第13話 アーシャを訪ねて(誠サイド)

誠は、ガルダの命乞いなど気にせず、刀を一度頭上まで振り上げ、そのまま一気に刀を振り下ろす。

敵の頭を縦一直線に斬り裂く、いわゆる兜割りだ。


直後、ガタンッとガルダの体が床へと崩れ落ちる音がギルド内に響いた。


「はぁ、失禁して完全に伸びてやがる…ま、脅すのはこれぐらいにしといてやるか。」


ブンッと刀を振り払い、鞘を出現させて刀を納刀する。


「おぉ…」


周りから、どよめきが起こる。


「お前さん、ギルドマスターを殺したのか?」


近くにいた女戦士に声をかけられた。


「いや、こいつは死んでないよ。失神してるだけ。そもそもこれ、模造刀だから人は斬れないんだ。刃が潰してあるからさ。ま、俺なら真剣に変えることもできるけどね。

それに、こんな男の血生臭い花火なんて、誰も見たくないだろ?ただ床掃除が大変になるだけだし…まぁ、既にこいつの黄色い液体で床が汚れてるがね。」


誠は、初めからガルダを殺すつもりなどなかった。

そのため、本物の日本刀ではなく、模造刀を創り出し、刀身が接触する寸前で動きを止めていたのだっだ。


「なんて猛者だ…剣を持った相手に、無傷で勝っちゃうなんて。」


キラキラとした目で、女戦士に感心されていた。


「まぁな、これで当分はおとなしくなるだろ。じゃあ、俺は先を急いでるからあとはギルドの方でよろしく。」


そう言って、誠はギルドからさっさと出て行った。


残された人々は、しばらくシーンとしていたが、すぐにまたガヤガヤと元の騒がしさをとり戻した。


大きなギルドの建物を出た誠は、災難にあったと思いつつ、町の中央にある神殿へと歩みを進める。


既に日が落ち、空は一面真っ暗になっていた。

街中には、ところどころに松明の明かりがともされ、少し明るい。 


「もう夜になったか…リーナとは未だ再会出来ず…今頃、どこで何してるんだろ?」


ふと、リーナのことを思い出す。


(もしかして、あの別れ道で右の道を通って自分の国、アカルシア王国へ帰ったのかな…オーク達の駐屯地が近くにあるって言ってたっけ。無事に帰れてるといいけど。)


そんなことを考えていると、誠の視界がぼやけ始める。


(彼女が無事なら、それでいい。それでいいんだ。危険な道にわざわざ着いてくる必要はない。どうせまたどこかで会えるさ。いまはただ…先を急ごう。)


心にぽっかりと空いた大きな穴。

その穴の正体が何であるか考える間もなく、ただひたすら、がむしゃらに前へ進む。

誠は、立ち止まりたくないのだ。

その先に待っているのは、虚しさだけだから…


誠は心を整理し、空を見上げながら呟く。


「神殿…まだ開いてるかな?まぁ、行って確かめてみるしかないか。」


10分ほど真っ直ぐ歩いて進むと、大きな塔が次第に近づいてきた。

そして、ようやく塔のある神殿へと辿り着いた。


出入口は1箇所だけあり、そこには門番が4人も立っている。やはり、ここだけは特別のようだ。警備がかなり厳重にされている。

誠は、門番の1人に声をかけてみる。


「すいません、ここに居るアーシャと言う女性に僕が持つスキルの鑑定をしてもらいたくて来たんですが…」


門番「貴様、いま何時だと思っている?アーシャ様は、もうお休み中だ。明日、また出直して来い!」


「まぁ、そうですよね…」


シュンとして今夜の宿でも探そうと、踵を返して立ち去ろうとする誠。

しかし、見知らぬ女性の声に呼び止められた。


「待ちなさい、そこの少年!いえ、異世界から来た人。」


「「リ、リゼット様!?」」


門番達が驚いたように声を上げ、その女性の姿を見るや否や、4人の門番が一斉に跪く。


「へ??」


誠は、驚いていた。呼び止められたことにではなく、自分の正体を既に知られていたことに。


「何故、俺のことを知ってるんだ?」


「あなたが来るのをずっと待ってたわ。詳しい話は後よ。とりあえず、私に着いて来て。」


リゼットと呼ばれていたこの女性は、腰まである黒髪にクールな顔立ち、綺麗な肌色の素肌を隠すように闇のように真っ黒なドレスが身を包んでいた。

歳は20代半ばぐらいだろうか。とても〔大人の女性〕というスタイルをしている。


「あぁ、わかった。」


誠はこの女性の後ろをついて行くことにした。

時折、揺れる後ろ髪の隙間から彼女の素肌が見える。

前から見た時には気が付かなかったが、彼女は背中が空いたドレスを着ていたのだ。


(な!? き、綺麗な背中…)


