第5話 聖女、旅に出る。

 



 私は旅する聖女……なんちゃって。




 私はフォール国の王城に聖女召喚された。

 ファンタジー大好きっ子としては、大大大興奮だった。

 だけど、その翌日に城が落とされた。どうやらこの国は戦争中で、しかもかなり悪い状況だったらしい。

 混乱の最中、聖女と気付かれず下働きの人達と一緒に城から追い出された。見た目がこっちの人と変わらないってのも理由として大きかったのかも。




 あてもなく城下町を歩いていたら「これで生活が楽になる」「独裁者が死んだ!」なんて、どう考えても慕われていなさそうな声が聞こえて来た。

 どうやら、私は駄目駄目な国に召喚されたらしい。


「さて。どうしよう?」


 手荷物はハンドバッグのみ。

 中身はおやつに食べようと思っていたスナックとチョコ、コーク、化粧ポーチ、動かないスマホ、役に立たなさそうな財布。あと、混乱する城内で拾った小銭や、盗んだ宝石やら。テヘッ。

 いや、盗んだって言うか、王様とか言う人が貢いで来たのよ? 「その方の働きに期待する」とか言って。ソレを貰って来ただけ。

 特に働いて無いけど!

 取り敢えず、これを元手に生活して行けるかな?


「止まれ! 身分証を提示しろ」


 はい、詰んだー。

 身分証って何? NYCのIDしか無いんだけど? 取り敢えず見せてみようかな。


「キャスリンか。よし、通っていいぞ」


 マジか! Thank God!

 何でか知らないけどIDで通れた。そして乗合馬車に乗ってみたら、隣国に行けた。ラッキー!




 宝石を売って資金を得て、更にその隣の国まで行ってみた。IDだけで全スルー。もしかしたら私には何かの魔法が発動してるんじゃ? とか、ファンタジーっぽい事を考えてみたり。だって私、聖女だし?




 とある国に千里眼を持つ聖女がいると聞いたので会いに行ってみた。

 またIDだけで厳重警備の神殿に入れた。待合室には偉そうなおじさんばっかり。しかも何かゴツい鞄に貢物が入っているようで重たそうに運んでる。

 ヤバい。私、貢ぐほどは持ってないよ?


「次の方、どうぞ」


 案内について行ったら、黒目黒髪の少女がいた。こっちの世界では全くと言って良いほどにいなかった黒い瞳と黒い髪の毛。


「……チャイニーズ?」

「ちゅーごく? ニホン人ですよー」

「「……へ?」」


 日本人の聖女と話して色々と解った。

 まず、私の能力はやっぱり認識阻害。あと、癒やしの力が少し。聖女なのに少し! そして、闇魔法も少し。聖女なのに闇魔法!


「もう、どっちかって言うと暗殺者の方が向いてない?」

「ウヒヒッ……」


 笑い上戸の聖女に他国の聖女の事も教えてもらえた。暇だし聖女達に会いに行くのも良いかも!?


 ――――よし、旅に出よう!



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オムニバス:とある世界の聖女達 笛路 @fellows

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