AV監督だったけれど異世界ファンタジーに転生しちゃったから女勇者をそそのかしてAV撮ってレベル1のままラスボスと戦うハメになった件
第13章:ラスボスが世界の半分をくれると言うのであれば、それを断ってまで正義に加担する理由を俺は持たない(第1話)
第13章:ラスボスが世界の半分をくれると言うのであれば、それを断ってまで正義に加担する理由を俺は持たない(第1話)
城壁内に入るのは、流石に手こずった。俺たち人間がこんなところにいる、というのは勿論だが、魔物の件もあり、門番には警戒された。大橋さんが随分話し込んだが入れてもらえず、仕方なく大橋さんを通訳に回し、俺が話す事で納得させた。交渉は単純で、俺が魔物の弱点について詳しい事を示し、その例を話しただけだ。
「私には交渉力がない…」大橋さんが言った。「申し訳なかった」
「自省できる人間を責められる程パワハラな世界観を、俺は生きてきた訳じゃない」俺が言った。「大橋さんは一切悪くないから、気にするな」
それで、大橋さんは、済まない、と言った。
「ゴメちゃんはどんどん進んでいくね」フロルが、ゴメちゃんの手綱に足を取られながら言った。「ここ、城壁の中だよ?」
「ということは、エクスカリバーは既に抜かれていて、ゴブリンの王様が持っているのかもしれないね」ナンジェーミンが言った。「だとしたら話は早いね。怖い目に遭う機会が一つ減って、ほっとしているよ」
そうだといいがな…。
「ここらで、アトレーユ6世と交信を計りたいところだが、流石に離れすぎたな」俺が呟くように言った。「この世界の電磁波がどういう物理法則で成り立っているか知らないが、電離層を活用できたとしても短波に対応していないトランシーバーの声は届かないだろう」
「確かに、ゴブリンの王様と会えるのであれば、アトレーユ国王に事前に連絡できた方がよさそうね…」ミクルが言った。「今は共通の目的があるから、ゴブリンの世界と人間の世界を近づける事ができるかもしれないもの」
流石、ミクルは学問を修めてきただけの事はあるな。恐らくアトレーユも同じ考え方をするだろう。魔王に対して部隊を編成するなら共同で行った方が効率的だし、今後の交易なんかを視野に入れてもメリットしか無い。
「レピーターがあれば良かったが…」俺が言った。「アルミホイルなんか手に入る世界じゃないだろうしな。ビンラディンかナンジェーミンの魔法でなんとかする方法があればいいんだが…」
「オレは無理だよ」ビンラディンが言った。「回復魔法しか出来ないもん」
レベル99の名前が泣くな…。
「何が必要なのかよくわからないけれど…」ナンジェーミンが申し訳無さそうな表情で言った。「僕の魔法で役に立つ事なら、なんでも協力するよ」
ナンジェーミンの魔法は、熱量の移動だったな…。丘の上で巨大な氷壁をパラボナアンテナ状に張れば、片道通信だがこちらの声くらいは届けられる可能性がある。
「解った。ゴブリンの親玉の出方次第で、協力願おう」
城内へは、すんなり通された。警備が手薄、というよりも、何やらそれ以外の事に人員がかかりっきりになっている様子だ。城壁の監視を強化して、それ以降は省略しているのだろう。ゴブリン共が慌ただしく駆け回っているのが解った。
「おい、大橋さん」俺が大橋さんに呼びかけた。「どうせ暫くここで待たされるんだろうから、あの駆け回っているゴブリン共のどれかを捕まえて、状況を確認してもらえるとありがたいんだが」
大橋さんは頷くと、割とさっきからゴブリン共の指揮に徹している、中間管理職っぽいヤツに声をかけ、話をし始めた。いい人選だ。そして、そんなに話し込むことなく、大橋さんは戻ってきた。
「私たちの予想通りと言ったところだ」大橋さんが言った。「つまり、『穴を捕まえた』そうだ」
大橋さんによると、こうだ。まず、穴は俺たちの仮説通り、通常一箇所にはとどまらずに、不定期に移動をしている。それも、不連続な移動をしている。今、まさに穴はこの城内にある。それを、占い師だの、魔法使いだの、とにかく総動員して、この場に留めておこうと画策しているらしい。それに、魔物も周辺で出現してしまうから、そちらの対策にも追われている、という事だ」
「エクスカリバーは? 王様が持ってるのかな?」
フロルが大橋さんに訊いた。大橋さんは、済まないがそこまでは訊けなかった、と答えた。
「エクスカリバーはまだだろうな」俺が言った。「もし、既に入手済みであれば、穴を留めておく様な危険な真似は不要な筈だ。となると、エクスカリバーは探索中、と言った所か。であれば、とっとと王様に話をつけてしまって、ゴメちゃんをエクスカリバーの場所に向かわせた方が得策だ。エクスカリバーを抜ける人材の確保も含めてな」
衛兵に呼ばれ、俺たちは謁見室に通された。国王が来るまで、部屋の調度品を見物したり椅子の座り心地を試したりして時間を潰した。特に椅子のスプリングは中々上出来で、技術力の高さを伺えると共に、何度か尻を弾ませて遊ぶに充分な品質だった。が、俺たちはそんなに待たされる事もなかった。