思わず目のやり場に困る、誠。

誠はまだ[心]が若いのだ。


そんな誠の気など知らず、リゼットはただ前だけを見て、神殿の中の廊下を先へと進んでいた。


しかし…


「気にしなくていいわ。」


彼女が突然、声を発した。


「へ?」


「君は、まだ若いんだね。私は、好きでこの格好をしているだけよ。見ていて恥ずかしがらないで?こっちが恥ずかしくなる………だろう…が…」


言葉の後半、声が小さくなり震えていた。

顔は見えないが、たぶん赤面している。


(え!?見た目、超クール系なのに、何このギャップ!?クール系美女か?いや、それともツンデレ系お姉さんか?)


リゼットは、なぜか急に立ち止まる。

顔色は見えないがプルプルと震えたまま無言でいた。


「あの…もしかして僕の思考、全部読まれてます??」


無言で背を向けたまま、リゼットは頷く。


(挙動がおかしいと思ったら、やっぱりか…)


「・・・・・とりあえず、その…読まないでください。」


彼の言葉にリゼットは、そのまま無言で頷いた。

しばらくして、ようやくリゼットが口を開いた。


「悪かったわね、少年。アーシャに合わせる以上、良からぬことを考えていないか、私が相手の思考を読むのがここの決まりなの。最近、アーシャを連れ去ろうとしたり、命を狙う奴が多くてね。」


「なるほど……いまさっき、割とあなたのセクシーな良からぬ姿を考えていましたが…」


誠は、目を逸らしながら言う。


「わ、私のこと別にいいのよ。気にしないで。歩きながら話そう。ここは無駄に広いから。もうすぐ、地下へ続く階段があるわ。」


そうして、ふたたび廊下を歩き始めた。


「ところで、リゼット…様が来た時、何故、あんなに門番達がかしこまったように跪いたりしてたんだ?」


「リゼットでいいわよ。あれはね…まぁ、気にしないで。」


「もしかして、この町の名前、〔リゼッタ〕と関係あります??」


「・・・あなた、鋭いわね…いままで生き延びて来られた理由が、なんだかわかる気がするわ。」


「俺も伊達には生きてませんから。」


誠は、自慢気に言った。


「うふふ、そうみたいね。

この町の名前、〔リゼッタ〕は私が名付けたわ。元々は、私の母の名だけどね。


10年ぐらい昔、ここは小さな村でね。人狩りの集団に襲撃されて、村1つ丸ごと焼け野原にされたの。その後、囚われていた牢獄を脱出して元々住んでいた村人や帰る場所を失くした人々を集めて、村をいちから作り直した。そして、さらに規模を大きくして町にまで成長させた。当時、その総合的な指揮を取っていたのがこの私。


まぁ、アーシャのサポートがあったおかげなんだけれどね。だから、この町の昔を知る人には英雄扱いされてるって訳よ。」


「なるほど、要は復興に強く貢献し、さらに発展させたってことか。すごい功績だな…」


(リゼットって見た目は超クールだけど、中身はすごく優しい人なのかもしれないな。)


誠は、リゼットにとても感心していた。


「私は、別に大したことはしてないわ。みんなで力を合わせて協力した。ただそれだけのことよ。」


そうこうしている内に、下へ降る階段が見えて来た。


「ここよ。この階段を下へ降るわ。」


「あぁ、わかった。」


階段を降りきると、そこには短い廊下があり、1つの部屋へと繋がっていた。


「あの部屋よ。あそこにアーシャが居るわ。着いて来なさい。」


リゼットが、ガチャッとドアを開ける。


「アーシャ、連れて来たわ。」


「えぇ、ありがとう。リゼット。」


誠も彼女の後に続き、その部屋に入る。

部屋の中は、四方をレンガの壁で囲まれており、真ん中にポツンッと長方形の机、それを挟んで向かい合うように置かれた椅子があった。

そして、奥側にある椅子にはアーシャと呼ばれる女性が既に座っていた。


「初めまして、誠と言います。」


「どうも初めまして、私はアーシャよ。立ち話も何だから、どうぞ、そこの椅子に座って?」


「あ、はい…どうも。」


誠は、アーシャに促され、彼女に対面する椅子に座る。

リゼットは、アーシャの後ろにある部屋の隅っこで腕を組み、壁に寄り掛かって身を預けて無言で会話を聞いていた。


「こっちの世界に君が来てから、いつか私を訪ねて来ると思っていたわ。」


「なぜ僕が異世界の人間だとわかったんです?それにあなたを訪ねてくることも。」


「それは簡単よ。私、スキルが見えてるから。出現と同時に見えていた。そして、こちらの方に近づいて来ていたから、おそらく私に鑑定してもらいに来るだろうって思ってね。」


