第2話 聖女は他国の聖女を覗き見たい。
――――私は聖女。
皆がそう言うのだから、そうなのでしょう。
五歳の頃にこの国に召喚されて二十年が経ちました。召喚された日、私は家族旅行でヒコーキに乗っていました。空を飛んでいたのです。なのに気付いたら白い神殿の大きな鏡の前で立ち竦んでいました。
私が五歳までいた国は、とても大きなビルが建ち並んでいて、何とかタワーとか、ゆーえんちとか、色んな所に家族と行って遊んだりしたのですが、それももう遠い遠い昔の記憶です。両親の顔さえ思い出せません。
今は低い建物が建ち並ぶサビーノ王国で、相談者を迎えるこの神殿だけが私の世界の全て。
とてもつまらない、息苦しい毎日です。
「はぁ……」
「聖女様、次の相談者が来られますよ! 姿勢を正して下さい!」
ソファにダラッと座っていましたら、女官に怒られました。
次の相談者様はどなたでしょうか。どうせお国のお偉方ばかりなのでしょうが……。
この世界は色んな国が異世界から聖女を召喚して、各国を牽制しあっているそうなのです。隣国を挟んだ先にあるオオミゴ王国では先日聖女召喚に成功したと発表があり、隣国との戦争が回避されたと聞きました。
「聖女様、先日オオミゴに呼び出された聖女の能力を占って下さい」
私の能力は『千里眼』魔力を捧げる量によって得られる情報が変わるのですが、神殿は献金の額によって捧げる魔力量を決めています。私はただそれに従うだけ。そして、魔力が尽きたら今日の営業はお終い。
今、この国の宰相が渡した献金から考えて、今日最後の相談者になるのでしょう。
他国の聖女というのも気になりますし、少し魔力を上乗せして覗いてみましょう――――。
「………………ブフッ。っ、くっ……ふひっ……」
何なんでしょうか!
オオミゴ王国の聖女が…………。
聖女が鼻に
物凄く豪快に、爽快に、浴びせています!
そして、浴びせられた患者様は笑顔です!
唾を浴びせられているのに、笑顔なのです!
……あ、光って怪我が治りましたね。
「っ……ぅうっ……」
「聖女様! 大丈夫ですか!? 何か、良からぬ事が!?」
「ひ、ひえ、大丈夫でふ……ハァハァ……」
どうやらオオミゴ王国の聖女は治癒能力のようですね。ですが、私の見たものは数ヶ月以上先の出来事のようです。今はまだ能力に目覚められていないのでしょう。早く目覚めて欲しいものです。
そして、どうかこのつまらない日常に、私に、笑いをお恵み下さい! 聖女様っ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます