AV監督だったけれど異世界ファンタジーに転生しちゃったから女勇者をそそのかしてAV撮ってレベル1のままラスボスと戦うハメになった件
第9章:抜けるAVを数多く作ってきた俺が抜くハメになるとはな。エクスカリバーを。(第1話)
第9章:抜けるAVを数多く作ってきた俺が抜くハメになるとはな。エクスカリバーを。(第1話)
「ねえ、カナヤマ」
俺たちは、ミクルの占いに従った方角に歩き続けていた。幸い、俺のスマホのコンパス機能がスタンドアロンでも使えたから、方角を見失わずには済んでいる。大橋さんによると、ゴブリンの集落の近くをいくつか経由するから、「箱」についての情報や、エクスカリバーについての追加情報も得られるだろう、という事だった。
「なんだ?」
フロルの呼びかけに、俺が返答した。フロルは少しだけ小走りに俺の前に出ると、俺の顔を覗き込んだ。
「なんで『大橋さん』なの?」
ああ、ゴブリンにつけたアダ名の事か。
「俺は今でも後悔している。なぜ、ビンラディンとナンジェーミンにしちまったのかを。田中さんとか鈴木さんあたりにしておけば色々楽だったのにな。そもそも俺は、既にナンジェーミンの本名を忘れっちまっている」
「ジャレトンだよ」フロルが言った。「本名も覚えてあげないと可哀想だよ」
俺は薄く笑って視線だけフロルに向けた。
「お前はいい子だ」俺が言った。このセリフ、いつか言ってみたかったセリフのうちの一つだ。「大抵、誰もが、本当に互いに関心なんかなかったりするものだ。俺のいた世界では、関心を装った無関心の『いいね』を貰うためには命さえ差し、犯罪さえ厭わない連中が跋扈している。だから孤独を前提に生きていた方が何かと気が楽だ。要らぬ期待を他人にせずに済むからな」
フロルは笑った。
「じゃあ、デイーヌさんとジャレトンさんにアダ名をつけたカナヤマはいい人だね」
「はは」俺は笑った。「お前は純粋だ。半分はそうかもしれんが、もう半分は違う。これはチームマネジメントの戦術のひとつに過ぎない。手っ取り早く、心理的距離が縮まった気分になれるからな。チームを早期に結束させるには有効ってだけだ」
俺の言葉にフロルは、そういうものかな、と言った。
「じゃあ、なんでボクや姉さんにはアダ名をつけないの?」
「つけて欲しいのか?」
俺が言うと、フロルは腕を組んで考える様にして、やっぱり要らない、と答えた。
「で、なんで大橋さんなの?」
俺は視線を前方に戻した。
「俺たちの世界でギルガメッシュと言われたら、真っ先に連想するのが『大きな橋』ってなだけだ。それ以上の意味はない」
フロルは、ふうん、と漏らした。
「それって、カナヤマの世界の経典か何かの一節なの?」
「…経典か…」俺は考える様に言った。「そうだな、ある種の人間にとっては、経典の様な物かもしれん」
俺の返答にフロルは興味が満たされたのか、ミクルの隣に移動していった。
俺は、件の大橋さんと話をする事にした。
「おい、大橋さん」俺は呼びかけると、大橋さんの隣に並んだ。「エクスカリバーについて知っている事をもう少し訊きたい」
「勿論だ」大橋さんが言った。「ただし、私の情報にも限界がある。当然、実物を見た経験はない。占いの話を聞くまで、そもそも実在する事すら疑っていたくらいだ」
なるほど。この世界でもエクスカリバーは神話の類って訳だ。
「俺のいた世界にも、エクスカリバーの伝説はあった」俺が言った。「アーサー王物語に出てくる剣だが、あまりにも解り易いミームだから様々なコンテンツに流用された。共通するのは、エクスカリバーは岩に刺さっていて、特定の条件を満たした人間にしか抜く事ができない」
俺の言葉を、大橋さんは何度も頷きながら聞いていた。
