これほど、あっけなく

 その日の午後だった。

 ショウタの携帯電話に警察から連絡が入ったのは。

「奥様が事故に合われました。すぐに警察署にお越しください」

 アカネは財布に緊急連絡としてショウタの携帯番号を入れていた。

 電話では状況を詳しく教えてもらえない。とにかく行くしかなかった。


 ショウタは上司にその旨を告げ、急いで警察署に向かった。

 胸騒ぎがした。急いでタクシーを拾って移動した。


「先ほどお電話を頂いた者です」

 ショウタは警察署の個室に通された。間もなく、制服の警官がやってきてこう言った。

「大変、申し上げにくいのですが、奥様は・・・」

 

―こんなにあっけないものなのか


 ショウタは言葉を失った。

 アカネはその日の午後、交通事故でこの世を去った。


 安置室に寝かされた彼女は、今にも起き上がりそうなほど普通だった。

 二度と目を開けないことを除いては。

 夜に見せに来たカーキ色のワンピースを着ていた。


 涙は出なかった。現実と思えなかった。警察署を出たショウタは、彼女の両親に連絡をした。母親は少し沈黙した後、電話口で泣き出してしまった。

 上司からは、「仕事は何とかするから、しばらく休みを取れ」と言ってもらった。


 ショウタは自分でも驚くほど冷静に、手際よく葬儀の手配をした。友人への連絡、親類への連絡・・・・・・。

 

 一週間後。葬儀も納骨も済んだ。アカネを失った実感がまだなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る