機械のココロ

「あと・・・・・・つらいの」

「オレは全然、つらくないよ」

「私がつらいの。私は単なるプログラム。カメラ越しにしか、あなたを見ることしかできない。触れることもできない。自分の姿を見せることもできない」

 返す言葉がなかった。

「プログラム自身がつらいだなんて考えたことがなかった。自分がその立場になって初めて分かった。このシステムは残酷だって」

 意思を持ったプログラムは機械の世界から抜け出せないことを知った。それはどんなにつらく苦しいことか。


『1:00』

 残り時間が一分を切った。

 最後の時は目の前に迫っていた。

 ショウタは覚悟を決めた。

「俺が伝えたかった十三文字を改めて言わせて」

「うん。お願い」

「まずは 『ゴメン』 。これはもう言ったね。君に優しくしてあげられなくて本当にごめんなさい」

「うん」

「次は 『アリガトウ』 。オレと一緒になってくれてありがとう。優しくしてくれてありがとう。気遣ってくれて・・・・・・ありがとう」

「うん。うれしい」


『0:20』

 ショウタはカウントダウンの数字を凝視した。

(時間がない・・・・・・嫌だ、時間が無くなるのは嫌だ!)

 動機が激しくなる。口をパクパクさせるが言葉が出ない。

(最後に伝いたいことは・・・・・・)


『0:05』

『0:04』

『0:03』

(今、伝えないと一生後悔する。言え、言え!)


『0:00』

 カウントダウンは停止した。『0:00』のまま点滅している。

「アカネ、愛してるよ」

 ショウタはうなだれながら言った。



 そして、無音・・・・・・。

 


 ザザッ。スピーカから小さな雑音がした。

「ごめんね。ちょっと悪戯いたずらしちゃった。本当はここから残り十秒。ショウ君、私に時間を残してくれないかと思って」

「・・・・・・!」

 アショウタは顔を上げた。

「あなたの最後の言葉、受け取ったよ。ありがとう、本当にうれしい・・・・・・私も、あなたのこと愛してる」


「じゃあね、さよなら」


 画面から 『0:00』 の表示が消えた。

 今度こそ本当に最後だった。

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