AV監督だったけれど異世界ファンタジーに転生しちゃったから女勇者をそそのかしてAV撮ってレベル1のままラスボスと戦うハメになった件
第3章:俺が解せない物。「スライム」「ぬののふく」そして「300G」(第4話)
第3章:俺が解せない物。「スライム」「ぬののふく」そして「300G」(第4話)
首府に到着したのは、それから2日後だった。国王に謁見するために城の中に通されたが、それまでの道程であったり、城の描写であったりは面倒で俺の性に合わないし、そもそもがファンタジー世界のステレオタイプを辿っているだけだから、一切省略する。俺が興味や疑問を抱かなかったのが、無価値の証明だ。
城の入口では手荷物検査を受けた。ミクルとフロルが背嚢1つだったのは、こういった対策の意味もあったのかもしれないが、問題は俺の荷物だ。どれをとっても、奴らが見たことのないデバイスばかりだ。説明が面倒になる事が予測されたから、ポケットのスマホを残して簡易宿泊所に預けてきた。勿論、スマホを取られては堪らないから、囮となる革製の水袋だけ入れた肩下げだけ持って入ったが。つまり、入城に手荷物検査がある事は事前に聞いていた。問題は、その後だ。まさか、女しか通されないタイミングがあるとは思わなかった。何かと言うと、ミクルが処女検査を受けるというのだ。そして、初めてフロルが女の恰好をしている理由の片鱗を垣間見た。フロルもミクルと一緒に通されたのだ。女性として。検査は、勇者の資格を判定する目的だとか言うから、まさかフロルまで検査を受ける事にはならないだろうが、少なくとも有事にはフロルがミクルを護る事ができる。恐らく、往々にしてあるのだ。こういう機会が。
「お勤め中に話しかけるのは俺の流儀に反するんだが…」俺は、待合の小部屋で暇そうに立っている番人の男に声をかけた。「もし、ミクルが処女じゃなかったらどうなるんだ?」
「その場合は帰されることになるんじゃないかな」男が言った。「魔王討伐には処女である事が絶対条件らしいよ」
「へっ。もっともらしい条件だが意味が解らないよな。あんたも気づいていると思うが、ミクルは巨乳だ。顔は地味だが化粧映えはするだろう。つまり、美少女って訳だ。普通に生活してきたら貞操を護っている方がご苦労さんと言いたいところだぜ」
言いながら俺は、ミクルが経験済みである事を祈る気持ちがあった。半分は、魔王退治という面倒にこれ以上巻き込まれないからで、もう半分は、処女を条件としてしまうと魔王討伐までミクルをAVに出演させられなくなるからだ。逆に旅の途中で処女を奪う、という手段もあるかもしれないが、それは俺のやり方に反する。
「私は彼女の様な女性を毎日見ているから、処女であろうとなかろうと、どうとも思わなくなったね」
なんだと?
「いいご身分だな」俺が言った。「毎日見られるというのは役得だ。職業柄あんたと入れ替わりたい所だが、因みにそれは何故だ?」
「何故って、魔王復活の話が流布してから、ほぼ毎日、女勇者の称号を受け取りに女がやってくるからさ」
「それは…初耳だ。女勇者はミクルだけじゃないのか?」
「違うね」男はかぶりを振った。「魔王討伐の為に、年頃の処女の占い師に対して召集令状を送ってるのさ。まあ、美女は条件じゃない」
「解せんな。更問いを2つ乞いたい。1つ目は、何故処女ばかりを集める。2つ目は、何故占い師が条件になっている」
「さあね」男が言った。「ただ、占い師を条件にしているのは、魔王の居場所を探索する為だと聞いてるけどね」
なるほど。それは疑似科学的に合理的だ。
「これは俺の予測だが」俺が言った。「魔王が復活する事は、ある程度以前から予見されていたんじゃないか?」
「私はただの一兵卒だぞ。そんな事までは知らんよ」
まあ、そうだろうな。となると、ミクルが女勇者として招集される事を予見してフロルを女として育てたのは、ミクルの母親の占いによるものか。
「悪かったな」俺が言った。「時間をとらせちまった」
