夢という名の殺人鬼

空奈伊 灯徒

1. 非現実な夢

日が隠れた暗闇に街灯が灯る路地に僕はいるらしい。カッパを羽織っているのか、雨の弾ける音が聞こえる。それと、走っているのだろうか、息が上がっている音が聞こえる。誰かを探しているのだろうか。目の前には何か影が走っている。人影のようなものが見える。女性だ。


それは雨が降っているというのにカッパはおろか傘さえ持っていないようだ。女性の長い黒髪が雨に濡れ、街灯の光を反射している。綺麗だ。女性は具合が悪いのか、疲れているのか、少しふらついているように見える。懸命に走っている。まるで、死神から逃れるようにで走っている。女性は角を左に曲がる。僕は追いかける。僕はこの女性を追っかけているようだ。なぜ、この女性をおいかけているのかわからない。


僕は追いかけた。女性は転んでしまった。手に持っていた鞄から小さい瓶やタオルがコンクリートの上に転がってしまった。女性は疲れてしまったのかそこから動こうとしない。違う。ハイヒールが脱げてしまったのだ。女性は恐怖に怯えた表情が張り付いた顔でこちらをみた。僕は、微笑み女性のほうへ歩み寄った。死期を悟ったのように女性は力が抜けたように地面に座りこむ。

「やめて、お願い」

と、小動物のような声をあげている。しかし、雨音がこの声をかき消す。街灯に照らされた女性をよく見ると腹を押さえている。そこから赤い液体が雨で薄まり地面に向かって流れている。僕は、女性の前にたち、座り、目線を合わせる。そして、安心させるため、左手を女性の右肩に乗せる。女性は安堵をしたのか、表情がゆるむ。

「もう安心して」

僕はそう言った。女性は。

「じゃ...もう」

右手に持っているナイフを頭上に振り上げ、女性の首筋に刺した。

女性は声にもならない悲鳴を、断末魔を叫んだ。

「あなたはもう死ぬのだから」

女性に刺したナイフを抜きもう一度刺した。

「よかったね」

僕は何度も何度もナイフを女性に刺した。

まるで夢のように愉快だった。そうだ。この感触。

僕が唯一生きていると感じることができる瞬間とき


雨音が静かに見守る中、一人の女性のともしびは、消えていった。


#次話 「歪な日常」へ続く

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