AV監督だったけれど異世界ファンタジーに転生しちゃったから女勇者をそそのかしてAV撮ってレベル1のままラスボスと戦うハメになった件
第8章:キリギリスを馬鹿にしたアリどもは自分達がただの歯車である事にすら気付かないまま死ねばいいのにと俺は常々思っている(第2話)
第8章:キリギリスを馬鹿にしたアリどもは自分達がただの歯車である事にすら気付かないまま死ねばいいのにと俺は常々思っている(第2話)
豊橋から、ブツが完成した、と連絡があったのは、それから更に2ヶ月後だった。かなり待たせたが、それだけ部品点数が多かったって事だろう。そして、俺は一切手伝っていないが、それに後ろめたさもない。
「ブツはどこだ」
俺は、豊橋のエントロピーがいつまで経っても増大しない部屋を見渡したが、それらしきものはなかった。
「ゴールドフンガーは道化役が似合うが、現実世界を演じるお前が同様に愚かになる必要はない…」豊橋が腕を組んだまま言った。「と言いたいところではあるが、今回は俺の戦略だ。何も知らない、気づかない状況の人間がいた方が何かと都合がいい。だから俺は、お前に全ての状況を共有するつもりはない」
なるほど。相変わらず用心深い男だ。
「最終的には、俺すら信用ならんって訳だ」
「そうではない。そうではないが…」豊橋は顎に手を当てた。「そうだな。俺は誰も信用していない。お前も、俺自身ですらな」
俺は笑いながら頷いた。
「お前がどのくらい人を信頼する趣味があるかは知らんが、とにかく共有できる範囲で教えてくれ。何も知らずに殺されると、今後の寝覚めが悪くなるからな」
俺はベッドに腰掛けながら言った。豊橋が、死ねば寝覚めはないから心配するな、と皮肉った。正直、俺は、豊橋は故意に俺を手伝いに呼ばなかったと見ている。考えられる目的は2つだ。1つは、最悪の事態があった場合に半ば巻き添えの俺だけでも逃す為。もう1つは、ブツに想像を絶する価値があった場合、豊橋が独占をする為だ。そして俺は、豊橋の性格の場合、後者であろうことを知っているし、そうだとして攻めるつもりも一切ない。
豊橋は椅子を回転させると、PCのディスプレイに目を遣った。
「まず、ブツの場所から話す」豊橋が言った。「当然だが、完成した事が察知された途端に、奴らが行動に出る恐れがある。だから、俺はまだ『完成させていない』。正確には、数分割した状態で複数のレンタル倉庫に預けてある。つまり、それぞれの倉庫から取り出して組み立てれば完成する、という、お前の好きなシュレディンガーの猫状態にしてあるという算段だ。この状態にしておけば、アノニマスの連中としても様子見を決め込む事になるだろうからな」
「なるほど。それは大変為になる講釈だ」俺が言った。「まさに授業料をお支払いしたいレベルだが、是非とも次にお伺いしたいのは、結局そのブツが何なのか、という事だ」
俺の言葉に、豊橋はかぶりを振った。
「期待に沿わずスマンが、俺にもまだ解らん。内部構造は複雑だが、最終的には箱状になる様だ。連中が送ってきた部品の役割が解明できないのが最大の問題ではあるが、この箱が単体で用を為すモノなのか、もっと巨大なシステムの一部なのかも解らん」
豊橋のスキルで以て解らない程複雑なブツなのか、それともこれは豊橋の虚言で、俺に知らせないようにしているのか。どの道、豊橋の戦略があるとしたら、そこを詮索するのはリアルに野暮だ。
「好都合だったな」俺が言った。「結局『解らない』であれば、奴らが俺たちを消す理由が一つ減る訳だ」
「そうだな」豊橋が首肯した。「願わくば、このまま知らない状態で引き取りを願いたいところではあるがな。そして、お前の首尾についても訊きたい」豊橋が言った。「DMの方はどうなってる」
豊橋の言葉に、俺はスマホを取り出した。
「慎重なお前の性格に水を差すようで申し訳ないが、俺は隠し事が苦手な性質だ。器用にお前を欺くことはできんぞ」
「かまわん。俺が全て知っていれば、それでいい」
俺は、そうだよな、と呟きながら、twitterのDM画面を表示させたまま、スマホを豊橋に渡した。豊橋は目を細めてDMのやりとり画面を繰った。
「お前の言う通りだったな」俺が言った。「数十のアカウントに対してフォローとRTを送った。中には律儀に使い途を訊いてくる垢もあったから『月に行きたい』とか『腕時計型のリコーダーを開発したい』とか『最高にエモい男の娘に貢ぎたい』とか適当に書いてやった。そして、最終的に1つだけ当選通知を寄越してきた垢があった。それが、今お前が見ているDMだ」
豊橋は考えるようにしながら、数度頷いた。
「アイコンはゾンビのキャラクタだが、中身は女を装っている。巧妙といえば巧妙だが…」
「そうだな。俺もそう思う。そいつはネカマだ」
豊橋はスマホを俺に返してきた。
「リアリティはある」豊橋が言った「文面からも、奴らは俺たちがブツを間もなく完成させる事に気づいている事が伺える」
「金を払う気がある、というのは俺たちの命の継続性を高めるから笑えるが、奴が提案してきている、この金の受け渡し方法は怪しいっちゃあ怪しい」
「コインロッカーか」
俺は頷いた。
「複数のコインロッカーを経由して金を渡す手順になっている。理由は『顔を知られたくない』とはなっているが、明らかにその過程が問題だ。指定のコインロッカーへ行った途端に殴られて殺され、ブツだけ回収されるか、またはコインロッカーにはブツと交換する為の面倒な指示書が仕込まれている可能性もある」
「可能性としては前者もあり得るが、人目がつくところは避けたがるだろう。駅の構内であれば、夜中でもそこそこ目撃される恐れがあるからな」
どの道、DMの通りに100万が引き渡されるかどうか、が一つの判断基準になりそうだ。
「2人で行って、片方が実行し、片方が見張る、くらいの対策は必要だろうな」
俺が行った。豊橋は口だけで笑った。
「その必要はない。奴らと対峙する、もっと完璧な方法がある」
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