第6話 請求書
「貴方に離れをこちらから提供しておりましたので家賃は不要でしたが、衣服や食費など日々の暮らしには必要でしょう? 候補でさえなくなった貴方の滞在費は、これまで全てボクス家が支払っておりましたのよ。当然ですわね、孫の正式な婚約者ではないのですもの。我がモンド家が負担する義務はありませんわ。我が家の名で貴方が
「え、そんな?!」
「
ジャンの顔が段々真っ青から白になっていきます。隣の女性も白いままでしたからそっくりですわ。あらあら仲良しですわね。
いちいちどの店にどれだけ使ったか、なんて覚えてもいないのでしょう。貴族の買い物は現金を持たず、
お祖母様が笑顔のまま、支払先の金貸しについてと、各書類の束を扇子で示しながら品々と用途とその金額を伝えておられます。
……食費等もありますが、やはり気になるのは、たくさんの衣料品に化粧品、貴金属や宝石類等など、明らかに女性への贈り物が多い事。購入先も送り先も全て調べてあるので、幾人もの女性名が送り先に挙がれば…なるほど、愛人はこちらの
「ジャン、どういう事? 愛しているのは私だけじゃなかったの?」
「あ、愛しているのは本当さ! でもカレン、貴族は愛人を多く持つのが普通だから――」
「だからって私以外の――」
お二人の言い争いはともかく、まだジャンは気付いていないのかしら。
「先程お祖父様が少し話しておられましたが、そもそもジャンは貴族ではありませんわよ?」
「へ、はぁ?! な、何を言ってるんだ、ですか! 辺境伯になれなくとも僕は間違いなくボクス男爵家の、ろくなん、で……」
割り込むように話しかけた私に、自分で言いながら何か記憶に引っかかったのか、ジャンの言葉は尻つぼみとなって消えました。
「私は最初に確認したではありませんか、男爵位を譲られたのかと。貴方はそれを否定したでしょう?」
「……まさか、」
「十六歳で成人した貴族の家の者が受け継ぐ爵位が無い場合、その者は身分が平民となることは我が国の貴族法にて定められております。それぐらい、当然ご存知ですわね? 貴族法は学園の入学試験の範囲ですし、教師には特に勉強し覚えるよう言われたでしょ」
「そうだ、きぞくほう……!!!」
頭を両手で抱えて俯くジャンに、興奮したままの女性が肩を掴んで強く揺さぶりますが、彼には応じる余裕はないようです。
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