第5話 本題はここから
「ジャン」
私が名を呼べば、目を煌めかせて私を見つめてくる。
「これで貴方が候補から外れていた事、私の婚約者で無い事、貴方が次期辺境伯では無い事、どれも正しく貴方に伝わり、理解して頂けたわね」
もしや、私に助けてもらえるとでも思っているのでしょうか。そのような関係ではありませんのに。
「では、本日中に離れを出て行ってもらいますからそのつもりで」
「え? なんで…」
今にもショックを受けましたと言わんばかりですが、まだ理解していないのでしょうか。
「だって、貴方、もうとっくに私と何の関係もないでしょう? もちろん、その女性もその間の子も。使用人でもない無関係な人と共に暮らすなんてあり得ませんし、今貴方が住んでいる離れに関しても…お忘れかしら? 我が屋の離れを利用出来る期間は、私が学園を卒業するまでの間だけだと貴方と一緒に取り決めたでしょう?」
むしろ、離れの提案は私からでしたが、その期間の提案をしたのはジャンの方でした。恐らくは私が居ない間、ジャンにとって厳しい祖父母と一緒に過ごしたくなかったのでしょうね。離れを借りることで祖父母と別れて過ごし、私が帰ってきたら本家である屋敷に住めるようにしたかったのかも。
「そ、そう言えば…そうだったな。えっと…あ…で、でも、学園は四年制だったろ? まだ三年しか」
「私、飛び級制度を利用しましたの。ですので、三年で卒業しましたわ」
ちょっとだけジャンが明るい表情を見せましたが、被せるように告げた私の言葉にすぐ消えました。
女性の方は青を通り越して、もはや白いですわね。
「あぁそれと貴方達の離れに置いてある私物に関しては、こちらで回収し返済に充てる話になっておりますので、そのまま着の身着のまま出て行って頂けますか」
「は? ちょっと、待て――いや、待って下さい、なんで急にそんな話になるんだ、ですか」
あら、少し言葉使いを正して来ましたわね。ようやく立場を理解し始めてくれたようで嬉しいわ。とは言え、遅すぎる理解ですが。今までの話は、本当なら前もってジャンが知っておかなければならなかった事です。
本題は、ここから。せっかく貴方から機会をくれたのだものね。
「貴方が今日ここへ来なければ、先程の話しも含めて後日に時間を設けて話そうと思っていたのですが、もう全部済ませてしまいましょう。ジャン、今まで我が家の離れで暮らしていた滞在費と、貴方が町で
声を掛ければお祖母様は笑顔で、右手に持つ扇子で軽く左手をポンと叩きます。それを合図に我が家の優秀な執事がスッと、各書類を机の上に並べ始めました。
仕訳済みのようですが、まるで歴史書のように分厚い紙束ですね。いえ、手紙である程度は知っていても、いざ実物を目にしますと、めまいが起きそうですわ…。
「これは…?」
「あらまぁ、見て分からないのかしら? これらは貴方への支払いを求める書類、請求書ですわ」
領地に関してはお祖父様が中心となって手堅く治めておられますが、我が家の内情――家を維持する為の金銭関係や従者等の雇用等、モンド家の生活――に関わる事に関しては、辺境伯夫人として復帰したお祖母様が采配しておられます。なのでここはお祖母様に任せましょう。
正直言って帰ってきたばかりの私では把握しきれていない部分が多くありますもの。応接室に入るまでにある程度お祖母様と打ち合わせはしておりますが、やはり時間が足りませんでした。
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