第9章:抜けるAVを数多く作ってきた俺が抜くハメになるとはな。エクスカリバーを。(第4話)

 集落には宿がなかったので、俺たちは結局3日間、野外集会場の小さな庇の下に野宿で逗留した。正確には、ミクルは占い師の家に世話になったし、ビンラディンは独身の女ゴブリンの家に誘われて持ち回りで宿泊していたので、俺とフロルとナンジェーミンと大橋さんが野宿組だった。フロルもミクルと一緒に厄介になれば良かったが、フロルはそれを遠慮した。俺は、お前の使命は姉を守る事ではなかったのか、と訊いたが、ミクルの直感力に依ると占い師は信頼ができる、との事で、寧ろ何かあった時にすぐに対応できる屋外を選択したんだそうだ。フロルは、仕立てたばかりの服が相当気に入ったのか、寝る時は抱いて寝ていた。


 調査に出ていたゴブリンは5名だった。つまり、俺たちと同じ様なパーティで行動をしていたという事だ。そのゴブリン共が帰ってきた時、独身女達はビンラディンに侍っていたが、彼らを見るなりビンラディンの許を去って行ったのは最高に笑えた。どの世界でも男女の仲というのは度し難いものだ。俺はビンラディンには予め、お前と年頃のゴブリンの間で何が起ころうと一切興味はないし聞きたくない、とだけ断っておいたが、その心配は無かったようだ。

「何もなかったと思うなよ」ビンラディンが言った。「見くびらないでくれよな」

「ほう、そうか。お前もついにチェリーボーイを卒業という訳だ。ゴブリンでな。おめでたい」

「ゴブリンを馬鹿にするのは多様性の観点から関心しないな。でも、そういう訳じゃない。流石のオレも、好んであの娘達とどうにかしよう、なんて思ってなかったさ。ただ、夜這いを掛けられて驚いて逃げちまっただけで…」

「ははは」俺は笑った。「今後のお前の人生で二度と経験できないエモい機会を逸したな」

 ともあれ、ゴブリンはゴブリン同士が好いという事だろう。


 ゴブリン共のリーダーが、町内会長の家で占い師を入れて旅の報告を行うというので、俺とミクルも大橋さんを連れて合流する事にした。ゴブリンのリーダーは、俺たち人間が逗留していることを訝ったし、目的を同じにしている事を大橋さんが告げると、余計に警戒心を抱いた様だ。これは意外だった。大抵のSF映画では、エイリアンという共通の敵の許にあらゆる国籍、人種が団結して共通の目標に向かうシーンが描かれるのが定石だ。にも関わらず敵対心を強めるという事は、俺たちに知られてはマズイ情報を得ている可能性があるな。つまり、同席したとして、俺たちの居る前では全てを話さない可能性がある。

 町内会長の狭い書斎に、6人が収まった。会長と占い師は、ゴブリンの帰還を喜び、労った様だが、残念ながらゴブリンの言葉は俺たちには解らない。仕方がないので、リーダーが話している内容を途切れ途切れで大橋さんに要約して伝えて貰う事にした。それに従うと、こうだ。ゴブリン達は中央府の司令の元、占い師の言に従い、エクスカリバーと大穴について調査に行った。大穴については何も答えを得ることはできなかったが、エクスカリバーについてはその場所が判明し、実際に目視した、というのだ。

「抜けなかったって訳だ」俺が言った。「理由はなんだ? 心が清らかではなかったか? 処女や童貞じゃなかったからか?」

 俺の言葉を大橋さんは、恐らく清く正しい言葉遣いに直してリーダー達に伝えた。リーダーは気性が荒そうな炯々とした眼光を俺に浴びせた。おれは、おっと、と呟いた。リーダーが早口に何かを言い、大橋さんがそれを訳してくれた。それは意外な回答だった。

「私たちはどうやら大きな勘違いをしていた様だな」大橋さんが言った。「エクスカリバーは『聖剣』として伝わっているが、実は『剣』ではないらしい。確かに地面に向かって刺さっていはいるそうだが、非常に小型、精々親指くらいの大きさの長方形の物体だそうだ」

「なんだと」俺が言った。「それだと話が変わってきてしまう。剣を大穴にぶちこんで射精するって話じゃなかったのか。だとすると、そもそも魔物が発生する大穴や魔王の存在ってのも怪しくなってくる」

 リーダーは更に、何かをまくし立てた。ジェスチャーも交えているが不器用すぎて全く分からん。リーダーの言葉が止まらないので、俺は適度なタイミングで、深く頷いたり驚いた表情をしたりと忙しそうな大橋さんにアイコンタクトをとった。

「エクスカリバーだが、どうやら誰にでもすぐに抜けるらしい」大橋さんが言った。「ただ、抜いてしまうと、エクスカリバーを鎮護している部屋の扉が閉ざされてしまい、出られなくなるらしい。手の込んだ仕掛けがされているようだ」

「なるほど、そういう事か」俺が言った。「色々調子が狂うが、伝説としては決して不思議ではない伝わり方をした様だな。確かにそれならば、聖剣とでも言っておいた方が土産話としては上出来って訳だ。で、俺たちは女勇者の名目で旅をしている訳だが、そのエクスカリバーの在り処までの案内はお願いできそうなのか?」

 大橋さんは、リーダーに向かって話した。

「リーダーは案内役としてついてこないそうだ」大橋さんが言った。「代わりに、同行したスライムを貸してくれるらしい。スライムは賢いし鼻が効くから、現地まで最短距離で案内してくれるだろう」

「そうか、それはありがたい」俺が返答した。「しかしスライムだと、フロルが嫌がるだろうな。仕立てたばかりの服を溶かされる恐れがあるからな」

「エクスカリバーを抜いたまま、帰還する方法に関しての示唆は何か得られたんでしょうか? わたしたちが同じ様にエクスカリバーを訪なったとして、果たして意味があるのか…」

 大橋さんはミクルの言葉をリーダーに伝えた。リーダーはかぶりを振った。

「残念だが…」大橋さんが言った。「解らないから、こうして帰ってきた、という訳だ」


 俺たちは町内会長の部屋を後にした。これは俺の勘だが、リーダーは確実に、何かを隠している。少なくとも、俺たちのいる前では町内会長にも占い師にも話していない内容があるに違いない。考え得るのは、エクスカリバーは剣ではないが、使い方に依っては強力な兵器に成り得る、という事だ。つまり、人間たちの手にその力が渡ってしまうと、ゴブリン界が攻め込まれる可能性がある。奴らは、旅の中でそのヒントを得たに違いない。そして、ゴブリンの中に閉じて、抜いて持ち帰る方法を考えようって算段だろう。俺は、ミクルにその事を話してみた。

「そうね…」ミクルが言った。「その可能性はあると思います。ただ、恐らく相当永い間、ゴブリンと人間とは文明レベルで争いを起こしていないでしょうから、例えどちらかがその力を手に入れたとして、本気で相手をどうこうしよう、とは考え至らないんじゃないかな…」

 俺もそう思う。

「やれやれだが、仲良しになる為には6世の力を借りる事になりそうだな。中央府とやらでゴブリンの王様だか大統領だかに会えれば、の話だが」

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