21-Ⅵ ~開廷~

「……少し、外が騒がしいようですが、時間です。これより開廷します!」


 裁判長の掛け声により、いよいよ裁判が始まろうとしていた。


 ちなみに、裁判と言えばよく見る、あの木槌。あれはガベルというのだが、実は日本では使われない。音が良く響くあのハンマーは、それこそ「静粛に!」と騒がしくなる法廷を静かにするときに使われるものだが、日本の裁判は割と静かなので、必要ないのだ。


 証言台に被告人である藤井が立ち、横の検察席、弁護人の席には、検事と弁護士が据わる。弁護士側でニヤリと笑っているのは、先日ラーメン屋で会った谷場たにば弁護士だ。


「……余裕そうな顔してるな、随分」

「よっぽど、今回の裁判に自信があるんですかね?」


 谷場の様子に蓮と安里が耳打ちしているうちに、裁判長が進行していく。


 日本の裁判、裁判員制度を用いた裁判は、主にこんな流れで行われる。


 最初に、冒頭手続。被告人が正しいかを確認し、その後検察による起訴状の朗読。これに対し、被告人と弁護人が意見陳述。


 一体、被告人である藤井がどんな罪を犯したのか。それにより、どの程度の量刑を検察は要求するか。それに対して藤井、谷場の両名はどう思うか。それを発表するのだ。


 検察が読み上げたのは、藤井という人物についての事柄。名前、職業、住所、本籍地。それから、公訴事実。一体どんな犯罪に於いて、彼は訴えられているのか。


 それは、暴行及び殺人。連続暴行事件と、最後、不動産会社の社員を殺してしまったことについてだ。


「……被告人。今の検察の意見陳述に、何か相違はありますか?」


 問われた藤井の答えは――――――沈黙。

 何も答えない藤井に、法廷は少しだけだがざわつき始める。


「おい、アイツ、何で何も言わないんだ?」

「黙秘……ですかね?」


 裁判長は藤井の俯いた様子に首を傾げながらも、今度は谷場の方を見やった。


「ふむ。では、弁護人はどうでしょう?」

「――――――弁護側は、本法廷で決定される結論に、一切の異議はございません」

「何ですと?」


 思いもよらない谷場の言葉に、裁判長は聞き返した。普通、検察の主張に異議を唱えて量刑を推し量るのが、裁判の常識のはずだ。


「ですが! 被告人は現在16歳。そして、に通う学生の身。未成年であることに加え、本件についていたく心を痛めており、自首という行為に至ったことを踏まえ、寛大な量刑としてくれることを望みます」

「……わかりました。では、これより審理を行います!」


 いよいよ、裁判の本番。事件の内容、証拠品を元に、尋問が行われていく。ドラマやゲームなどでも、よく見る場面の始まりだ。


 まずは検察による、冒頭陳述。事件の詳細な内容の説明から始まる。


「……まず、発端は今から2カ月ほど前に遡ります。深夜23時45分ごろ、徒歩市センター街から自宅へ帰宅途中だった、鶴田つるたひかるさん(45)が突如、背後から何者かに殴られ、全身を鉄パイプのようなもので殴られるという事件が発生しました」


 冒頭陳述と同時進行で、法廷のモニターに被害者の顔が映し出される。鶴田という男性は、結構老け込んだおじさんのようだった。


 鶴田という男性は、全治1週間のけがを負い、入院。犯人の顔も一切見ておらず、特徴なども暗くてよくわからない。ただ、財布やスマホなどの貴重品は、一切手を出されていなかった。


「次に、最初の事件から5日後。同じく徒歩市センター街から自宅へと帰宅途中だった諸羽もろは源一郎げんいちろうさん(53)が、同じく背後から襲われ負傷。こちらは、幸いにも軽傷で済みました。そしてそれからさらに5日後、神無月かんなづき郷雲ごううんさん(58)が襲われました」


 いずれも被害者が一人で歩いており、時間帯は23時30分から0時の間。方法も背後から固い棒で殴りつけ、倒れたところを滅多打ちにするというやり方から、同一犯として見られている。


「そして、1ヵ月前の面谷おもたに内和うちかずさん(48)を最後に、暴行事件はピタリと止んでいました。が、つい先日。とうとう、同じ手口、同じ時間帯で、死者が出てしまいました。それが、こちらの日向ひなたのぞむさん(35)です」


 モニターに映し出されたのは、ほかの被害者と比べると、随分と若く見える男性。確かに無精ひげなどで多少老けては見えるが、それでも他の人と比べると若者っぽいだろう。髪もふさふさだし。


「日向さんの死亡が確認された2日後、被告人が連続暴行事件の犯人として、徒歩署へと出頭しました。このことから被告人を連続傷害および殺人の罪で、無期懲役を要求します」


******


「安里さん、無期懲役って……!」

「実質終身刑みたいなもんです。まあ、何人もボコボコにして、一人殺しちゃってるんじゃねえ」

「言ってる場合かよ! このままじゃ、アイツ……!」


 思いの外重たかった求刑に、蓮たちはざわめいてしまう。そのせいか、周りからは白い目で見られてしまった。


「あの弁護士、本当に大丈夫なんだろうな……?」

「さて。お手並み拝見と行きましょうか」


 蓮たちがジロリと見ているのに気付いているのかいないのか、谷場はジャケットの襟を正しながら、尋問を始めようとしていた……。


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――――――小説をご覧いただきありがとうございます。


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