第9章:抜けるAVを数多く作ってきた俺が抜くハメになるとはな。エクスカリバーを。(第2話)

 数日歩いて、ゴブリンの集落に到着した。一言で数日歩いた、と表現したが、楽な話ではない。単純な疲労について語る必要はないだろうが、人間である限り、そもそもの生理的活動を抑制できない。つまり、歩いていれば喉は乾くし、腹は減る。トイレも行きたくなるし、汗もかく。夜は眠くもなる訳だ。幸い、2日に1つは沐浴場を得られたし、意図的に可能な限り川沿いを歩いた為、飲料水や風呂、選択、用便には困らなかった。ただ、当然性欲もある訳で、俺のマネジメントと各々の性格が幸いして何か起こるような事はなかったが、ビンラディンが夜な夜なフロルをネタにオナニーしていない保証は俺には出来かねるし、想像もしたくない。俺にとっては、ミクルの処女をなんとしても守らなければならないから、悶々とミクルとフロルにどうやって同意を取り、AVを撮影するかに思いを巡らしたりしていた。


「人間がそうであるように、我々ゴブリンも町や集落を形成している」集落に入る前に、大橋さんが俺たちに説明した。「つまり、私達の文明にも道があり流通があり経済がある、という事だ」

「なるほどな」俺が言った。「同等の敬意を以てお邪魔すべきということだな」

「ちょっと信じられないね」ナンジェーミンが言った。「まさか、ゴブリン達も高度な文明社会を築いていたなんて。凄く興味深いし、とても興奮しているよ」

「お店なんかもあるかな」フロルが言った。「ボクはもう少し動きやすい服に替えたいよ」

 気持ちは分かるが、ゴブリンの体格は人間よりも平均して大きそうだ。フロルの体型に合う服があればいいがな。

「わたしの占いの指し示した先がここまでだとしたら、この集落に次の道標があるはず」ミクルが言った。「集落を収める長や長老、占い師のような人物と話をできればいいのだけれど」

「そのつもりだ」大橋さんが言った。「私もこの集落では顔が効く訳ではない。まずは長を訪なうつもりだ。あと、私達がそうであったように、基本的に気性が荒い性格の者が多い。私から離れない様に注意してほしい」

「へっ。気性が荒いのは前頭葉が未発達な所為だろうな」

 入口付近に小さな小屋があり、そこが門番の詰所になっているらしかった。ゴブリンの姿は見えなかったが、杭にスライムが繋がれているあたり、もはや説明するまでもないが、スライムは番犬として優秀なのだろう。

 大橋さんは、俺たちを離れたところで待機するように言うと、一人で詰所に向かっていった。扉を数回ノックすると、中に入っていった。もし大橋さんが俺たちを最初から罠に掛けるつもりだとしたら、この時点でモンスターハウス状態だ。ナンジェーミンの後ろでカキ氷屋を始めるしかなくなる。

 暫くして、大橋さんが2人のゴブリンを連れて出てきた。表情を見る限り、話は無事についたらしい。

「集落に入ろう」大橋さんが言った。「人口は200人程度だそうだ。このうちの1人が護衛についてくれるが、警戒しすぎる必要はない。君たち人間がそうであるように、基本的に不要な戦闘は好まないし、女子供も居る。つまり、普通の安定した生活を皆営んでいるし、それが破壊されないことを望んでいる」

 俺たちは護衛のゴブリンに追従する形で進んだ。護衛というか、つまりは見張りなんだろうがな。まばらに家々があり、確かに子供の姿もある。女がいる、との事だったが、どれが女かは俺には解らなかった。遥か太古に人間と人種が分化した種族だろうから同じく有性生殖なのだろうが、この状況ではアダルトなコンテンツに対する市場の存在は期待しないほうが良さそうだ。

「つまりだ」俺がフロルに言った。「ゴブリンの集落で服を入手する事はリスクを伴う。お前が期待するような少女らしい衣類は売られていないだろうからな」

「問題ないよ。今までだって、短いズボンだったし。男物でも大丈夫だよ」

「折角なら仕立てて貰えばいいさ」ビンラディンが言った。「ゴブリンのセンスが人間に合うか不安だけれど」

 長の家だという建築物の前で止まると、護衛だけが先に中に入っていった。村長的存在はラノベの世界観だと特別大きな屋敷に住んでいるイメージだが、違う。他の住居と何ら変わらない。持ち回りの町内会長の様な存在なのかもしれないな。となると強力な影響力や知識造詣は期待しない方がいい。どちらかというと人脈から探って旅のヒントを得る方が建設的、という物だ。