アンコンシャス・バイアスと言ってしまえば愚かな話だが、意外だった。入ってきたのは、白色のゆったりとしたローブをまとった、女性のゴブリンだった。つまり、女王様って訳だ。流石にきらびやかだ。装飾品が、という意味ではない。雰囲気が華やかという事だ。顔立ちは、人間の美的感覚から見ても美人に分類して差し支えなかろう。年齢は一切不明だが。
「ゴブリンの国王が女性だったとは畏れ入る。まさか、人間界よりもダイバーシティが進んでいるとは意外だった」俺は立ち上がると、言った。「おい、大橋さん、同時通訳を頼む」
「通訳は無用です」女王が言った。「私は、人の言葉も話せます」成程、国王とはなかなか大変な商売だと見える。「時間があまりありません。あなた方が得ている情報の共有をお願いします。私達は、魔王の復活に関して人間が得ている情報を欲しています。人間がどのような対策を行っているのか、エクスカリバーや穴についてどこまで識っているのか、エクスカリバーを抜ける人選はできているのか、などです」
俺は、勧められもせずに椅子に勢いよく腰を落とした。
「女王陛下、勿論、情報を共有させて頂く。その目的で俺たちはここまで通して貰えた訳でしょうからな。ただ、俺たちが命がけでここまでやってきた事も察して頂きたいですな」
俺は、上目遣いで女王と視線を合わせた。女王は、ふっ、と笑った。
「解りやすい方ですね」女王が言った。「いずれ、事が終われば人間とは手を携える機会を探る必要があると思っていました。貴方くらい明確な方が交渉事は容易というものです」
「カナヤマさん」ミクルが、語気を強めて言った。「今は、そんな事を話している場合では…」
「ミクルよ」俺は座ったまま手を上げ、ミクルの諫言を制した。「今だからこそ、そんな事を話している。ヒエラルキーの世界では時間をかければかけるほど、答えを得るタイミングと機会は遠ざかるばかりだ。何故か。平社員が課長や部長をすっ飛ばして直接社長に直談判しよう物なら、課長も部長も、自分は聞いていないとへそを曲げ始めるからだ。じゃあ課長から順番に攻略していくとすると、課長用の資料作成、何か指摘しないとまずい心境から生まれる本来要らない課長からの修正指示、部長用の資料作成、以下同様だ。あまりにも愚かなことだが、大人数で考え始めると必ず結論は下らないありきたりでどうでもいい物になる。つまり、その場に居る全ての人間の知識における最小公約数が結論となる。なぜなら、お互いに知っている知識の重なる部分以外で議論をする事はできないからだ。時間がかかりすぎる。だからこそ、今だ。目の前に最終決済者がいる。ここには、無駄な課長も、部長も居ない。このタイミングを逃して交渉をするのは賢者のすることではない」
「手短にお願いします」女王が言った。「そして、取引は貴方の持っている情報の価値を超える事はありません」
俺たちの情報に、大した価値なんかない。だが、俺は、ミクルとフロルを救い、ナンジェーミンとビンラディンに給料と実りある人生のライフプランを授け、アトレーユ6世を英雄に仕立て上げる必要がある。その最終目標が、ミクルとフロルをAVに出すことに帰結するかは、この際、どうでもいい。ん? ところで大橋さんは何で付いてきたんだっけ?
「俺の要求は大したことじゃない」俺が言った。「利害はあんたと一致するはずだ。つまり、俺たちのアトレーユ6世と会談をお願いしたい」
「会談?」女王が言った。「勿論、アトレーユ6世にその意志があるのであれば、こちらからもお願いをしたいくらいですが…。私は、貴方自身に、私欲があって私に交渉を持ちかけたのだと思いましたが」
俺は笑った。ゴブリンの女王からしても、そう見えるとは、有り難い人生だ。
「その通りだ」俺が言った。「だが、俺の目的は報酬を如何に最大化させるか、であって、今の所、人間の世界とは敵対しているあんたから金や物を無心しようなんて考えは、愚かだし、持ち合わせちゃいない。俺たちのパトロンは、飽くまでアトレーユだ」
俺の言葉に、女王は微笑した。
「成程、解りました」女王が言った。「ただし、国交を築けるかは、どれだけ対等な条件で交易をできるか、が重要。必ずしもあなた方の思い通りに行くとは限らない事は、理解しておいて下さい」
俺は、女王の言葉に、首肯した。
「アトレーユと話してくれるのであれば、俺の役割はそこまででいい。幸い、このあたりは平原だし、近くには小高い丘もあるようだ。明日の午前中に、一緒に丘登り頂く事を所望したい。丘の上であれば、離れていても会話をする機会を望める。つまり、俺たちは信じられないくらい距離が離れていても会話を成立させる術を持っている」
「丘…?」
女王は、丘である理由を理解できなかったのだろう、訝る様な表情を見せたが、最終的に快諾した。
「それから、もう一つ条件を提案したい」俺が言った。「穴やエクスカリバーとは別件で、あんたが調査を進めている物がある筈だ」