「とても興味深い」大橋さんが言った。「私が聞いているエクスカリバーについても、ほぼ同じ内容だ。つまり、誰かが抜く必要があり、その誰か、というのは、誰でも良い訳ではない様だ」
「そうか、それはめでたい」俺が言った。「筋斗雲は心が清くなければ乗れなかったし、南のお告げ所を通れるのは真に自分と向き合える人間だけだった。何を言いたいかと言うと、そんなありがたい剣を抜ける人間がこのメンバーの中に居るとは思えない、という事だ」
俺の言葉に、大橋さんは考える仕草をしながら、深く数度頷いた。それから、視線でミクルを指した。そうか、俺たちのパーティには女勇者がおわしたんだったな。
「おい6世、聞こえるか」
夜、俺はトランシーバーで6世を呼びかけた。首府よりも現在の標高は高いし、遮蔽物は何もないから、ギリ電波が届く筈で、かつ、これが最後の通信になる可能性が高い。
俺は何度か呼びかけた。
「聞こえている」アトレーユ6世が答えた。「かなり声が小さく聞こえるし、掠れているな」
俺は笑った。
「国王と言えども我慢して頂こう。この状況で会話が可能なのは、アナログ電波のメリットでもあるからな」
6世は、お前の言うことは相変わらず良く解らん、と言った。
「で」6世が言った。「何の用だ。国務の途中だ。多くの時間はとれないから手短に頼む」
やれやれ。どの時代でも上司にあたる人間はスケジュールに融通が利かない様だ。
俺は言われたとおり、手短に現在までの経緯を報告した。進捗状況については満足そうだった。特に、他の女勇者のパーティとは一切連絡が取れないから、女勇者を任命して複数送り出したはいいが経過が解らない。俺たちだけがこうして報告ができるって訳で、安心感につながっているらしい。俺の当初の目論見通りでもある。
「これからエクスカリバーを抜き、大穴にぶっ刺しに行く」俺が言った。「次に通信する時には、結果を報告できるだろう」
「承知した。くれぐれも気をつけてくれ。お前達全員の身の安全についてもそうだが、多くの場合、障壁となる因子は身中にあるものだ。つまり、少なくないチームが、チーム内の要因で以て女勇者の処女を喪失してしまう結末を辿っている」
「それは興味深いですな」俺が言った。「ドラクエ、FF、様々なRPGをプレイしたが、処女喪失に関する文脈に出会った事はついぞなかった。大体、未だに女勇者が処女でなければならない理由を理解できていませんな」
言いながら、ドラクエ1で宿屋のオヤジが処女喪失を匂わせるセリフを吐いていた事を思い出した。否、あのプリンセスがビッチであればただの姦淫だったのかもしれないな。
「占いに依るものだ」6世が言った。「理屈で理解する事が全てじゃない。とりあえず従っておけ。処女じゃないとエクスカリバーを抜けないかもしれんしな。それよりも、資金や物資は充足しているのか?」
「物資の追加は不要だ。高給取りを抱えては居るが、このペースで冒険が進めば早期に結果を出してリストラできそうだしな。それに、幸い、ゴブリンとスライム以外には出会っていない」
「お前たちは、まだ今回出現して問題となっている魔物と出会っていない」6世が言った。「襲ってくる相手に必ずしも実体があるとは限らんからな。とにかく気をつけて旅を続けてくれ」
「国王自らご心配頂けるとは感謝の言葉もありませんな。しばらく声を聞けなくなると思うと寂しくて夜しか眠れませんぜ」
「お前たちに期待はしているが、国王として常に数手先を読んでおく必要がある。ひとつの区切りとして、1ヶ月を目処に次の連絡を欲しい。連絡がなかった場合、お前達は死んだものとして次の手段を講じる。最も、お前が作る姦通劇が観られなくなるのはあまりにも惜しいがな」
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