それにしても、遅い。処女検査なんて股を開かせてお仕舞いってんじゃないのか。手持無沙汰で、思わずスマホを取り出しそうになって、やめた。まあ、この呑気な番人が気にするとは思えないし、気づかれたら俺のエモいコンテンツをご披露してやれば済む話だ。
然し、ミクルは何の変哲もない。確かに、合理的なのだ。複数人の勇者を準備しておくのは。どう考えても、16歳の少年たった1人に世界の将来を託すあのRPGゲームは間違っている。勇者がルーラとかで度々顔を出して報連相をしっかりやるビジネスマンであれば、或いは2の矢3の矢を用意する必要はなかったかもしれないが、そうではない。旅の途中で死亡した場合、誰もそれを認知しなければ、闇雲に世界は魔王に支配されるのを待つだけなのだ。俺に言わせれば、大体、魔王にだって言い分があるだろう。寧ろ、このパターンの場合、悪とされる側の方が論理的かつ合目的的な根拠で以て世界を滅ぼそうとしているものだ。魔王に出会えるのであれば、是非その理由について講釈願いたいところだ。
ラノベであれば、たとえ複数人の女勇者が存在するとしても、ミクルだけには特殊な能力を与えるとか、特異な性格を与えてキャラを立てるとかで特別扱いする筈だ。だが、ここはリアルだ。地味なミクルは他の女勇者に飲み込まれるだろう。つまり、魔王討伐まで辿り着く事はない。であれば、旅の途中でどこかのイケメンと出会って処女を喪失して女勇者の資格を失って俺のAVに出演してくれた方が、幾許も彼女の為になるってもんだろう。
やがて、扉が開いて、ミクルとフロルが出てきた。ミクルは若干疲れた表情をしていたが、俺を見ると、無理にでも笑顔を作った。
「待ちくたびれもしたが、まずはミクルの体調が心配だ」俺が言った。「変な事はされなかっただろうな」
「大丈夫」フロルが言った。「検査官は全員女性だったし。処女である事を確認した後は、知力と体力と占いの能力を測定されたから、そっちの方が大変だったよ」
アポロ13に乗り込む宇宙飛行士を選出するテストみたいな話だな。まあ、当然と言えば当然だ。冒険に出てもすぐに死んでしまったり、逃げてしまうような人材を勇者に仕立てる訳には行くまい。
「検査に問題なければ、この後、国王との謁見になる」番人の男が言った。「もう暫くここで待っていてくれ」
「やれやれ、まだ待つのか」
昼食が出される事もなく、腹が減った頃に、謁見の間に通された。つまり、ミクルは女勇者として合格した。始め、ミクルに対し付き添いとしてフロルのみが入室を許可されたが、番人の男が気を利かせて、俺を護衛と紹介し、入室できるように手配してくれた。
所謂「謁見の間」だが、そんなに広い部屋ではなかった。全体石積みの部屋に、手の込んだ柄の絨毯が敷かれ、一段上がった所に玉座が設置されていた。国王と思われる男は玉座には座らず、書き物台の前に立って書類に羽ペンで何か記入をしている最中だった。見渡すと、世話係と思われる女官が2名と、衛兵が数名いた。
「待たせて済まなかったな」国王が言った。「今、書類に署名を終えた。これで、お前は女勇者を名乗る事ができる。おい」
国王は顎で衛兵の一人に指示をすると、何やら装飾の付いたメダルの様なものを持ってこさせた。
「勇者の称号だ」国王が言った。「これからの旅路、役に立つだろう。魔王の場所については、是非お前の占いの力に縋りたいところではあるが、宮廷付占い師におおよその方角の検討をつけさせた地図を後で手渡す。それから、少ないが路銀を用意させている」
今度は、衛兵が2人ずつ組になり、隣室から宝箱を抱えて持ってきた。都合、2つだ。
「どうぞ、腰かけて下さいな」
ミクルが国王に言った。
「気遣い無用だ。玉座は硬くて敵わん。痔になるからな」
現実的な回答だ。痔は魔法で治せまい。
「わたしの様なものを選んでくださってありがとうございます」ミクルが言った。「国の為に尽くしますわ」
「是非そうしてくれ。今はまだ魔物の数も対処できる範囲だが、今後増えてくると厄介だ。各市や町に国軍を派遣しなければならなくなる。残念だが、充分な人数の派遣は無理だ。国費にも限りがあるからな。だから、早い所対処してしまいたいのが国王としての本音だ」
