2. 歪な日常

6:20。目が覚めた。


嫌な夢を見た。たまにある。人を殺す夢。とても現実的な、まるで実際に殺しているのかを錯覚してしまうような夢。


そんな悪夢を見たせいか体が汗まみれだ。ベットから上半身だけ起き上がる。まずはシャワーを浴びて汗を流したい。浴室へ向かう。

今日の夢はとにかく気持ち悪かった。昨日の夕方から雨が降っていたのか夢の中でも大雨だった。女性の首元にナイフを.....。思い出したら吐き気がしてきた。

吐き気を我慢し、浴室の手前、脱衣所で服を脱ぎ、洗濯機の中に放り投げる。汗でびっしょり濡れていた。自分でも驚きた。ふと洗面台に飾ってある鏡を見て見る


「なんだ これ?」


顔に。左の頬に赤いシミのようなものがあった。右手で赤いシミを拭う。赤いシミは少し粘り気があった。匂いをかいでみた。どこかで嗅いだことのあるような匂いだった。まるで、血のようだ。

「まさか、な」

気のせいだ。そうだ。と自分を納得させ、シャワーを浴びる。

冷たい。夏の朝にはちょうどいい。それに頭を冷やすにもちょどいい塩梅だ。これで、夢のことを忘れることができるかもしれない。


シャワーをし終わった。タオルで体を拭き、脱衣場を出る。脱衣場を出ると目の前に冷蔵庫とキッチンがある。キッチンのシンクにあるマグカップを適当に洗う。それから、冷蔵庫からアイスコーヒーと牛乳を取り出してマグカップに注いでカフェオレを作る。最後に、黒糖のシロップを入れ箸でかき混ぜて完成だ。ついでに、冷蔵庫の上にあるかごから菓子パンをとり、マグカップと共にベットが置いてある部屋にいき、ベットの横にあるテーブルにつく。テレビをつける。いつもの朝のニュース番組にチャンネルを合わせる。


「おはようございます。ただいまの時刻は、7:00です。」


間に合ったようだ。毎朝この番組をみながら朝食をとる。いわゆる、朝の日課と言うものだ。菓子パンを食べ、お手製のカフェオレを飲む。「うまい」。このアイスコーヒーの独特の苦味が牛乳の甘味が包み込んでいる。そして、黒糖特有の甘さが俺の脳みそを覚醒させる。

テレビでは、いつものように天気予報が流れている。そして、あのニュースだ。俺の住む街では、最近、殺人事件が起こっていてお世辞にも治安がいいとは思えない。最初の犠牲者は一ヶ月前だ。男性が、アイスピックのような先の細いもので刺殺された。第二の犠牲者は女性がバットのようなもので撲殺。一週間までは、男性が絞殺されたらしい。でも、俺には関係ない。なぜかそう思える。


菓子パンを食べ終え、カフェオレを飲みほし時計を見る。7:50、もうそんな時間か。家を出る時間だ。急いで、支度をする。脱衣場に戻り、歯を磨く。ペットの横にあるクローゼットから適当に服を出し着替える。ベットの近くに置いてあるリュックを肩にかけ、家を出る。階段を3階分おり、道をはさんだ向かいのバス停まで走る。大学までは、バスでおおよそ30分。今日も 間に合ったようだ。まだ、乗るバスはまだらしい。昨日は夕方から雨が降っていたせいか、いつもより涼しい朝だ。スマホを取り出し、いつものニュースアプリをみてバスを待つ。全国ニュースの欄を見ると、やはりあの連続事件についての記事が載っている。こんな平和な時代に起こる殺人事件はマスコミは大好物らしい。文字通り群がって楽しんでいるように見える。日々、殺人犯に怯える当事者のことは何も知らないらしい。

バスのエンジン音が聞こえる、バスが来たようだ。運転手に定期券を見せバスに乗る。幸運にも今日は席が空いていた。俺は空いた席に座り、流れる風景を楽しむ。信号で待ちしているときに、近くの家の塀に何か黒い物体があるのに気がつく。目を凝らしてみると、それは人だった。おかしい。まだ、本格的な夏ではないが、その人影は黒い長袖に長ズボンという見るからに暑そうな格好をしている。フードをかぶっていて顔はわからない。信号が青になりバスが進む。こちらを見たのか、不気味な何かを感じた。


「次は沙羅さら大学前、沙羅大学前」


着いた。バスのアナウンスだ。降車ボタンを押す。1分後、バスは大学につき、俺はバスを降りた。バス停から少し歩くと俺が通っている沙羅大学に着く。


大学の正門を通り、北棟に入る。今日は朝から、基礎物理学という悪夢を受けなければならない。講義室に行く途中に事務室に飾ってある掲示板をみる。講義の中止やお知らせなどがが貼ってある。どうも基礎物理学は休校ではないらしい。嫌な気持ちを抑え込み、基礎物理学がやる講義室へ向かう。


講義室には2/3ほどの学生がいた。俺は、特等席である後ろから2番列の端の席にすわる。今日はあいつには会いたくない。とりあえず、講義に使うPCを机に広げる。講義が始まるまであと10分。今日は少し早く着きすぎたか。PCを広げて講義に使う資料を大学のサーバーからダウンロードする。「あっ、あいつだ」黒髪の短髪の女性は、当たりを見渡している。そして、見つけたのかこちらを見て、笑ってこっちに向かってくる。


