第7話 貴族ではなく平民


「思い出したようですわね。ジャンが貴族になるには他の貴族家に婿入りするしかないのですが、そちらの方は娼婦として娼館で働いていたと調べがついていますわ。となれば、例えジャンがその方と結婚されても身分はお二人ともに平民ですわね。もちろん、お二人の間に生まれた子供も身分は平民ですわ」


 他にも貴族になる方法として、騎士や王宮文官になれば一代限りの爵位が各個人に頂けますが、ジャンにはまずその資格がありません。だって、学園に入学し卒業資格を得ることが騎士や王宮文官に就く最低条件ですもの。


「へいみん、僕が…?」


「うむ、やっと自覚したようだな。学園に通っていればその者が卒業するまで身分はそのままとなるが、通っていないお前は十六歳となった成人以降、貴族ではなく平民となっている。それだけではないぞ、ボクス家に関してはすでにお前の籍を男爵家から抜いたと話があったのだ。関係のない我がモンド家の名だけでなく、実家のボクス家の名を語る事は二度と出来ぬ。それにも関わらず貴族を詐称していた事は、重大な罪。名を使われた我がモンド家とボクス家から、それぞれ裁判所へ訴訟を申請しておる」


「あらあら。先程の私が教えて差し上げた請求書にあった額だけでなく、賠償金も必要になりますわね? それにもしも両家と和解を望むなら、和解金も別途必要ですわ。出なければ、モンド辺境領とボクス男爵領に居られなくなりますものね。借金ゆめが膨らむばかりで、大変だこと」


 おほほ、と扇子で口元を隠しながら笑うお祖母様が、私の部屋で言っておられた手配。それがまさにこの裁判所への訴訟の件です。ボクス男爵家とはすでに話し合いが終わっており、後は被告人であるジャンに伝えるだけとなっておりました。裁判となるとその前準備が一番大変なのですが、さすがお祖父様とお祖母様ですわ。

 それに我が家だけの問題でもありません。


「私が学園に通う為王都で暮らしていた間に、モンド辺境伯であると詐称して、宝石店や飲食店等での支払いを我がモンド家に回しておりました事、先程の請求書のように証拠も揃えて全て確認済みです。これは身分の詐称だけでなく、詐欺という立派な犯罪ですわ。こちらは商家の方々から、お二人に対して別に訴訟の準備があるそうですわ」


「ふたり…? まさか私もなの?!」


「無関係と言い張るのなら、法廷でどうぞ。次期辺境伯夫人であるとして周囲に吹聴し、身分を詐称した上、商品や金銭を騙し取った覚えがないならば、ですが」


 商家の皆さんも合わせて訴えるという根回しも万全でした。貴族優先の為、我が家の訴訟が終えた後になりますが、身分詐称と詐欺においては、ジャンに対して怒っていた女性も同罪です。

 貴族と商家を敵に回しては、このお二人が今後幸せに暮らす可能性はゼロに近いでしょうね。


「…れば、」


「なにかしら?」


「君と僕が結婚すれば全部解決するだろ?! すぐに結婚しよう!!」


 どういう結論に至ったのか、突然のジャンの妄言に、部屋中の室温がグッと下がった気がします。冬はまだ遠いはずですのにね…。


 と言うか、何故結婚の話になっているのでしょうか? 候補から外れている上に、婚約者でもない事を理解したのではなかったのですか。


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