この国王は、俺のイメージとだいぶ違う様だ。「おお勇者よ、しんでしまうとはなさけない」とか偉ぶって言う、腑抜けのジジイを想定していたが、どうもそこまでの年齢にも見えない。魔王を、台風か何かの対策と同列で考えているのもスマートだ。
「フロルよ」俺は、小声で隣のフロルに声をかけた。「国王は名前を何と言う?」
「アトレーユ6世だよ」
なるほど。アトレーユ期16年、という事は、地球時間で30年以上国王をしている訳だ。6世という事は、なかなかの治世ではないか。
「さあ、箱を開けるがいい。まずはこの資金で、必要な仲間を雇ってくれ」
おいおい、そこは国で人材を手配するのが筋じゃないのか。
ミクルは箱に手をかけると、1つずつ丁重に開けた。俺とフロルは、後ろから背伸びをしながら中を覗き込んだ。俺は、思わず失笑した。
「はっ」俺は笑った。「魔王討伐に与えられたのが『ぬののふく』と…おいミクル、幾ら入ってる?」
「…300Gですね」
「300Gかよ。おいフロルよ、この世界ではラーメン1杯が何Gだ?」
俺は、フロルの方を勢い良く振り返って訊いた。
「らーめん? なにそれ?」
「解った、もういい」俺は国王に向き直った。「屋台でパスタ1杯が3Gだ。丁度ドル換算と同じくらいのレートだろう。つまり300Gは精々3万円とちょっと、って金額だ。馬鹿にしてやがる。サラリーマンの小遣いだ」
「足りないか」国王が言った。「お前の言い分を聞こうじゃないか」
俺は国王の前に向き直った。
「300Gで雇える人間ってのは、どんなレベルのやつ何人を想定してるんだ? 例えば魔王討伐に6ヵ月かかるとする。1人あたり月給を日本のサラリーマン並に1,500Gに抑えたとしても、およそ10,000Gがかかる。3人雇えば30,000Gだ。それに命を賭すプロジェクトだ。当然充分な武器や防具も必要になるし、成功した暁にはボーナスも要求されるだろう。それに、どう考えても『ぬののふく』や『300G』を受け取るより、この趣味の悪いゴテゴテの装飾を施された宝箱を貰って帰った方が、余程大金に変えられるって物だ」
「これ以上必要な金は、魔物から奪って調達して貰う事を想定している」国王が言った。「悪いが、勇者として旅立つ使命を負っているのはお前たちだけではない。国庫は有限でいつ尽きるか解らないくらいに寒い情勢だ。念のために断っておくが、宝箱は当然、使いまわしている。持っていくなよ」
「そうか。それはご苦労な事だ。然し、あんたの言っている事は矛盾だらけだ。正直どこから突っ込んでいいのか解らないが、まず訊ねよう。魔王が復活して魔物が跋扈するようになった限り、少なくとも魔王は単体で活動をしてはいない。魔物を組織して軍隊を編成して人間を滅ぼそうとしているというのが筋だ。であれば、魔王討伐は女勇者を中心とした数人の組織で遂行できる様な業務じゃない。少なくとも、こちら側も大隊を編成する必要があるだろう。つまり、魔王軍と女勇者個人の戦いという構図ではなく、魔王と国との戦争であるべきだ。となると、話は明確だ。材料はそろっている。『ぬののふく』『300G』『美女で巨乳の占い師』『魔王軍対女勇者』。この情報から整理できる結論は『国王よ、あんたは魔王と裏で取引をしており、ミクルを始めとした多数の女を生贄として捧げている』だ。300Gで最後の晩餐を若干豪華に仕立て、ぬののふくを着て犠牲になるって寸法だ。そもそも、フリーサイズの動きづらい女物のワンピースで冒険に出掛けろという国王は、正直キモイぞ」
俺の言葉に6世は声を立てて笑った。
「小賢しいヤツだ。その類推は確かに理がある。だが、俺と魔王が取引をして得になるような対象があるのか? 確かに、女を差し出す事で見返りとして国の平和を保持する、という交換条件は現実的な帰着点だ。だが、魔王の得体がそもそもしれないのに、何故人間の女を欲すると思うのだ? 食うとでもいうのか? だとしても、魔物を操れる力があれば、俺なんかとの取引を持ち掛けずに、徹底的に誘拐すればいい。そうではない。実態はお前が思っているよりも合理的だ。単純に、統計的に占いの力が強いのは男よりも女だった、というだけのことだ。更に言えば、お前の言う通り、最終的には軍隊を編成して戦争をしかけなければならない可能性がある。だから、女勇者の使命は魔王を討伐する事ではなく、魔王の居場所を突き止め、必要な対策規模を類推する事だ」
