第4話 ボクス男爵家


「は…な、何を言って…?」


「お前が、十四で学園の試験を落ちた時。その時までは確かに候補のままだった。だがその後、学園でなくとも勉学は可能だと離れと教師を提供したら、すぐに女遊びを始めよって…。その時点で、婚約者候補不適格として当然候補から外しておるわ」


「何を勝手に! 僕はそんな事を許可してないぞ!!」


 バンッと机を殴りつけ、叫ぶジャンですが…。勝手も何も、婚約者候補としていながら、愛人を作る男をどうして候補のままにしておく必要があるのでしょうか。それに許可ですって?


「ほう、許可してないとは…まるで上位の者であるかのような言い分だな。随分偉くなったものよなぁ? ディアナが相続するまでの一時的な復帰ではあるが、お前は、いつから、この辺境伯、ラピス・モンドより、立場が上になったのだ?」


「あ……そ、いえ! そんな事は、その、ありません、ので…えと、その…」


「大体この話のどこにお前の許可がいるのだ、愚か者。言っておくが、候補から外した正式な返答はすぐにボクス男爵に伝えたぞ。あくまでも候補でしかなく、正式な婚約を交わした訳ではないのだ。候補の段階であればただ事実をボクス男爵家の当主に伝えてそれで終いよ」


 お祖父様のおっしゃる通りです。それに当時はまだ未成年であった事もあり、親であるボクス男爵に伝えれば終わる話だったのです。貴族の婚約に関わる話は家の事情がどうしても絡みますので、当主である親が子へ伝えるのが一般的ですもの。ただ、信じられない事に、ジャンはその当主からの実家への呼び出しも無視して遊び暮らしていたようですが。


「そんな話…聞いて、ない…聞いてないです!」


「聞こうとしていなかったのは、貴方でしょう? 本来ならば親であり当主であるボクス男爵が責任持って伝える事でしたが、腰を痛めてこちらに長旅が出来ない男爵に代わって、何度も私と主人は貴方を呼び出して伝えようとしましたし、手紙にしたためて伝えようとしました。代理人として男爵が寄越した使者からの言葉も伝言も全く聞かない貴方の為に、です。男爵家からの手紙どころか迎えの馬車まで無視し、ご実家へ送り出す為に用意した我が家の馬車も、専属の御者を無理矢理降ろして勝手に乗り回してらしたわね」


 ジャンは必死に否定しておりますが、お祖父様とお祖母様だけでなく、ボクス男爵家の皆さまもこの六男ジャンには相当手を焼いていたご様子。


 ボクス男爵は現在、当主とその奥様と嫡男の三人しかおりません。他の兄弟はすでに婿入りしたか王都で仕事を見つけて自立し働いていると聞きます。当主の代わりとなれる奥様は幼い頃の病気で足を悪くしており、やはり長旅は出来ません。当主は健康そのものでしたが、ある日溺愛している奥様を抱きかかえようとして酷いぎっくり腰になられたとか。幸い、嫡男が家を支えてくれているようです。


 男爵領と我が領地では王都程は離れておりませんが、往復で二か月はかかるでしょう。実質男爵家を支えている嫡男は領地から動けませんし、男爵夫妻も身体の問題で難しい。仕方がなく、祖父母が伝える事にしたようですが、結果は先にあった通りでした。


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