「調査を進めている物…」
俺はカマをかけたつもりはなかったが、女王は、実際に俺が何について言っているか解らない風だった。
「『箱』の事だ」
俺は語気を強めていった。正直、俺自身にとってはこっちの方が重要な可能性が高い。何故なら、俺がこの世界にやってきた事との関わりが少なからずある物体だからだ。
「そうですか…」女王が言った。「『箱』のことまで、あなた方が知っているとは思いませんでした。確かに、地方のゴブリンから拾得物として届けられました。現在はこの城ではなく、城下町の学府で学者たちが研究の対象として扱っています。情報が欲しいのであれば、学府を訪って下さい。最も、現在は人材が全て穴の確保に集中していますから、誰も深くは取り扱っていないでしょうが…」
俺は、女王に礼を言った。時間を作って箱について情報を集める必要がありそうだ。
必要な条件は引き出せた為、俺は女王に、人間回においては、複数の女勇者が斥候として派遣されていること、俺たちもその一部である事、ゴメちゃんがエクスカリバーの方向を誘導してくれている事、その結果、ここにたどり着いた事、エクスカリバーは剣ではなく四角い箱の様な物で神聖な場所に保管されているらしい事、エクスカリバー自体は誰にでも抜けるが、抜いて手挟んだままその神聖な場所から出ることは出来ないこと、などを話した。女王は、何度も頷きながら聞いていた。
「ありがとう、解りました。貴方が期待させる程、私どもにとって有益な情報ではありませんでしたが、同じ目的で行動していることが確認できましたし、必要な情報は揃いました」
「揃ったというと?」
俺が訊いた。女王は頷いた。
「まず『穴』自体は城内に既に確保できています。私達の魔法使いや兵士たちが尽力している限り、まだ数日は留めておく事ができるでしょう。次に、穴に必要なエクスカリバーについては、あなた方のスライムが導いてくれる。エクスカリバーを抜くに適した人材はまだ不明ですが、抜いて移動させる事さえ出来てしまえば、穴に挿す事は難しい事ではない。あとは、それを成した所で、魔王の存在がどう作用してくるか…ですが」
「ねえカナヤマ、ゴメちゃんだけど、エクスカリバーの場所を見失ったかもしれないよ」フロルが言った。「ここに来てから、ボク達を導こうとしないんだもの」
「それは解せんな…」俺が言った。「もしゴメちゃんが間違いなくエクスカリバーの場所を誘導していたとしたら、その状況から察するに、既にエクスカリバーがこの城に存在していることになる」俺は女王の目を睨めつけた。「女王陛下、俺たちに隠し事をしてやしませんよね?」
俺の言葉に、女王はクスクスと笑った。
「貴方はなかなか大した人ですね」女王が言った。「残念ながら、私が報告を受けている範囲では、エクスカリバーはこの城にはありません。でも、そのスライムがここに留まるというのであれば、間もなく入手できる可能性はありそうですね…」
成程、そういう考え方はできるか。
「どの道、時間はなさそうだ」俺が言った。「『穴』が消える前に決着を付けてしまいたい。まず、今日中にその穴を見物させて頂きたい。実物を見るのは初めてだし、何かヒントがあるかもしれないからな。それから、明日の午前中はアトレーユとの交信。これはナンジェーミンに協力を仰ぎたい」俺の言葉に、ナンジェーミンは笑顔を作って数度頷くと、何をすればいいか解らないけど、いいよ、と答えた。「ナンジェーミン協力の元、丘の上でアトレーユとの交信を試みる。その後、箱について調べる時間を欲しい。ここは場合によっては俺だけ別行動だな。エクスカリバーの捜索は大橋さんをリーダーに任せたい」
「何日か逗留される事になるでしょう」女王が言った。「城の中に部屋を用意させます。城下町の宿に泊まるよりは安全だし快適でしょうからね」
「それは有り難いな」俺が言った。「礼の代わりに、当面の労働力としてビンラディンを差し出すとしよう。俺たちご自慢の、回復魔法の権化だ」
「回復魔法を使える人材がいるのですか?」女王は目を輝かせて言った。「我々ゴブリンは苦手とする分野です。城内に穴が出現してしまった為に、多くの兵や能力者の人員を割いてしまっているし、怪我人も連日出ています。自然治癒できる怪我なら問題ないのですが、そうでない怪我の治癒のお手伝いを頂ければ…」
「お、オレはやだよ!」ビンラディンは、自分に向けられた俺達の視線に後ずさりしながら言った。「致命傷患者の治療ばかりしていたら、オレが死んでしまうよ」
「いい機会だ。ゴブリンの言葉も覚えてしまえばいい」俺が言った。「治療する事で芽生える愛もあるかもしれんぞ」
「愛…?」一瞬、ビンラディンは考え込む様な素振りをしたが、すぐに大きくかぶりを振った。「ダメダメ、兵士なんて男ばかりだろ?」
気づいたか。否、国王が女性であれば、意外と女性部隊の編成に積極的な可能性もあるぞ。
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