「あっ、しんちゃん。おはよ〜」

そいつは、挨拶をして一つ前の列に座る。

「おはよ。まり」

返事を返す。こいつは坂本まり。高校からの同級生、いわゆる腐れ縁ってやつだ。

「あら、しんちゃん。おつかれ?」

お疲れではない。まりの声を聞くは甲高く頭に響く。

「あっ、そうそう昨日の…」

なんでこいつはいつもこんなに脳天気なんだ。いつ殺人鬼が襲ってくるのかもしれないのに。高校の時からそうだ。いつも笑顔で鼻にくる。


「静かに、講義を始める」

教授が入ってきた。講義が静まり返る。

「みんな知っているとおもうが最近なにかと物騒だ。そこで、今日から大学の見回りのために警察の方が見回りにきてくださるそうだ….」

警察? 何故だ。


教授は話し終えると端にある壇上に立ち、講義の準備をしていた。


「えーと、まずは前回のおさらいを軽くしようか…」


PCをプロジェクターに接続できたのか、教授は講義を始める。これ以降、約1時間半。物理という荒波に身を委ねることとなる。


###


夕方、16:45。今日の最後の講義も終わった。しかし、夕飯まではまだ時間がある。いつも、早めにその日の講義が終わるといつも図書室で時間を潰す。図書室は今いる東棟の4階にある。階段を3階分上がり、図書室にむかう。図書室の前に置いてある小さなテーブルの前を通り、図書室に入る。図書室に入ると盗難防止のゲートが置いてある。ゲートをくぐり、図書室の奥の長テーブルを目指す。そこにくるのは、たまに見回りにくる司書さんだけだ。とても集中できる、レポートを書くにはもってこいの場所だ。今日も目当ての長テーブルには誰もいない。自分の荷物をおき、PCを開き、今日の講義の軽い復習と宿題であるレポートを作成する。いつも大体、2時間ほどいるびたる。 この時間はどちらかというと楽しいと思える時間だ。自分だけの時間、自分しか存知しない世界にいるよるような感覚に陥ることができる。しかし、今日は何かが違った。違和感がある。どこからか視線を感じる。後ろだろうか。いや、前だろうか。気にしないふりをする。レポートがちょうどいい区切りになり、データの保存をする。PCは何故か音をたたて暗転し、光の反射で自分が映った。「えっ嘘だろ」声がでた。その瞬間、映った自分の肩に黒い人影がだっているのが映る。驚き、後ろを振り返る。しかし、そこにはただ本棚に並べられた本があるだけだった。PCを見てみると、正常に動いており、レポートの保存は完了していた。気のせいだった。疲れているのか、背伸びをして腕時計をみる。時計は18:35を指している。夕食にしよう。PCやその他の荷物を片付けて図書室を出る。夕食はいつも食堂で摂る。食堂は今いる東棟の一階にある。フロアの隅にあるエレベーターにむかう。エレベーターを呼び出し、中に入る。さっきのはなんだったのだろうか。そんなことを考える暇もなく、一階に着いたようだ。エレベーターを出て食堂を目指す。食堂に着きカレーを頼んだ。食堂のおばちゃんからできたカレーを渡され、適当に近いテーブルに着く。熱々のカレー食べながらあの黒い影について考えた。結局、考えた末に生まれた結論は「分からない」だった。食べ終わり、食器を片付けて家に帰ることにした。

バス停に向かう。スマホを開いて掲示板のまとめサイトをみる。スマホのディスプレイには例の連続殺人事件についての掲示板がおおく纏められていた。バスのエンジン音が聞こえてきた。バスが来たようだ。バスに乗り適当に椅子にすわる。スマホには、「連続殺人は近くの大学の学生」とか、「連殺定期 次の犠牲者あてようぜ」みたいなものまであった。その中に、「黒い影が見えるんだが」というまとめが目にはいてってきた。覗いてみてると、最近、ふとした瞬間に黒い影が横切るのが見えるらしい。見えた日にかぎってあの殺人事件が起こるということらしい。さらに、この黒い影こそが犯人だという。黒い人影。今日あったことと何か関係あるのだろうか。


「つぎは、公園前」


降りるバス停だ。降車ボタンを押す。バズはしばらく走りバス停に停まる。このバス停は自分が今借りているアパートの正面にある。アパートの中に入り階段を3階分上がり、自分の部屋に入る。一人暮らしだから、部屋は暗く誰もいない。明かりをつける。カバンを適当に置き、ベットの前のテーブルにつく。テレビの電源をつける。ニュースだ。ちょうど、例の連続殺人事件についてやっている。


「連日世間を賑わしている沙羅市連続殺人事件について、新しいニュースが入っていきました。」

新しいニュースだと?犯人についての情報か、それとも。突然、今日の夢のことが脳裏によぎる。あの夢....

「残念なことに新しい犠牲者が出てしまったようです。」

そんな....。まさか...。夢では女性が...

「被害者は、斎藤 みのりさん。沙羅市の会社員です。被害者は...」

ナイフで首を刺される....

「首にナイフのような鋭利なもので何度も刺されたことによる出血性ショック死で亡くなったようです。」

またか。また、夢と同じことが現実になっている。それに....。

テレビでは、被害者の写真が写っている。黒髪の女性。そう、夢に見た女性その人だった。

最初の夢は、1ヶ月前。ちょうど、殺人事件が始める時。男性がアイスピックのようなもので刺される夢だ。2度目は、女性をバットで僕殺。3度目は男性を絞め殺すを夢を見た。そして、全てそれは現実になった。まるで、自分の夢の中に殺人鬼がいるのかようだ。


19:35。俺は、淡々と流される報道を聞くことしかできなかった。


# 次話「黒い予知夢 -前夜-」へ続く

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