第21話 古城潜入

 作戦はこうだ。

 古城に潜入後、主を見つけ出してシンシーの《ダイヤモンドダスト》をぶつけて倒す。



 倒すことができなければ、情報を持って撤退。

 作戦は、シンプルイズベストだ。

 俺の魔法を使う機会がないことを祈るばかりだが。



 真夜中に潜入するということで、暗視が可能になる魔法に加え、各種支援魔法をかけられている。

 堂々と門を潜る──ことは当然としてあり得ず、塀を上って入る手段を講じる。



「噛み痕は、植物の種子を埋め込むための手段だったのね」



 教会から得た情報は侵入する前に言い、各自警戒を怠らないように伝えた。

 万が一にも寄生されて、連中のようになった場合は──口に出さなくてもいいだろう。



「グールではないことはわかりましたが、何と呼べばいいのでしょうか」



 クーデリアが名を何にするか提案してきて、どうすべきか頭を捻る。

 確かに呼び名は必要になるか。

 戦いの最中に、『あれ』や『それ』では伝わりにくい。



「植物人間でいいだろ」

「「「「却下」」」」



 ロープでよじ登り、周囲を警戒しながら塀を越えた。

 アルの植物人間はあり得ないとして、パッと思いついたのは寄生と聞いて、遠い地の言葉でパラサイトか。

 思いついた名前を提案すると。



「植物人間よりいいんじゃない?」

「俺の命名に文句あんのかよ」



 植物人間はセンスの欠片もないだろ。

 全員無事に塀を越え、周囲に敵がいないか確認をおこなう。



 魔法で確認することは可能だが、使用すれば、辿られてこちらの位置を把握されかねない。

 慎重に動こうと別の入り口を探している時──



『あら、誰も欠けずに来たのね。私が折角、人間の魔法を真似て作ったのに』



 村で聞いた声が、どこからともなく聞こえてきた。

 周囲には、地下で見た黒い靄は見当たらない。

 暗闇だから見えないということはなく、シンシーの暗視のおかげで昼間……というほどではないが、視界は良好である。



「お生憎様、あの程度の魔法じゃあ、私の防御魔法を貫通できないわよ」

「いや、そんなことねえ──」



 ゴスッと鈍い音がアルのほうから鳴ったが、気にせず、声の主の次の行動に注視する。



『まあ、いいわ。正面門から入ったら、入り口ごと燃やしてあげたのに』



 あからさまに開いていれば、罠はありません、何て思うのは無理があるだろう。



『それならそれで、こっちにも考えがあるわ』



 ペタペタ。

 硬い地面を裸足で歩くような音が聞こえてきた。

 どこからか。



 俺たちの周囲からではなく、声の主の音が通信を通して伝わっているだけかもしれない。



『城には、千を超える私の子供たちがいるの。他は、近くの街に向かっているわ。私好みの子供が増えるといいわね』



 街道を通った時、パラサイトどころか、モンスターに遭遇しなかった。

 迂回して街を……マイルズを狙っているのか。



「そんなに節操なく種子をばら撒いて、何が目的なのですか?」

『辿り着けたら教えてあげるわ。いろいろ、とね』



 話はこれで終わりとばかりに、地面が脈動する。

 また魔法攻撃かと警戒していると、地面を突き破って蔦が這い出てきた。



「うわっ!」

「リーナ!」



 腕に巻きつく直前、クーデリアの剣が一閃。

 蔦をいとも簡単に断ち切った。



「ありがとうございます、クーデリア」

「いえ。それよりも、これは……!」



「魔法攻撃ではなく、モンスターによる攻撃ですね。とどまっても、無駄な戦闘が増えるだけです。このまま城の中に突入しましょう!」

「そう言うと思って、用意していたわ! 《フリーズジャベリン》!」



 シンシーの頭上に、氷で造られた槍が形成され、連続で射出。

 古城の壁の一部を破壊した。



「出かした! 俺が先行して突っ切る!」



 軽快に走り出し、アルが道を塞ごうとする蔦を斬り飛ばし、道を作る。


「斬った端から再生していますね」



