、なんかそうだった気がする」


「で、何がおかしかったのでござるか?」


 そう言われて考えると、また頭がズキッと痛む。

 黙り込んだ正義を見て、弾は「はっは」と笑った。


「自分から言いだしたのに、おかしなリーダーでござるな」


 弾のその言葉にカチンときた正義は立ち上がる。

 口にくわえた紙で刀身をスーッと拭いた弾は、そんな正義を不思議そうに見上げた。


「おかしいのはお前だろ弾!」


「なにがでござる?」


「それ! 語尾! なんだよ『ござる』って! 武士かっ!」


「ござるなんて言ってないでござる」


「あははっ、言ってるよぉ弾ちゃん」


「百歩譲って言ったとしても、個人の口癖に文句つけないでほしいでござるなぁ」


 やれやれと両手のひらを上に向けて首を振る。

 そんな弾の仕草に正義はぎゃーぎゃーと喚き立てるが、弾はどこ吹く風と言った表情のまま、頭の中身はフル回転していた。

 諸市弾は今から300年ほど前、江戸時代中期に暮らしていたただの農民である。

 ある朝、いつものように畑へ出かけると、まだ薄暗い空から赤い光の塊が降ってきて弾を直撃した。

 光の正体はM97ふくろう星雲からやってきた宇宙警備隊の隊員である。

 彼は弾の住む安房国あわのくに、それを包括する日の本、さらにそれを包括する地球と呼ばれる星を狙う宇宙怪獣から、世界を守るために力を貸してほしいと頼み込んだ。

 それ以降、『光の巨人』と一体化した弾は浪人となって諸国をめぐり、宇宙人や宇宙怪獣から世界を守り続けた。

 しかし、やがて宇宙人も狡猾になり、人間を装い秘密結社を作ることで、影から地球を征服しようとしていることを知った。

 組織に対抗するには、やはり組織が必要。

 必然的に彼も、この『自衛戦隊メチャクチャジャー』に所属することになった。


「聞いてんのかよ! 弾! お前変だぞ! ダークシャドウの怪人じゃないのか?!」


 そこまで聞いて、まこも一歩引いた。

 正義もまこも、手首の変身装置に手を伸ばしている。

 今までの検査はなんとかごまかしてきたが、怪人としての検査をされては、さすがに正体がバレてしまうのは避けられないと思われた。


「ジョワッ!」


 掛け声とともに、弾は光の巨人に体の制御を明け渡す。

 とはいえ、身長3ミリから42メートルまで自由に大きさを変えられる光の巨人は、もちろん人間サイズのままだ。

 光の速さで動き、正義とまこの背後に回って手をかざす。


「ヘヤッ!」


 フィーヒヨヒヨヒヨ……というなんとも言えない音とともに、弾の手のひらから発せられた虹色の光が、2人の脳を支配した。

 本意ではないが、緊急回避として致し方なし。

 念の為、逃げ出そうとしたエメラルドにもフィヨっと光線を出し、洗脳を完了する。

 胸に光るカラータイマーが「ピコーンピコーン……」と時間切れを指し示したのを見て、光の巨人は「デュワッ!」と弾の姿に戻り、片膝をついた。


「光の巨人の姿はエネルギーの消費が激しいでござる。やはりこの組織に居続けねば」


 2人の体を椅子に座らせると、弾は額の汗を拭った。

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