マジか。純粋ファンタジー世界で、まさか統計を論拠にした結論を聞く事になるとは思わなかったし、勇者の役割がただの斥候というのも初耳だ。『ぬののふく』と『300G 』を揶揄した結果、この俺が言いくるめられるとはな…。
「まあ、いいだろう。解った」6世が言った。「お前たちの冒険に部隊編成は不要だろうが、それなりの人材を雇えるだけの金を与えておこう。つまり、お前たちには、とりわけ期待をしている、という事だ」
「そうか、礼を言う」俺が言った。「予算を与えられた清く正しいサラリーマンとしては、当然国王への報連相を怠ってはならんだろう。後で番人の男にトランシーバーを1台、使い方レクチャも含めて渡しておく。これで、半径60㎞はあんたと離れても通話ができる。いやまてよ、ミクルよ」俺はミクルを振り返った。「この世界の魔法の力を使えば、遠隔で会話が可能だったりするか?」
「そんな便利な魔法ある訳ないよ」
答えたのは、またフロルだった。ならトランシーバーは役に立つだろう。
「時に、国王よ」俺が言った。「個人的に、もう一つ頼みがある」
「人の欲望は大海を干す様なものだな」6世が言った。「飲めば飲むほど次が欲しくなる。俺がお前の立場だったら、これ以上を望むのは危険の方が多いと考えるがな」
「同感だ」俺が言った。「だが、ここからの話は、人払いをしてもらわないとできない。少なくとも、ミクルにフロル、それ以外の女どもも、全員出て行って貰おうか」
6世は訝りながらも、衛兵数人を残して全員を部屋から出した。ある程度俺に信頼を置いている、という事だ。
「手間をとらせて済まない」俺が言った。「魔王の情報を掴んだら、ミクルは処女である必要性を失う。俺はミクルの幸せを願いたいところではあるが、同時にミクルには俺の商売の手伝いもして欲しいと思っている。何を言いたいかというと、まずはこれを見て欲しい」
俺はポケットからスマホを取り出すと、6世の眼前に突き付けた。当然、俺のAVが表示されている。
「なんだこれは」6世が言った。「絵が光っている。魔法の類か?」
「国王にはお妃がおいでだろう。この世界でセックスレスがどのくらい問題になっているかは興味があるが、少なくとも実務で忙しい6世殿はご無沙汰されているとお見受けする。そこで、この刺激的な映像をご覧に入れたい」
俺は、今度は大音量で動画の再生ボタンを押した。6世は、はじめ、動画自体の仕組みについて驚いたが、やがてセックスの映像に興味を持ち始めたようだった。眉間に皺をよせ、顎髭を手で梳り始めたのが、その証拠だ。
俺は数十秒を流した後に、動画を止めた。
「やめてしまうのか」6世が言った。「非常な興味をそそられた」
「その言葉を待っていた」俺が言った。「これが俺の仕事だ」
「今の短い時間は、俺の人生の中で最も様々な疑問と興味が浮かんだ時間だったかもしれない。色々訊きたい事はあるが、まずはお前の頼みを聞こう」
「寛大な心に感謝する。頼みは2つだ。1つ目は、この手のコンテンツを大衆に披露して金を取る事を許可してほしい。2つ目は、無事に冒険を終える事ができたら、ミクルを主演に映像を撮りたい。女勇者だが、許されるだろうか」
6世は声を上げて笑った。
「好きにするがいい」6世が言った。「あれだけ金をせびっておいて、まだ稼ぎたいとは業が深いな。ただし、あの少女が主人公となってその劇を製作するのであれば、俺も積極的に応援しようではないか。つまり、俺も観てみたい、という事だ」
俺と6世は、互いにニヤリと笑った。
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