グンナイ後ろメタファーズ

春日

第1話

俺ってまじでかわいい人間だなって思う。今、表参道駅前で「あなた今幸せですか?」って声掛けてきた外国人の女の子をスルーしてきたけど、そういうのはほっとけない性格だからだ。俺の好きなHIPHOPみたいなジャルで言うなればチルっていうのかな、超チルだ。俺は女の子にも優しい。チェリーボーイだから、廃課金したSNOWくらい女性に対するフィルターがかかっていて、下半身がゴーサインを出そうものなら身を粉にして誠実さを見せつけるタイプだ。

でも、この世は全然チルじゃない。事実だから「〜と思う」なんて安易につけたりしない。訴えたい。俺はモテない。この世はクソだ。生まれてこの方ずっと一緒に過ごしてきたマイケルだって18年も寂しい思いしてんだ。そろそろ報われたっていいだろう。と、そう考えるのが日課になってしまった今日の俺が惨めに映るように駅構内のライトは残酷に光る。午後10時になったからって1部出口を柵みたいなので閉鎖しにくる警備員のおっちゃんは俺の目には死神に見えるしな。

もうすぐ卒業式だ。大学も決まってよかった。悪くない3年間だった、って改札を抜けて振り返った。でも悪くないって自分に言い聞かせてる節、あるんじゃない?ってマイケルが語りかけてきた。お前は喋んなよ、ってツッコミ入れて到着した電車に乗って席に座る。一息ついてインスタ確認したら、ちょっと目を瞑ろうか________

あれは確か1年生の夏、華々しい高校デビューを飾れなかった俺は中学生の頃からの趣味であるライブハウス通いに専ら没頭していた。ちっせえどこの玉かもわからない大学生みたいなののかき鳴らす音楽に頭振ってまじで高校くそだな!ってサビ前のコールみたいな感じで叫んでた。エッジの効いた卵型の坊主頭に爽やかな汗が走る。演者より俺たちの方がロックだな、とか一緒に見にいった友達に話してた。よくもまぁいけしゃあしゃあと。ある日友達は知り合いの女をつれてくるなんて連絡を寄越してきた。けっ、女なんてかったりぃや、こちとら日本男児ぞ。って斜に構える俺と、下をみるとわくわくした様子のマイケル。んでまぁ開演前に挨拶を交わして、一緒に頭振って、それがあいつとの出会いだった。簡単にいうと、ひとつ上の、ガリガリでちょっと芋臭いけど笑った顔がキュートでツーブロックの髪してる超ロックな子女だった。エッジの効いた卵に、汗じゃない何かが走った気がした。なんかさらっと処女ですとか言われた。太宰先生のトカトントンじゃないけど、あの瞬間は確かにどこからかメガネかけてダウンジャケット着込んだ小太りの男が「バキバキ童貞です」って言ってるのが聞こえて、よくわかんないけど掌の汗を終演後でびしょ濡れのバスパンで拭ってみた。すると、

「何歳?」

「16っす」

「えー見えなーい とりま避妊はちゃんとしなね」

「あっ、はい…」

颯爽と唖然させられる感じ。対照的に漫才だったらつかみは大成功、くらい満足げな笑顔のあいつ。傍から見たら超鮮やかなコントラスト。青の洞窟なんかより綺麗で、対照度みたいな観点でいえばSNOWに廃課金してるフィルター厨もビックリするやつ。とにかく瞬間最大風速って言葉が似合う女なんだよ。あと、あいつはその後変な男に絡まれてた。元自転車部って自称する謎の男に陰部の画像送り付けられてたっけなをちゃんと嫌がってブロックしてたし、そういう恥ずかしさみたいなのはあるんだって思ったらやっぱりちょっとかわいいやつだ。でも、坂上忍風に言いたいんだが、「避妊はしっかりね」なんてこれセクハラだよねぇ。そこでテレビ番組の司会の霊を体に降誕させて導き出した結論は、

「もしかしてあいつ、俺の事好きなの?」



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