4−6
足下に大きな穴が空いた――気がする。
認識する前に、わたしの体は真っ暗な闇に呑まれる。
落ちている。
どこへ?
わからない。ただ、重力に引かれて落下している感覚だけがある。
「眼を開けてごらん」〈蛇〉の声。
彼の言葉で、わたしは瞼を固く閉じていることに気づく。
薄目を開く。
半分に分かれた、二つの色。
一方が青で、もう一方が赤茶色。
「鳥をイメージして」〈蛇〉が言う。「君は今、鳥になっている。翼を広げ、風を切る姿をイメージするんだ」
やってみる。両方の腕を伸ばし、地面に対しうつ伏せになるよう体勢を整える。
できた。
落下が止まり、天地が定まる。青が空で、赤茶色が地面。
地面。
草木の全くない、砂と土と岩だけの世界。それが見渡す限り、広がっている。
ここは、どこ?
わたしはどこを飛んでいるの?
「君がいる場所の外側さ」〈蛇〉が答える。わたしの傍らを、羽を広げた黒い鳥が飛んでいる。
外側?
〈ほんとう〉のある世界?
肯定も否定もない。わたしが自分で気づくしかないのだろう。
やがて、眼下にちらちらと光の瞬きが見えてくる。
地面に被せるように置かれた半球状の硝子が、日の光を浴びて光っている。その硝子に、わたしは見覚えがある。
あれは。
あそこが。
わたしのいる、この場所。
半球状の硝子が下を過ぎていく。程なくして、遠くにも同じような光の反射が見えてくる。それも、一つではなく、二個、三個と。
意識して見渡すと、半球状の硝子は、赤茶色の大地にいくつも点在している。
そのどれもが、この場所。
世界を焼き尽くした人間たちが住むことを許された、唯一の場所。
これが、〈ほんとう〉のある世界?
この〈ほんとう〉なら、わたしは知っている。誰もが知っている。
「いや。よく見てごらん」
地上に目を凝らす。虫のような小さな影が、赤い地面を這っている。
蜘蛛。
だけど、本物の虫ではない。金属でできた、機械の虫。背中には銀色の箱を載せている。
「あれが君たちの世界を支えているんだ。あれがなければ、君たちは一かけのパンだって口にすることはできない」
あれには、人が乗っている?
答えはない。
硝子の外でも、人が生きているの?
答えはない。代わりに、〈蛇〉が言う。
「あれをごらん」
傍らの鳥が嘴で示した方へ目を向ける。
太陽。
日差しに目が慣れてくると、逆光の中に影が見えてくる。
楕円形。円盤だろうか。空中に、音もなく静止している。
太陽を背にしているせいか、神々しさを感じる。
同時に、言い知れぬ禍々しさも覚える。得体の知れない、わたしとは相容れぬことない、異物感。
あれは……。
「〈かれら〉だよ」〈蛇〉が言う。「君がいま感じているその気持ちを決して忘れてはいけない。それは確かに存在するものだから」
彼の声を聞きながら、わたしは長い間、煌めく円盤を見つめる。
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