ありえない提案

「私、アカネさんと、研究室でご一緒してた者です」

 電話口には、かわいらしい女性の声。葬儀の際に聞いた気がする声だった。

「どうかされましたか?」

「お話ししたいことがありまして・・・・・・お時間いただけませんか?」

 電話では話しにくそうだったので、その日の夕方、駅の近くの喫茶店で会う約束をした。


 彼女は小柄で、短めに切った髪は乱れ気味だった。目は真っ赤、目元は脹れており、泣き明かしている様子が見て取れた。彼女がいなくなってつらいのは自分だけじゃないことが分かった。


「今日はごちそうしますので、好きな物を注文してください」

 身なりを整えての外出は久しぶりだった。

「どんなご用件ですか?」

「本当に残念です。こんなことになって。私、アカネさんより二つ年下で、アカネさんを姉のように思っていました」

 友人は涙ぐみ、グスグスと鼻をすすり始めた。

「あなたのことは、彼女が良く話してくれました。生前に仲良くしてくれて本当にありがとうございます」

 友人は無言でコクリとうなずいた。

「で、何か用件があるんですよね」

「本当は・・・・・・」

 アカネの友人は顔を少しあげて、ショウタの目を見つめて切り出した。

「本当はだめなんですけど」

「?」

「彼女と・・・・・・アカネさんとお話しできるとしたら・・・・・・そうしたいですか?」

「!」

 唐突な提案にショウタは言葉に詰まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る