AV監督だったけれど異世界ファンタジーに転生しちゃったから女勇者をそそのかしてAV撮ってレベル1のままラスボスと戦うハメになった件
第13章:ラスボスが世界の半分をくれると言うのであれば、それを断ってまで正義に加担する理由を俺は持たない(第2話)
第13章:ラスボスが世界の半分をくれると言うのであれば、それを断ってまで正義に加担する理由を俺は持たない(第2話)
「穴」は想像していたよりも、ずっと小さな物だった。正直、拍子抜けだ。ギアガの大穴には、同じく剣を投げ入れた記憶があるが、あれはまさに大穴だった。しかし、この穴は違う。
「大人が一人、なんとかくぐれるくらいの大きさだね、これは」ナンジェーミンが言った。「僕にはちょっと小さいから、屈まないと中には入れないや」
「オレは丁度だぜ」ビンラディンが言った。「オレがピタリ賞だ」
「へっ」俺は片方の口角を上げて言った。「穴がガラスの靴なら、どちらにもお似合いだろうな。だが、そんな話をしに来た訳じゃない」
穴が出現した場所は、どうやら元々図書室だったと見える。片付けられずに横倒しにされた本棚が穴の周辺に散乱していた。穴の周りには、恐らく魔法使いや占い師だろう、賢しらな貌のゴブリン共が鹿爪らしい顔をして囲んでおり、穴に少しでも動きがあれば、なんらかの措置、恐らくなんらかの魔法をかける事が、すぐにできる体制が敷かれていた。また、魔物が出現した時に備えているのか、重装備の兵士の姿も見られた。
「おい、大橋さん、この穴からは、魔物は出現するのか?」
俺の言葉に、大橋さんは部屋の中で指揮を執るゴブリンに話しかけた。
「どうやら、この穴からは出てこないらしい。ただし、この穴の近くでは魔物の出現率が高い事が調査で解っている。それが、この穴が件のエクスカリバーの穴と判断した理由だそうだ。道理だろうな」
「そうか」俺は数回頷いた。それから、穴の方を改めて見遣った。穴の周辺は空間が歪んでいるように見えるし、穴自体は漆黒で中を覗く事はできない。「誰か、中に入った者は居るのか?」
大橋さんは、またゴブリンに尋ねた。
「この穴に入った者はいないようだ。現在、中を覗く方法を検討中らしい。まずはスライムなんかで実験をした後に、人選を行い、中の調査をする、という事だ」
「フロルよ」俺が言った。「ゴメちゃんの様子はどうだ?」
「さっきから全く動かなくなったよ」フロルが言った。「ゴメちゃんは、この穴にボクたちを導いてくれていたのかな。集落で会ったゴブリンたちは勘違いしていたのかもしれないね」
俺が気になっているのは、まさにその事だ。単純に勘違いしている可能性はあるが、それにしてはエクスカリバーに関する情報が具体的だった。あのゴブリンどもは、いわゆる『穴』は見つけていない筈。ただ、それは、穴とエクスカリバーが別々に存在している、という前提での推測だ。つまり、俺の仮説では、まさにこの『穴』の中にエクスカリバーが既に存在している。
「わたしが中に入ります」ミクルが言った。「わたしは、女勇者としての使命を負っているから…」
俺は嗤った。ミクルが、これを言い出す展開が予測できていたからだ。
「ミクルよ、君は自分の人生について、もっと我儘になるべきだ。この世界の宗教観やその理念についてはよく理解できていないが、特に君のような人間は、神のためよりも人のためよりも、自分の人生を生きるべきだ。だから、アトレーユが札束に物を言わせて与えた女勇者などという毒にも薬にもならない称号に縛られる必要はない」
「行かせて下さい。わたし、ここまで、何の役にも立っていないもの」
「女勇者として、はそうかもしれないが、占い師としては一番の犠牲を払っている。ミクルが行くのは合理的ではない」俺はミクルを制した。「寧ろ、この世界に関わりがない俺が行くべきだ」
「そんな…」
ミクルは息を飲むように言った。やれやれ。こういう局面では面倒な女だ。
「どうせ、ここから5回くらい俺が行く、ミクルが行く、というやり取りが展開するんだろうが、そんな時間がない事は君が一番よく解っている筈だ。だから俺が行く。俺と、ビンラディンが行く」
「おいおい、勝手に決めるなよ」ビンラディンが語気を強めて言った。「大体、回復魔法が必要とされているんだろ? オレが行く訳には行かないよ。ここに残って、ゴブリン達を手当しなきゃ」
そして、お前の充実した人生も発見できればいいがな。
「僕が一緒に行くよ」ナンジェーミンが言った。「僕の魔法なら何かあった時に役に立つだろうし、契約した給料分の働きをまだしてないからね。まあ、まだ1ゴールドも貰ってないんだけれどね」
痛い所を突きやがる。
結局、大橋さん、ミクル、フロル、ビンラディンを残して、俺とナンジェーミンとゴメちゃんで入る事にした。
穴に入る事について、大橋さんからゴブリン共に説明をしてもらった。すぐに許可できる事ではなかったのだろう、数人のゴブリンが集まって暫く何やら話を始めた。穴に入った瞬間に予測できない現象が起こって手がつけられなくなるのではないか、とか、魔王を刺激してしまうのではないか、などを話し合っているに違いない。やがて、年配のゴブリンが大判の本と羽ペンを持ってやってきた。成程、記録が必要ってことか。どのみち、数日以内には誰かが入るのだ。
穴に向かう前に、フロルはゴメちゃんの頭?を何回か撫ぜた。
俺は手綱を握り閉め、ゴメちゃんを先頭に穴に近づいた。ゴメちゃんは、拒絶することなく、穴に向かって歩を進めた。これは当然、ゴメちゃんを先に穴に入れて、出入りが問題なくできるかを確かめる為だ。もし、入って消えちゃったら、ゴメンな。
躊躇なく、ゴメちゃんは穴の中に入っていった。俺は暫く手綱を握ったままその場に静止し、その後に強く引き上げた。ゴメちゃんは、無事に穴から姿を現した。どうやら大丈夫なようだ。
俺はナンジェーミンと視線を合わせ、一度だけ頷くと、ゴメちゃんと一緒に穴の中に入った。ナンジェーミンは俺の肩に手を置いたまま、後に続いて入った。
「暗くて何も見えないな」俺が呟いた。「ナンジェーミンよ、俺の声は聞こえているか?」
「うん、聞こえてるよ。大丈夫」
「この距離で互いの姿が見えない程の暗闇とは思わなかった。ゴメちゃんが居なければ命を落とすところだ。声が聞こえているという事は、少なくとも空気は満たされている。時間が同じ速度で流れている保証はないがな」
このまま進めば、元の地球、時代、日本に戻れるんじゃないか、という幽かな期待もあった。
暫く行くと、目の前に白い扉が現れた。そうだ。この扉だけ、視認ができる。まさに、開けろ、と言わんばかりだ。
然し、妙だ。この扉、見覚えがあるな…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます