第9章:抜けるAVを数多く作ってきた俺が抜くハメになるとはな。エクスカリバーを。(第3話)

 護衛が集落の住人全体に俺たちの事を説明してくれたお蔭で、警戒はされるものの、比較的自由に出歩ける用になった。俺はナンジェーミンに指示と金を与えて、フロルを仕立て屋に連れて行かせる事にした。服を買って貰えると思ってウキウキしている感じは、完全に女の子だな。俺はナンジェーミンに、戦闘を想定した動きやすい服2着と、女の子らしい服を買い与える様に言った。件のゴブリンの中央府で探した方が選択肢は増えるだろうか、調査に行ったというゴブリン共を待つ為に数日は逗留することになるだろうし、中央府に行くまでにも戦闘のリスクがあるから、ここで調達するのが懸命な判断だろう。支払いに関して、通貨が共通でなかろう事に一抹の不安を覚えたが、硬貨は銀や金だ。流石に兌換の仕組みはあるだろうな。

 その間に、俺はミクルと共に集落の占い師の許を訪ねる事にした。本当にこの世界では占いという物が生活に溶け込んでいる。ゴブリンが治めるエリアに入っても沐浴場が変わらず見つかる事を不思議に思っていたが、この様子だと占いは人間とゴブリンの共通の文化のようだ。つまり、町内会長が言っていたとおり、両者は元々同じ種族だったか、分化した後にどこかで文明を共にした可能性が高い。そういった歴史が失われているのは解せないが、紐解いていくのは面白そうだ。因みに、ビンラディンはゴブリン共と自然と打ち解けたので放って置くことにした。俺たちの予想を裏切らない奴だ。

「占いでは天気予報はできるのか?」

 歩きながら、俺がミクルに話しかけた。

「やろうと思えばできるかもしれないけど…」ミクルは少し悩むようにしてから言った。「やったことはないかな。どうして?」

 俺は、ははは、と笑った。

「俺のいた世界では、朝起きてすぐにテレビの電源を入れる。するとニュースキャスターや気象予報士が言う。今日の天気は晴れ後曇り、とか、最高気温は何度、とかな」

「すごい!」ミクルは驚いて言った。「わたしたちの占いとは比べ物にならない程、高度な予言がされているのね」

 そうだな。確かに、高度な予言かもしれん。ミクルは、占いの能力を直感力と沐浴による占いに分けて説明していた。もし天気予報に本格的な占いが必要だとすると、余程の不作や飢饉でもなければ寿命を削ってまではやらないのだろう。そして、俺はなんとなく気づいてしまったが、ミクルがあまりにも完璧に美しく、かつ巨乳に成長しているのは、占いによる環境要因からの影響がない発育が、多少なりとも関係しているのかもしれない。

「ミクルよ、君の期待に沿えなくて申し訳ないが、天気予報は占いではない。人工衛星による気象データの蓄積によって外挿された統計的データに過ぎない。強い相関がある、RスクエアやP値の適切な範囲の多くのサンプルがあって初めて導き出される論理的帰結という訳だ。翻って、その天気予報の後に、血液型占いや星座占いが入る。今日の運勢は、とか、ラッキーアイテムは、とか言うやつだ。こっちも経験則以外に定量的なデータを活用していると思われるが、残念ながら統計的に有意な相関はないと見える。扱いが完全に疑似科学だからな」

 ミクルは、歩を少し緩めながら、興味深そうに頷いて聞いていた。

「この世界は、カナヤマさんが居た世界よりも文明的な発展がだいぶ遅れているんでしょうね」ミクルが言った。「でも、物理の法則であったり、数の学問や社会学みたいな物は、充分な熟度ではないかもしれないけれど、研究がされているし、わたしも学校で習ったの。だから、占いも魔法も、この世界の物理的な法則として説明ができるものばかり」

「なるほど」俺が言った。「どうやら、こっちの世界では、占いの確からしさが論理的に立証されているらしい」

 ミクルが、その解釈で間違っていないと思います、と頷いた。となると、単純に地球とは違う星、というだけではない可能性があるな。物理法則に差分があるとすると、そもそも宇宙自体が異なる可能性を否定できない。問題は、どうやって俺がそんな移動を果たしたのか、だが…。

「だから、占い師のお仕事は、わたしたちの世界ではとても大切なんです」

 しかし、それは自分の命を削ってまで大義を担う必要がある対象なのか。

「何故、君は占い師になろうと思った。その運命を受け入れた」俺が言った。「ビンラディンの回復魔法は見るからにハズレくじだが、それ以上にこの世界での占い師の在り方は哀れだ。正直『処女の女勇者』という記号の塊に対して俺は懐疑的だ。それが国策による重要な占いに依る運命だとしてもだ。君のような、客観的に誰から見ても魅力的で若い少女であれば、何人もの恋人の経験があってもおかしくない」

 俺の問いに、ミクルは首を傾いで、少し寂しそうな笑顔で答えた。


「やあ、カナヤマ」

 ビンラディンの声がした。向くと、複数のゴブリンに囲まれてニヤけているビンラディンが目に入った。どうやら、集団暴行に遭っている訳ではなさそうだ。そして、周囲は全員女のゴブリンだ。

「お前の上機嫌を久々に見た気がする」

 俺が言った。

「そりゃそうだよ」ビンラディンが答えた。「今までの人生で、こんなにモテた事なんかなかったからね。まあ、彼女達が何を話しているか解らないんだけれど」

「そうか。それはめでたいぞ。俺のいた世界では、モテない男がそうやって言葉が通じない外国人に言い寄られて結婚詐欺に嵌められるパターンを何人か見てきた。残念なのは、こっちの世界でも同じ場面に出くわすのは胸焼けがする、って事だ」

「精々笑ってなよ」ビンラディンが言った。「最終的にオレの心はフロルちゃんにあるんだからな」

「お前のロリコン趣味について深堀りする気はないし、どこまで本気なのかを問いただす気はないが、ゴブリンとお前とのカップルはそれなりにお似合いだと言うことは第三者的目線から請け合っておこう」

 ミクルは微笑みながら、ビンラディンに小さく手を振った。


 占い師の家の入口で、大橋さんと合流した。通訳が居ないと話にならないからな。それに、先に話をつけておいてくれているから、スムーズだ。

 占い師は、やはり女だった。否、正直、俺たちからすると、ゴブリンの男女差は人間の男女差程外見から明確ではない。部屋には生活感がなく、家族の気配もないから、独身なのだろう、と思った。そこそこ年齢は行ってる感じがする、あと、間取りからしてこの家には沐浴施設が備わっている。処女であることが占いの精度を高めるのであれば、この集落では自己犠牲の象徴的な存在で、名士なのだろうな。

 ミクルを見るなり、同職者であることが解ったのか、同情の入り混じった微笑みを見せた。ミクルは小さく頷いた。

 言葉は通じなかったので、大橋さんに間に入ってもらった。俺たちは、エクスカリバーと大穴の在り処について占っている事があれば知りたい、と伝えた。

「エクスカリバーについては明確な答えは占いでは解っていないそうだ」大橋さんが通訳した。「ただ、その方角と距離感については調査に出ている集落のゴブリンチームに伝えているから、戻り次第尋ねる事ができる」

「なるほど。そういう経緯だったか」俺が言った。「となると、大穴についても同じ様に調査隊を送っているのか?」

 俺の言葉を大橋さんが通訳して占い師に伝えた。かぶりを振った事で、大穴についてのヒントは望み薄だという事が解った。

「穴については難しいそうだ」大橋さんが言った。「方角や距離が安定しないらしい。占う度に違う場所を指してしまう」

「まるで樹海の方位磁針だな」俺が言った。「もし、エクスカリバーに対する占いが安定するのに、大穴に対する占いが安定しないとなると、占いの効かない魔力かなにかが働いているのか、または本当に神出鬼没で穴は偏在しているのかのどちらかだろう」

「偏在している…か…」ミクルが呟いた。「大穴の場所を占った回数や、その時の指し示された位置は解るんでしょうか?」

 大橋さんの通訳に、占い師は頷くと、机の抽斗から中版の羊皮紙…と言っても羊の皮かは知らんが…を取り出した。そこには簡易的な地図が描かれており、過去の占いで示した方角や距離と思われる内容が書かれていた。ミクルは口許に手をやると、考えるように神妙な表情を見せた。

「そうか、法則を探しているのか」

 俺がミクルに言った。ミクルは頷いた。

「これを見ると、10回ほど占いをしているみたい。大変だったろうに…」

 ミクルが言った。大変だった、とはつまり、それだけ体力も使ったし命も削った、という事だろう。

「10サンプルではなんとも言えんな。この地図を見る限り、これといった法則性はなさそうだ」

 ミクルが首肯した。

「2つの方法を試してみる価値はありそうね…」ミクルが言った。「1つ目は、この占いの結果と、何か他の指標との相関を探ってみること。時間とか、星の位置とか。2つ目は、もっと試行回数を増やすこと。それなら、わたしも手伝う事ができる…」

「おいおい、俺は反対だ。君が目の前で日に日に老けていくのを見るのは精神衛生上良くない」

 それに、本当に老けすぎると6世やビンラディンやナンジェーミンの期待を裏切る事になるからな。俺は可能な限り、ミクルに本格的な占いをさせたくないんだ。

「魔王の力が世界を覆うまでに、時間がどれくらいあるかは解らないが、焦るのも良くない」大橋さんが言った。「まずは、エクスカリバーの追加情報を待とう」


 占い師の家から出ると、ナンジェーミンとフロルが、ビンラディンおよび女ゴブリン達と何やら盛り上がっていた。フロルは俺たちを見つけると、駆け寄ってきた。手には、何枚かの生地を持っている。

「カナヤマはどれがいいと思う?」フロルが訊いてきた。なるほど、何色の生地で仕立てるか、という事で議論していたのか。「ボクは、このピンク色が断然いいと思うんだ。デイーヌさんも同意してくれるのに、ゴブリンの人たちはやめたほうがいい、って素振りをするんだよね…」

「お前に人生の教訓を一つ与えるとすると、それは『ビンラディンの言うことの逆を行け』だ。ゴブリン達が正しい」

「え~…。カナヤマもそんな事言うんだ」フロルは口を尖らせた。「姉さんはどう思う?」

 ミクルはクスクスと笑った。

「わたしは、フロルの好きにすればいいと思うけれど…」

「ミクルよ、フロルを甘やかすのは悪手だ」俺が言った。「このビビッドなピンク色は、どちらかというと色黒な肌に映える色だ。つまり、ゴブリン向きだな。それからこっちの薄いピンク。これは顔が地味なミクルならバランスがいいが、表情豊かで華やかなお前には意味がない。寧ろこっちの薄い青を選ぶべきだ」

「ちぇ、青かあ…」フロルは拗ねる素振りを見せた。「男の子みたいになっちゃうじゃないか」

 フロルよ、本来はそれでいいのだ。

 結局は、ピンクを諦めきれずに、戦闘着ではないワンピースについては薄いピンクを選択した。

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