21-Ⅷ ~熱い風評被害~
――――――数日後、藤井は釈放され、娑婆に戻ってきた。
が。そんな彼に対する世間の風当たりは、酷いものだった。
「……何だこりゃあ!」
学籍代を徴収しに『らぁめん がんてつ』を訪れた蓮と安里は、目を丸くした。
店に、びっしりと張り紙が貼られていたのだ。
「人殺しのいる店」「綴編のクズは出ていけ」「死ね」……
「ひっでえ! 何だよこれ?」
「なるほど、こうなっちゃいますかぁ」
張り紙を数枚手に取り、蓮たちは店の中へと入る。そこには、沈痛な顔をした藤井と、おやっさんがいた。
「おい、店の前のアレ……」
「言うな! ……言われんでも分かってる。ヨシキが戻って来てから、ずっとこれだ」
「悪戯にしては悪質ですね。無罪になったって言うのに」
「……誰も、信じてくれんのです。俺は……綴編の生徒ですから」
証拠不十分で無罪となった藤井の、世間からの評価。
――――――上手いこと無罪になったわね、あの不良。
――――――絶対犯人なのに。証拠の隠滅を図ったんだわ、きっと。
――――――控訴されるべきですよ。犯した罪は、きちんと裁かれないとおかしいと思います。
ニュースなどで見る世論は、風当たりの厳しいものになっている。
検察については割と同情的で、起訴は焦ってしまったもの。じっくり証拠を集めて、改めて裁判をやり直すべきだという意見が、ワイドショーなどでも多かった。
店も、剥がしても剥がしても貼られ続ける悪質な張り紙に、すっかり客足もなくなってしまったそうだ。
「……ひっでえ話だな、また」
「綴編高校の生徒って言うのが効いてるんでしょうね。彼等なら、何か悪どいことをやっていてもおかしくない。そんな評価なんでしょう」
「最近はそんなことして……させてねえはずなんだけどな」
「その前がよっぽど酷かったんですよ。僕らの想像以上に」
蓮たちが学校を乗っ取る前の宗教法人。反社の組織ともつながりを持ち、生徒がほぼ全員構成員みたいになっていたという。愛のかつての担任も被害にあったりと、町に植え付けた恐怖は計り知れないようだ。
……そんな連中は、もうどこにもいない。今の不良たちは確かにケンカはするし煙草も吸うし酒も飲む。が、少なくとも何の関係もないオヤジ狩りをするような奴らではない。不良同士のコミュニティ内で収まっているはずだ。
が、世間ではそんな事、お構いなしらしい。綴編の不良=犯罪者という図式が、刷り込まれてしまっているのだろう。有罪とか無罪とか、そんなことは関係ない。
「アニキ……俺、学校辞めます」
「は? 何で!」
「ここも……出ていきます。さっき、おやっさんと話して、決めました」
藤井の言葉に、蓮はぎょっとする。おやっさんの方を向けば、彼の方を見ようともしない。……どうやら、相当参っているようだ。
「これ以上、迷惑かけるわけには、行かないんで」
「でもどうするつもりですか? 行く当て、ないんでしょ?」
「それは……おいおい、考えます。正直、考えもまとまらなくて……」
藤井はそう言って、くしゃくしゃになった3000円を差し出してきた。店の金ではない、正真正銘、自分の金だろう。
「……これ、最後の学籍代です。学校には後日、退学届を、郵送しますんで」
「おい、藤井……!」
「すいませんが、お引き取りください。お願いします……!! どうか、お引き取りを……!」
やつれた表情で頭を下げられては、蓮も安里も素直に引き下がるしかない。
店の外に出ると、数人の大衆が蓮たちの方を見ていた。蓮がぎろりと睨むと、蜘蛛の子を散らすように逃げていったが。
「……どーなってんだ、こりゃ?」
「ちょっと聞いてみましょうか」
安里はスマホを取り出して、電話を掛ける。
連絡先は、谷場法律事務所の、谷場弁護士だ。
『――――――おやまぁ、そんなことになっているんですか、藤井さん』
「被告人の判決後のフォローは、しなくていいんですか?」
『そうは言いましても、大衆感情まではねぇ。さすがにエリートの私でも、どうにもできませんよ』
電話越しの谷場は、我関せず、といった具合で、あっけらかんと話している。
『私は法廷で、弁護士として果たすべき務めは果たしました。結果、被告人たる藤井くんは無罪になりました。それ以降のことは――――――ま、日頃の行いかと』
「日頃の行い、だと……!?」
通話を横で聞いていた蓮は、谷場のその言葉に、怒りで頭に血が昇る。
「テメェ、ふざけんなよ! アイツの日ごろの行いなんて、知ってんのか!?」
『……その声は紅羽蓮さんですか。ド底辺の綴編生の日ごろの行いなんて、想像すればわかるでしょう? 貴方だってそうなんですから』
「綴編っつったって、アイツは……!」
『ともかく。無罪判決を勝ち取った以上、こちらとしてできることはありません。あ、報酬の振り込み先は、もう藤井くんの自宅に送ってあるので。きちんと支払うように、一と言ってもらえます?』
「おい……!」
『じゃ、そういうことで。あのお嬢様にも、よろしくお伝えください』
そう言って、谷場との通話は、一方的に切られてしまった。
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――――――小説をご覧いただきありがとうございます。
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