「遠くにいても、他者のスキルが見えるんですか??」


「ん~、ノーマル(N)のスキルだったら、遠くからでは見えないかな。スキルに輝きがないんだもの。まぁ、レア(R)なスキルだったらギリギリ見えるぐらいかな…あなたの場合は、他の人と違って太陽のような目が痛くなるほど強烈な光を放っているのよ。ねぇ?リゼット。」


リゼットは、無言でコクリッと頷く。


「え、リゼットにも見えるんですか?」


「いいえ、彼女の場合は人魂のような形をした光としてスキルを認識をできるみたいなの。だけど、それがどんな内容のスキルであるかとかまでは知ることは出来ないそうよ。まぁ、彼女のスキルはちょっと複雑でね。いろいろなことが出来ちゃうの。」


「な、なるほど…」


(他者の思考も読めるし、スキルも認識できる…一体、何のスキルなんだろ。)


「さて、スキルの説明をする前にあなたに聞いておきたいんだけど…」


アーシャが真面目な顔で落ち着いた声で言った。


「はい、何ですか?」


「あなたが持つそのスキルの力、今後、何のために使っていこうと思ってる?深く考えなくていい。率直な考えを聞かせて?」


まるで試されているかのようだった。

いや、違う。これは試されている。


(何のためにスキルを使うか…)


誠は、この世界に来てからのことを思い出す。

リーナと最初に出会った時のことが脳裏に浮かぶ。


(ははっ、考えるまでもないじゃないか。)


既に答えは出ている。

そして、彼は口を開いた。


「俺は……」


誠は思いの内を語った。


「なるほどね…いいと思うわ。リゼットはどう感じた?」


「彼の言葉に裏表はなかった…清廉潔白だったわ。それに、私とは馬が合いそう。」


(あ、なるほど。また俺の思考を読んでたわけね…)


「気を悪くしないでくれ、誠。それほど君のスキルは危険なんだ。」


リゼットは、ただ淡々と言う。


「危険??」


この誠の疑問には、アーシャが答えた。


「えぇ、あなたが使い方を間違えれば、この世界そのものを根本から破壊できるぐらいにね。だから、このスキルを持つ君がどんな考えを持つ人間か知りたかったの。まぁ、善人か悪人かってやつね。」


「なら、もし俺が全ての国を滅ぼしたい!なんて言う悪人だったら、どうするつもりだったんだ?」


「それは…滅ぼす[目的]にもよるかな…。ねぇ?」


アーシャは、ちらっとリゼットの方を見た。

リゼットの方は、そんなアーシャの視線を感じて、ぷいっと壁の方へ顔を逸らす。


(え?世界を滅ぼすのはダメだけど、国なら別にいいのか…悪人の基準がよくわからんな。)


「極論だが、物事に善も悪もない…全ては、それを見る人の見方次第よ。」


リゼットは、顔を逸らしたまま言った。


誠は、アーシャの予想外の返答とリゼットの言葉に対して、頭に疑問符を浮かべる。


「もぅ、リゼットたら…そんなに拗ねないでいいのに〜。まあ、彼女のことは気にしないで。

話を本題に戻すけど、もしも君が悪人だったら、その時はリゼットの出番!って通常はなるのよ、通常は。ただ…君のスキルには無理みたいね。彼女にも喰べれないわ。」


「えぇ、試しに私もさっきやってみたけど、全く歯が立たなかったわ。堅いというか噛めないというか…」


「いつの間に!?てか、何勝手にやってんの!?」


誠は、驚いていた。勝手にそんなことをされたことにもだが、そもそもリゼットはさっきからずっと隅の壁に寄り掛かって立っていて、スキルを使う素振りも何の構えもしなかったからだ。


(攻撃が早過ぎて見えなかった…?)


「いや、違う。そもそも私の使う白い竜は誰にも見えないわ。なんなら、いまもここにいるわよ。」


誠が口に出さず、頭の中で考えていたことに、リゼットはそのまま答える。


「だから、人の思考読むなよ…リゼット。」


誠がリゼットの目をジーっと見る。


リゼットは、ばつが悪そうに目を逸らした。


「まぁ、そのスキルの持ち主が君なら安心ね。ちょっと待ってて?すぐそっちに行くから。」


「え?アーシャさんは、さっきから僕の前にいるんじゃ…」


と言ったのもつかの間、アーシャの姿がユラユラと消えた。


そして、何の変哲もない右側の一枚壁の奥底の方から、誰かが駆けて来る足音と…


「こりゃ!アーシャ、勝手に先へ行くでない!我を待つのじゃー!!」


その足音と共に来る、どこかで聞き覚えのある女性の声が聞こえた。


「この声は、まさか…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る