 アルと同様にファルトも蔦を斬り、斬り口から再生する蔦を見て厄介そうに眉を顰めた。



「この蔦の再生力……アルラウネ?」



 走りながら、該当しそうなモンスターに当たりをつけてみる。

 アルラウネは上半身は人間の女性で、下半身が木の根や植物である姿が印象的な植物型の代表的なモンスターだ。



 蔦を攻撃手段とし、再生能力があるのが特徴で、思い込みそうになる。

 だがアルラウネの再生能力はここまで高くなく、本体であるはずの上半身が見当たらない。


「こりゃあ、ヤベーぞ」



 壁の先には広い部屋があり、廊下が左右に分かれている。

 左の廊下に赤い双眸が複数見え、必然的に通る道は決まった。



「右ですか。シンシー、敵の大将はどこにいるかわかりますか?」

「でっかい生体反応は、下からね。左からは、複数の反応が集結中よ」

「下には他に何が?」

「わかんない。下の生体反応が大きすぎて、人数は不明よ」



 シンシーの索敵魔法により、概ね敵の居場所がわかった。

 索敵魔法は、相手の魔力に比例して反応が強くなる。

 シンシーも索敵魔法を受ければ、同じように大きく反応する。


「索敵魔法を使ったのかよ」

「すでに相手に、我々の動きはバレています。奇襲が通用しないなら、隠す必要もありませんよ」



 索敵魔法に引っかからないように、魔法で迷彩を施すものだが、敵はやたらと自分に自信があるバカなのか……あるいは実力者か。

 パラサイトたちは集団で古城を動き回っているようで、見つけては無駄な戦闘は避けて進んでいる。



 集団から外れて動いてないパラサイトが一人、二人は廊下に立っていた。

 あぶれたパラサイトは、粛々と処理していった。


 手当たり次第に、下へ行く道を探しているわけではなく、古城の造りは首都の城に近いようで、勤めた経験のあるクーデリアに地下への階段を探してもらっている。

 無駄に凝った構造で暗号を入力したり、石を動かしたりする必要がなければいいのだが。

 クーデリアに言うと、



「そこまで難しい構造にしますと、追うほうは大変な思いをするかもしれませんが、逃げる際にもたもたしてしまって敵に殺されますよ?」



 と返されてしまった。

 秘密結社へ強襲した時は、そういうギミックが多くて苦労したのに。



「クーデリア、どんな感じだよ」

「恐らく、この先を抜けた所に階段があるはずだ」

「ということは、敵も罠を張っている可能性がありますね」

「陰険なヤツなら、きっちり隠蔽しているはず……あっ」



 何かを見つけたように、声を上げるシンシー。

 階段を魔法で見つけた……わけではなく、会話の流れからして罠を見つけたのだろう。



「先に隠蔽している物があるわ」

「各自、警戒しましょう」



 進んでみると、何てことのない階段があるだけでおかしな点はない。



「何もねえじゃねえか」

「これだから素人は。あなたの近くのその壁、見せかけなだけよ」

「うおっ! マジかよ」



 アルが壁に手を伸ばせば、触れることなくすり抜けてしまった。

 壁は消えることなく、依然としてそこにあった。

 魔法の種別として幻惑魔法か。

 幻惑まで使うとか、相手は厄介極まりない。



「ちなみに、奥にはパラサイトが滅茶苦茶いるわよ」

「それを先に言え!」



 驚いてすぐに壁から離れるアル。

 そこを見計らってシンシーが、《フリーズウォール》という魔法で壁を凍らせた。

 厚さは十分あり、とてもパラサイトの打撃で破壊できるような代物ではない。



「よし、じゃあ行くわよ」

「ところでよ、この城にも儀式魔法は施されてないだろうな? さすがに城じゃあ、逃げるにも一苦労だぞ」



「ふん。ちゃんと、相手の隠蔽も解析し終えているわよ。断言するわ、古城に儀式魔法はない」

「シンシーがそう言うなら、安心ですね。僕が先頭で下ります」



 ここまで順調な行程。

 氷の壁をドンドン叩く音を意識から外し、地下へ続く階段を下りて行った。

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