第12話 飛んでくる火の粉は振り払うのみ(誠サイド)

誠は、町の中央にある神殿へ行く前にギルドへ立ち寄ることにした。


ギルドの建物へ入ると、武器や防具を装備したハンターや戦士達で溢れかえっていた。みんな端の壁の方に集まってガヤガヤと仲間同士で様々な話をしている。

少し奥に進むと受付カウンターがある。


受付カウンターには、受付嬢がいた。


「なぁ、いまある依頼や任務を見せてほしいんだが…」


誠が受付嬢へ尋ねる。


「すみません。ギルド登録している人にしか情報を開示できない決まりとなっています。」


「そうか…なら、登録したいんだが、登録にはどれくらいかかる?」


「新規の登録だと、ギルド証を発行するのに1週間ほどかかります。」


「1週間か…」


(そんなに待てないな…情報が欲しいだけだし、登録は不必要か。それに方法は他にもあるし。)


「わるい、気が変わった。邪魔したな。」


誠は踵を返して受付カウンターから立ち去る。

そして、ガヤガヤと騒がしい輩がいる壁側に行き、壁にもたれ掛かり身を預ける。

目を瞑り聞き耳をたてると、様々な声が聞こえた。


ハンターA「なぁ、聞いたか?最近、絶滅したと思われていた竜族のドラゴンが確認されたんだってよ。」


ハンターB「あ?確か人間の反乱軍によって滅ぼされたと言われていたあの竜族がか?」


ハンターA「あぁ、ほんとなんだって。」


ハンターB「バカな…それが本当だったら、人間を恨んでいる筈だ。もしかしたら、戦争になるかもな…」


ハンターA「大丈夫だって。またあの強力なスキルを持った4人組が返り討ちにするさ。」


ハンターB「お前、知らないのか?その4人の内、既に2人は三途の河を渡ってるよ。どうも何かに殺されたらしい…なんせ、手足を食いちぎられた状態で死体が見つかったとか。惨たらしいたら、ありゃしない…俺はあんな死に方まっぴらごめんだね。」


(俺が知りたいのは、これじゃあない…)


陽気な戦士「あ、それ!あ、それ!あ、それそれそれ!」


その仲間A「な、こいつ上手いだろ?裸踊り。」


その仲間B「あはは、何やってんだよ!」


(裸踊り? 酔っ払いでもいるのか…)


戦士リーダー「さて、2日後の午後1時にオークの基地を襲撃する。そこでだ!まずは、オークについて知ることだ。」


戦士A・B・C「はい!」


(ビンゴ!知りたい情報を見つけた。)


戦士リーダー「オークはな、種族柄、頑丈かつ剛腕と言われている。一撃もらえば重症だ。だが、幸いなことに動きは鈍い。くれぐれも遅れをとるなよ。」


戦士A・B・C「了解です!」


戦士リーダー「それから、オークは現在、仲間と協力をし、基地を作って駐屯し、警備を張っているそうだ。どういうことかわかるか?それだけ人間と同じ知能があるということだ。くれぐれも魔物だからと言って舐めて掛かるなよ。」


戦士A・B・C「了解しました!」


戦士リーダー「では各自、戦に備えて準備しろ!たくさん食べて、休息をしっかりとるんだぞ!」


話をこっそり聞いていた誠は考えていた。


(オーク達は、人間並の知能を持っているのか…つまり、ただただ馬鹿力を振り回すような一辺倒の闘い方ではなく、相手の攻撃を見ながら反撃してくると考えていいな…馬鹿力だけの脳筋野郎なら、まだマシだったが、知能があるなら直接戦うには厄介な相手だ。やっぱり、あの策で決まりだな…

よし、もうギルドに用はない。先を急ぐか…)


誠は、より掛かっていた壁から身を起こし、ギルドの出入口に向かって歩き始める。

すると、シャツの上に革で出来たジャケットを羽織った剣士のような格好をした男に声をかけられた。


「おい!そこのお前!なんだその格好は?わははっは、丸腰じゃないか。その格好でうちに何しに来たんだ?うちは子守りをするところじゃねーぞ。」


明らかに偉そうな態度をとる男。

確実にこちらをバカにしている。


「ん?俺か?名乗るほどの者じゃない。まぁ、気にするな。ちょうどいまから、退散するところだ。じゃあな。」


(うわぁ、面倒くさい奴に絡まれた。適当に流してさっさとこのギルドを出よう。)


誠は相手にせず、男の横を通り過ぎようとする。


「おい、待てよ。だれが帰っていいと言った?」


すると男は、腰に差していた剣を抜き放ち、誠の目の前に突きつけ、通すまいと進路を妨害する。


「はぁ…お前と争う気はない。いったいどういうつもりだ?」


誠が慎重に尋ねる。

すると、男は得意げに返答した。


「俺はこのギルドの支配人、ギルドマスターのガルダだ。ここは、我がギルド。つまり…ここでは私がルールだ。」


「ほう、それで?お前に合わせろと??

残念だが俺はここのギルド会員じゃないし、ここを利用するつもりもない。

ユー・アンダー・スタンド?おわかり??

