第2話 リゼット

「国王親衛隊の1番隊隊長、アルフレッドだ」


俺は名乗った。

すると、黒いドレスの女も名乗った。


「隊長か…そうか。ならば礼儀だ、私の名は…リゼット。ここに来たのは、恨みでも誰の指示でもない。ただ、腐った臭いは大嫌いでね。」


「は、はは……何のことだ?」


「シラを切るのか? まぁいい、さっさとかかってこい。」


リゼットは、身構えなどしなかった。

ただ腕を組んだままだ。


俺は前に戦った時、遭遇した瞬間に首を斬られていた。

意識が残っているうちに、固有スキル『神速』で体の再生速度を早められたから生き返ったものの、厄介な相手だ。

この世界では、産まれた時からスキルという物をたった1つだけ授かる。

固有スキルと呼ばれるものだ。

ひとり1つしかないが、要は使い方次第だ。

俺のスキルは『神速』、元々は身体の運動速度を上げるだけのスキルだったが、意識をすれば細胞1つ1つの再生速度だって上げることができる。


この世界では、固定観念へ囚われず柔軟な思考ができるやつだけが強者になれる。

勝負は、常に相手の懐の探り合い。


固有のスキルがバレるということは、戦闘時に対策を取られ易くなる。

すなわち、命取りになるのだ。


だから、自分の固有スキルを簡単に口にすることは出来ない。

仮にもし相手のスキルが『鑑定』や『千里眼』だったとして、俺のスキルが既に相手にバレていたとしても、どちらもサポート系スキルのため、スキルを使った攻撃はできない。

逆に考えれば、スキル攻撃をしてくるやつは、全員相手の手札(スキル)が読めないのだ。


さっきの攻撃が斬撃だったということは、リゼットと名乗る女の武器は刃物か、それに近い攻撃系スキルのはず…黒いドレスを身に纏っている以外に装備がないことを考えると恐らくスキルだな。


一騎討ちなら都合がいい。

速さなら俺は負けない。

アルフレッドが剣を構えた。


「では、いざ参る!」


リゼットは、その言葉を聞いてもなお、一切動こうとはしなかった。

ただ、凍るような目でこちらを見ている。


『神速』を発動し、間合いを一気に詰め、剣の切先がリゼットの首を切断したかに見えた瞬間…


グシャッという鈍い音と共に、アルフレッドが握っていた剣は消え去っていた。

それも両腕ごと、まるで引きちぎられたかのように…

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