21-Ⅶ ~判決~

 満を持して始まった、藤井芳樹の裁判。


 ――――――だが結論から言えば、ものっ凄いグダグダだった。


 何しろ、検察側の根拠が「被告人の自首・自白」しかなかったのだ。むしろ何でそれで起訴したんだよ、と、素人の蓮たちでも思うレベル。


 谷場もそれをわかっていたから、余裕だったのだろう。検察の言い分に対し「その証拠を提示してください」と言えば、黙ってしまうのだから。


 黙ってしまうと言えば、藤井もだ。なんとこの男、全ての質問に対して、黙秘を貫いた。


「……こんなの裁判になってないですよ。何の情報も、精査するレベルじゃないじゃないですか」

「確かに……」


 素人である蓮や愛の目から見ても、これは酷いということはよくわかる。


 あまりにもグッダグダな尋問、黙秘する被告人。裁判長も、裁判官も、明らかにイライラしているのが、傍聴席からでもわかる。


「……もういいでしょう」


 そして尋問など埒が明かないと裁判長は判断し、奥へと引っ込んでいった。裁判官と、量刑を相談するためだ。


 本来はここで量刑などの主張を検察と弁護側でするのだろうが、裁判長はそれすら不要と判断したようだ。


 どれくらいかかるか、と思ったが、裁判官たちはものの10分くらいで出てきた。当然、通常の裁判なら、到底あり得ない速さだ。それくらい、議論の余地がない裁判だったとも言える。


「……それでは、判決を言い渡します」


 すっかりやる気をなくしたような雰囲気の裁判長は、藤井に対して告げる。


「主文。被告人は――――――無罪」


 あまりにもあんまりな裁判だったせいか、リアクションは薄い。一応、愛と安里は、無罪という判決に拍手を送るが、ほかの面々は揃って無反応だった。


「法廷に提出された証拠があまりにも不十分であり、現状、容疑を判断できる状況にない。【疑わしきは罰せず】の原則にのっとり、証拠不十分で無罪とする」


 述べられた判決もあっさりしたものであり、法廷はあっという間に閉廷となった。


「いやぁ……とりあえず、無罪で良かったね! 蓮さん」

「ああ……」

「こんな杜撰な裁判、起訴した検事は懲戒ものだと思いますがねえ」


 本当に、何でこんな証拠もほとんどない状態で、起訴なんてしたんだろう。法廷で判決出されるなんて赤っ恥かくくらいなら、不起訴処分にでもすればよかったのに。


「やあやあ、お嬢様方!」


 法廷を出たところで大きな声に呼び止められた蓮たちが見やると、谷場と藤井が歩いてきていた。


「藤井!」

「……アニキ。ご心配、おかけしました」

「まったくだ」

「ご覧いただきましたか? 私の華麗なる弁護を」


 谷場はポーズを決めながら、安里たちに問う。そして、蓮の方を見やると、ニヤリと笑った。


「どうです? これがエリートの実力ですよ! 底辺の学歴の貴方には、できない芸当でしょう?」

「どっちかというと、お相手の無様っぷりの方が目立ちましたけどね」

「ま、かなり無理矢理起訴したというのは、こちらも聞いてましたから。そこを着けば勝てる、という確信はありましたよ」

「それでやけに余裕綽綽しゃくしゃくだったのか……」


 こうなることがわかっていれば、確かに無罪を確約する、なんてこともできるわな。


「とはいえ、まだまだ油断できませんよ。控訴もあるかもしれませんし」

「ですね。ま、私に引き続きお任せあれ、と、ご主人にも伝えといてください」


 それでは、と言って、谷場は歩き去ってしまう。カメラのフラッシュに包まれ慣れているのか、点滅する中よく普通に歩けるなあ、と、蓮はぼんやり思った。


「……蓮さん、やっぱり嫌われてない?」

「だよなあ……俺、アイツに何かしたっけ?」

「単純に低学歴が嫌いなんじゃないですかね」


 安里の辛辣すぎる一言が、蓮の胸を抉る。蓮はちょっと、膝から崩れ落ちそうになった。


「……学歴が何だってんだよ! 畜生め」

「で、でも、藤井さん。無罪、良かったですね!」

「はい……」

「あとは、一旦荷物をまとめてもらって、数日くらいで釈放されるでしょう。お勤め、ご苦労様でした」

「無罪の人に言うことじゃないわよ、それ」


 そんな、ゆるゆるな雰囲気で、裁判所を後にする。

谷場を取り囲んでいた取材陣も、先ほど蓮が思いっきりビビらせたおかげか、寄り付きもしない。ありがたい話だ。


「何はともあれ、これで一安心だな」

「……だと、いいんですがね」


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――――――小説をご覧いただきありがとうございます。


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