つまり、さっさとどけろやクソ野郎って意味だ。」


すると、それを聞いたガルダの眉がピクピクとしている。


(自尊心が強いやつほど、挑発に乗りやすいんだよな〜。)


誠は、ガルダをさらに挑発し拍車を掛ける。


「ははは、言葉が通じてるようで嬉しいよ。もし通じてなかったら、いいゴブリンのお医者さんを紹介してあげようと思ってたところなんだ。」


「ぐ…ぐぬぬ…」


誠は、当初見過ごすつもりでいたが、この程度の男がこのギルドの支配人であることに憤りを感じていた。

そこで、この傲慢な態度を取る男の天狗の鼻を折ってやろうと方針を変更したのだった。


こういうタイプの奴は、自尊心を傷つけられたり、自分の思い通りにならないと必ず憤慨する。

それを誠はわかっていた。だから、あえて挑発した。


「ふーぬ、おのれ!ここで死ぬがいい!」


ガルダが剣を振り上げ、そのまま斬りかかろうとする。


戦士「何やってんだ!?あいつら!!」


受付嬢「キャーーー!!!」


周囲にいた人達も、ようやく事態に気づく。

悲鳴を上げてその場に固まる者、外へと逃げ惑う者、武器に手をかけ身構える者、周囲の反応は様々だった。


誠も相手が斬りかかってくるのが分かっていた。

だが、あえてその場から1歩も動かなかった。

誠は身構えることも、避けようともしない。

ただ平然とした顔で立っていた。


迫り来る刃、斜め上から斜め下へと剣が振り下ろされる。誠には、ザシュッと斬られる感覚はあった。

しかし、血飛沫はおろか、誠の体が真っ二つになることはなかった。


「ふう…これが2回目だが、いつ斬られても気持ちのいい感覚ではないな。さて、お前のターンは済んだか?」


誠は以前の戦いで、剣による斬撃は自分には効かないことに気がついていた。

知っている側からすれば、すごく当たり前の出来事であるが、知らない者達からすると…それはもはや恐怖である。


「な、な、なんで…そんな…いまたしかにお前を斬ったはず…斬った手応えもあったのに、何故だ?」


床にドスンっと腰を抜かすガルダ。

ガルダの顔はおろか、周囲の人間の顔まで困惑した顔をしている。


戦士「なんだあいつ、亡霊か?」


女戦士「いや、さっきからずっと居たし…彼のスキルなんじゃないかしら。」


誠は、ガルダを見下ろしながら言った。


「さて、俺のターンだな。お前はさっきあっさりと剣を腰から抜いたがな…俺の元いた国には〔侍の掟〕ってもんがある。つまり、お前が好きなルールってやつだ。知ってるか?」


ガルダは真っ青のまま、首を横に振る。


「まぁ、当然だろうな。この世界に侍なんていないし、そもそも歴史が違うしな。

まぁいい。その掟にはな、刀を抜いたら最後、どちらかが死ぬまで斬り合わなければならない。だから、簡単に刀を抜くなって書いてんだ。意味わかるか?


つまりだ…どちらかが死ななければ終われない。

そしていま、俺もお前もまだ死んでいない。」


誠が手のひらを下に向けた状態で、右手を体の前に突き出す。


「ナイガル…」


冷酷な声で言った。

その途端、誠の右手には日本刀が握られていた。

周囲の光を反射し、刀身が綺麗に光り輝いてる。

もう既に鞘から抜かれた状態だったのだ。


98.1㎝もある日本刀。切先は鋭く尖り、滑らかに湾曲した刀身が鏡のように丁寧に磨かれていた。

誠は、出した日本刀の状態を見ながら言った。


「圧切長谷部へしきりはせべって刀なんだが、知ってるか?

昔な、天下統一を果たしたお偉いさんに無礼を働いた奴が逃げ惑い棚の下に隠れた。普通なら、そいつを引っ張り出してからじゃないと、刀が刃こぼれしたりして斬れないんだが、この刀はその棚ごと人間を斬り殺したんだ。

無礼な奴を斬り殺した刀…まさに、いまのお前にピッタリの刀だとは思わないか?」


誠は、切先をガルダの首筋にあてる。

ひんやりと冷たい死の感触を受けたガルダは、ガタガタと小刻みに震え、床を黄色い液体で濡らした。

震える手で床に落とした剣を握ろうとするが、まったく握れていない。

完全に心が折られ、戦意喪失していた。


「まっ、ま、ま、待ってくれ…」


「何を待つんだ?」


「か、金ならある。100万Gでも200万Gでも、いくらでも払おう。それにこのギルドの中でも特権階級であるVIPの称号をやろう。関連施設の利用が全てタダになる。ど、どうだ?」


「ほぅ?その程度か…」


「え…?」


「足りない」


「そ、そう言われても…他にもう出せる物はない。」


「俺が言ってるのは、物じゃない。お前の気持ちだ。」


「気持ち…?」


「いまのお前は、ただこの場を生き伸びたいだけ。その場凌ぎで、金や物を与えて解決しようとする時点で、微塵も自分が悪かったと思ってねぇだろ?」


「そ、それは…」


「心配するな。この刀は物ごと人をぶった斬れるほど、斬れ味がいいんだ。長く苦しみはしない。それじゃあな、無礼で恥知らずのギルドマスターさん。後悔なら、あの世でどうぞ。来世では、非礼の詫び方でも学ぶんだな。」


「ひ、ひぃ!」


誠は、ガルダの命乞いなど気にせず、刀を一度頭上まで振り上げ、足を開いて重心を落とした。そして、両手で構え直した後、そのまま一気に刀を振り下ろす。

敵の頭を縦一直線に斬り裂く、いわゆる兜割りだ。


直後、ガタンッとガルダの体が床へと崩れ落ちる音がギルド内に響いた…

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