 護衛が出てきて、俺たちは家の中に通された。

 狭い家だ。子供と母親らしきゴブリンが少しだけ顔を見せてから、部屋に引っ込んでいった。俺たちは狭い階段を上がり、長の仕事部屋に通された。これもまた狭い部屋だった。採光窓からの明かりに浮かび上がった書物机に座り、何やら羽ペンで書物をしている男が居た。俺たちに気づくと、若干険しい表情で数度頷いた。勿体ぶった登場だし、年齢不詳だ。

「人間の言葉を話せるそうだ」大橋さんが言った。「訊きたい事があれば、直接話ができる」

「なるほど、町内会長氏はなかなか学があるとお見受けする」

 俺が言った。長は小さく笑った。

「椅子の数が少ないが、座ってくれ」長が勧めてきた。「実は、かねてから人間とは交流を図りたいと思っていた。魔王復活の話が出てきてからお互いに警戒心が強くなってしまったから機会を逸していたが、まさか同じ目的で行動を起こしていたとは興味深い」

 余程ゴブリンの方が賢く社交的と見える。それでも人間の方が文明が発達したのには要因があるのだろう。手先が器用、とか。ラノベの世界じゃ、いかにも不器用なドワーフの方が器用な設定が多いがな。

 俺たちの冒険の目的や、現状については、ミクルが長に話をした。俺たちが特に訊き出したかったのは、エクスカリバーの在り処や抜く為の条件、大穴の場所、ゴブリンが拾ったという「箱」の事だ。

「噂が立つ、という事は、それが虚構であるか、事実であるかのどちらかだ。事実であれば、必ず噂の源泉が存在する」長が言った。「エクスカリバーについて明確な場所は我々も知らないし、そもそも誰が何の目的でエクスカリバーを作り出したのかも解らない。聖剣だとは言うが、何を持って聖であることを定義するのか。現在、我々や人間が持っている以上の高度な文明が過去にあり、その文明の人々が作り出したのか。謎が多すぎるし、そもそも存在に対する矛盾も無視できない。もしかすると、大昔に同様に魔王が復活し、立ち向かった歴史があるのかもしれないが、そのような話は一切伝承されていない」

 リアルな話ぶりだ。この町内会長、ムーを疑ってかかって読むタイプだな。ロマンだけでは治められないってか。

「しかし、アンタ等も同様に探している筈だし、うちの優秀な占い師に依ると俺たちよりもアンタたちの方が正解に近そうだ」

 長は頷いた。

「我々も、中央府の占い師の神託を根拠に、それぞれの町や集落が調査の為に人員を派遣している。予定通りに進んでいれば、結果が得られようが得られまいが、数日後にはうちの集落から派遣した連中が戻ってくるから、彼らに訊くといい」

 大橋さんは、私達もそのチームの一つだったのだがな、と呟いた。そうか、それは悪いことをした。

「『箱』については、何か知ってることはあるのか?」

 俺が訊いた。長は小さく頷いた。

「その話を人間から訊かれる事を、私達は想定していなかった」長が言った。「何故なら、私達はあの『箱』は人間が作り出した物だと認識していたからだ」

 なんだと?

「その口ぶりだと、ゴブリンの仲間内では相当な噂になっていると見えるな。然し、人間が作ったと言うのは解せん。説明願いたい」

 長は頷いた。

「『箱』を拾ったのは、ここから可也離れた別の集落の連中だ。人間が作った、と言ったのは、人間の町と町を繋ぐ道上で拾われたからだ。運搬の途中に落下した物だと思われているが、箱の周りには何か強力な魔法の力が発散したような跡があったらしい。箱を拾った後も、何人ものゴブリンがその場所を調査に行っているが、箱の正体を掴むヒントは見つかっていない。箱については、私も実物を観てはいないが、不思議な素材で構成されているらしい。色は所々が水色で透明、かといって氷という訳でもない。金属ではないのに硬い。こじ開ける事はできるかもしれないが、普通に開けることは出来ない。中には何やら宝石のような部品が透けて見えるらしい」

「そうか」俺が言った。「なぜゴブリンの連中がリスクを犯してまで人間の道を使ったのかは説明を訊くのが面倒だから訊かないが、その箱は今どこにある?」

「恐らく中央府に届けられているだろうな」長が言った。「そこなら学校があるし、研究機関が存在する。もしそれが人間が作り出した強力な魔法兵器であるとしたら、私達も対策を考えなければならないからな。だが、君たちの状況を察するに、その心配は無用な様だ」

 その中央府って場所の人口規模は不明だが、渋谷の交差点をゴブリンが跋扈している場面を想像するのはゾッとしない。然し、次に行く場所は決まった様だ。

「最後にもう一つ訊きたいんだが…」

 俺が言った。

「勿論だ。何を尋ねる?」

「この集落で、服を仕立ててくれる店を教えてほしい」

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