21-Ⅸ ~【疑わしきは罰せず】の罠~

「……何だあの弁護士! ふざけやがって!」


 通話を切られた蓮は、思わずスマホを握り潰してしまった。「あー、壊さないでくださいよ」と言いながら、安里はそのスマホを「同化」で復元する。そもそも、彼のスマホだ。


「まあ、弁護士としての義務は一応果たしている……んですかね? 無罪になった以上、これ以上を求める理由もないのは確かでしょう」

「でも、こんなの、なんも解決してないのと一緒じゃねーか!」

「……解決、ですか……」


 安里は蓮の言葉に、ふむ、と少し考えこんだ。


「? ……何だよ、何か気になることでもあるのか?」

「そう言えば蓮さん、裁判所で、マスコミに囲まれたって言ってましたね」

「ああ、囲まれたけど」

「その時聞かれたんですよね? って」

「言われたな、そんな事」


 実際違うし、重い違いも甚だしい。今思い出すだけでも、憤慨しそうなものだ。


「つまり、藤井くんが

「そうか? ……あ、そうか」


 蓮は悪名高い綴編高校の番長。それが黒幕なら、綴編の不良が動くと、普通は思う。逆に言えば、綴編の生徒だから、蓮黒幕説なんてものが浮かび上がったのだろう。


 だが、それはおかしいはずなのだ。


「だって、藤井くんは、ほとんど学校になんて来てませんよね?」

「……あ」


 他の幽霊生徒たちもそうなのだが。


 学校に来ていない綴編生は、自分が綴編高校の学籍を持っていると、周囲に言うことは基本ない。知られたとしても、学校には行っていないことを強調する。


 あんな不良校に通ってるなんて、思われたくないからだ。……蓮もその考えに至り、ちょっと悲しくなるけれど。


「なのに、なのにですよ。今回、藤井くんが綴編高校の生徒であるということが、やけにフィーチャーされていると思いません?」

「つまり……?」

。それが、目的だとしたら?」


 安里のその言葉に、蓮は背筋がぞわりと粟立った。


「……おい、まさか……!」

「仮に藤井君が本当に無罪だとして。……真犯人に、身代わりにされたということになりますね」

「……でも、判決は無罪だろ? だったら身代わりなんてなってないんじゃねえの?」

「……綴編高校」


 それが、身代わりの決め手になったと、安里は考える。


 綴編高校の生徒というレッテルがあれば、たとえどんな判決となったとしても、周囲からの悪感情はなくならないだろう。


 つまりそれは、藤井にずっと疑いの目を向けさせることが出来るということになる。


「おいちょっと待てよ! それって……綴編の奴なら誰でも良かったってことか?」

「その可能性もあるってことです」

「ふざけんなよ! そんなの……そんなの、あんまりじゃねえか!」


 もし、この事件がこのまま、証拠不十分で無罪が確定したとしたら――――――。


 これから先、どんな犯罪でも、綴編高校の生徒がスケープゴートにできてしまうではないか!


「――――――【疑わしきは罰せず】。司法における冤罪を防ぐための考え方ですが、だからと言って疑いそのものは晴れないんですよね。むしろ人によっては、さらに疑惑が深まるだけです。今回はそこを狙われたということですか」

「そんなの、到底許せるわけねえだろ!」

「なんだか急に、この事件を解決しないといけない必要が出てきましたねえ」


 これはもう、藤井だけの問題ではない。


 綴編高校、そしてその学校の学籍を持つ者。すべてに関わってくる、大問題だ。


「……藤井アイツを、完全無罪にしなきゃならねえ!」


 そうしなければならない理由が出来てしまった。はっきりと無罪である証拠を提示し、主張をしなければ、これからも彼は、一生疑われ続ける――――――!


「そうなると、控訴して裁判を続けないといけません。……しかし、それは難しいかもしれませんねえ」


 控訴するなら、普通に考えれば検察だ。だが、今回の裁判でけちょんけちょんにされた上に、本当に藤井が犯人でもない限り、藤井の有罪を証明するような証拠など、出てこないだろう。


「そうなれば控訴はされない。そして弁護側ですが、無罪という判決は獲得しているわけですから――――――」

「控訴する理由なんて、ねえってか……!」


 日本の法律では、判決が下された日の翌日から14日――――――2週間以内に、控訴するかしないかを裁判所に提出しなければならない。


 なので、藤井の無実を証明するには、あと2週間しかない。


 それまでに、彼が完全無罪だという根拠を見つけ、谷場に控訴をさせなければならない。


 平たく言えば、無理ゲーにもほどがあった。


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