第39話 仮の結成
「すまん‼」
翌朝。
アルが開口一番に謝ってきた。
何について謝罪しているのかわからず、理由を尋ねるとスタークたちと試験を受けることを約束したという。
せっかく昨日、断っていたのに……。
やってくれたな、このアホは。
「一体何を考えているのだアルバート? 我々はリーナの護衛なのだぞ?」
案にお荷物を増やすなというクーデリアの言に、アルはただひたすら平謝り。
「理由をお尋ねしてもいいですか?」
「あいつの事情を聞いて同情したのもあるが……こいつが、そうしろって言うから」
アルが胸元からペンダントを取り出し、俺とエレンだけがその意味をわかった。
「ペンダントが言葉を発するわけがないだろ。どういう言い訳だ」
クーデリアはアルのペンダントについて何も知らないため、彼女にしてみればひどい言い訳に映るだろう。
明確に決めてないが、このパーティーのリーダーは事実上俺だ。
俺がダメだ言えば、アルも渋々従うはず。
──が。
「……仕方ありません。つれていきましょうか」
「本気なのか? あの子たちは、シンシーやファルトのようなオリハルコンクラスとは違うのだぞ」
「わかっています。今さら断るのもかわいそうでしょう? ほら」
俺が指した先には、アルとクーデリアの言い合いを遠くから見詰める二人の男女の姿が確認できる。
クーデリアは何か言いたげに口を大きく開けたあと、何も言わずに溜息を漏らした。
「リーナが言うなら従おう。エレンは良いのか?」
「……うん。リーナが良いなら良い」
「そうか」
パーティーの四分の三が賛成ということで、クーデリアは白旗を上げることにしたようだ。
これから少しの間、クーデリアには負担が大きくかかるだろうから、試験が終わったら何かボーナスでも渡すとしよう。
「お二人とも、こちらに来てください。短い間ですが、共に試験を受けるのです。仲良くしましょう」
おずおずと俺たちの輪の中に入って来るスタークとマリサ。
クーデリアの怒りの姿を見たせいか、若干距離を開けている。
「改めて、自己紹介をしましょうか」
すごい今更なような気がするが、それぞれ簡単に自己紹介をする。
俺が貴族であること、クーデリアが王国騎士と聞いて二人は驚いていた。
まあ、貴族のご令嬢がギルド員をやっていればビックリもするか。
馬車の発車時刻が迫り、話の続きは中ですることにした。
「えっと、何で貴族様がギルド員なんてやってるんだ……ですか?」
敬語を使わないスタークを一睨みするクーデリアに思わず、苦笑が漏れてしまう。
「敬語はいりませんよ。私たちは同じギルド員なのですから。対等に扱ってください」
「……でも、リーナたちは銀クラスだからクラスでみればリーナたちが上」
エレンが余計なことを言ったが、気にせず話を続ける。
「貴族のしがらみが嫌で家出しました。ギルド員は元からやってみたいと思っていましたし、腕には自身があります」
これ見よがしに力こぶを作ってアピールしたが、スタークはやや懐疑的な目を向けている。
「言っておくが、パーティーで一番強いのはリーナだ。昨日のケンタウロスなら、五秒で木端微塵にできる。怒らせるなよ?」
《英霊召喚の儀》でも使わない限り、無理に決まってるだろ。
「……木端微塵じゃない。斬り刻んでモンスターの餌にする」
お前は俺のことを何だと思ってやがる。
マリサが微妙に恐ろしいものを見るような目で俺を見て来ているんだが。
「この二人の言うことは戯言だ。あまり信用しなくていい」
「ということは、リーナさんが一番強いということではないんですね」
「………………」
「あれっ⁉」
クーデリアがマリサから視線を逸らしたことで、バカ二人の話に信憑性が出てしまう。
多少恐怖を持たれるぐらいなら、指示しても無視するなんて起きないだろうからこれはこれでいいと割り切ることにした。
「今日、私たちがおこなう予定をお二人に話しておきます。といっても、やることなんて宿で荷解きをするぐらいですが」
「ってことは、迷宮は明日からなのか」
「はい。不平不満があればいつでも言ってください」
「あるのか?」
「あ、ありません」
クーデリアの圧に屈するスタークが少し気の毒のように思う。
これまでの態度があったから致し方ないか。
「あの、宿はもう決めているのですか?」
「リーナが手配すると私は聞いているが」
「もう手配済みですよ。《カローナ》に泊まります」
「「《カローナ》ッッ⁉」」
クーデリアとマリサが《カローナ》の名を聞いて仰天していた。
「か……何だ? 知ってるかスターク?」
「いや俺たちはいつも安宿に泊まってたから、そんな宿知らねぇ」
「知らないって、そんなわけないでしょ! テセリオで一番大きな建物! あれが《カローナ》よ!」
大人しい印象を受けるマリサが興奮する様子に、スタークは目を白黒させている。
「《カローナ》は貴族御用達の宿だ。しかも、予約は常に埋まっていてキャンセル待ちが多い。よく取れたな」
「少し伝手がありますから」
この時ばかりは、教会の威光はありがたい限りである。
「《カローナ》には大きな天然温泉があって、美白効果に冷え症、不眠症に疲労回復に健康増進と良いことづくめ。女性なら一生に一度は行きたい場所なのです! そんな素晴らしい場所に泊まるだなんて、羨ましいです……」
捲し立てるように言うマリサ。
温泉が好きなのか、《カローナ》に憧れがあるのか、その両方か。
「温泉に入るだけならできるかもしれませんから、頼んでみましょうか?」
「本当ですか⁉ 是非‼」
「わ、わかりました」
女性というのは、どうしてこうも温泉というものが好きなのか。
エレンやクーデリアとはそういった話はしていないが、教会の修道女たちがよく話していたことを覚えている。
大して変わらないと思うんだがな。
「よかったね、スーちゃん。憧れの《カローナ》の温泉に入れるよ!」
「憧れてるのはお前だけだぞ」
「あっ。覗きはダメだからね!」
「する気なのか?」
チャキっと鞘から僅かに剣を抜く音を聞いて、スタークは高速で首を左右に動かす。
「心配するなって、クーデリア。俺が引き込んだ手前、きっちり監視しておく」
「いや、やらねぇから! 監視なんて必要ねぇって!」
「……むしろ、アルのほうが危険、かも?」
「おいエレン。適当なこと言ってんじゃねぇぞ。見ろ、クーデリアもマリサもゴミを見るような目を向けてるじゃねぇか」
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