第2話 逃走/スキルの開花/潜伏と諜報

誠とリーナの2人は人狩りに気付かれぬよう、足早に洞窟を後にした。


しかし、それに勘づいた人間がひとりいた…


「なんだこの異様な気配は……あ!いたぞ、あそこだ!洞窟から出てきたようだな。白髪の長い髪の少女と、ここらじゃ見ない服装の少年が1人。捕縛依頼があったのは、きっとあの少年に違いない。皆の者!急いで追うぞ!!」


リーダー格の騎士兵の男が配下へ指示をする。


騎士兵「「「了解!!!」」」


山賊A「やっといたか…了解だ。」


山賊B「了解よ。」


山賊C「追うのめんどくせ〜。」


山賊D「金の為だ、さっさと行くぞ!」


一方その頃、リーナと誠は洞窟から駆け出し、出来るだけ目立たぬように、山道から1本それた草木が生い茂る森の中を走って移動していた。


「そこの者達!止まれ!止まらぬか!!」


急に後方から怒号のような男の声が聞こえた。

それに加えて大勢の足音が聞こえてくる…


(止まれと言われて、いったい誰が止まるんだよ。)


誠はそんなことを思いながら、走りながらチラッと後方を走る追手の姿を見る。

数は15人前後といったところだろうか。

丁寧に数を確認する余裕はなかった…


その集団の中には山賊のような格好をした者達が多く、緑色の鎧を来た騎士兵達が何人か混ざっていた。


(高潔なはずの騎士と外道な山賊…なぜ正反対の存在が共に協力してるんだ??)


「まずい…人狩り達に見つかったようです。」


リーナが走りながら言った。


(まじか…考えごとをしてる場合じゃないな。急いで逃げなければ!)


「リーナ、村まであとどれくらいだ?」


誠は、リーナへ尋ねる。


「そうですね…30分はかかると思います。」


2人で残り30分を走りきるには、体力に限界がある…

人狩りに下手にスキルを使われて、距離を一気に詰められる可能性だってある。


(いったいどうすればいいんだ…ん?スキル?あ!)


「リーナ、お前は『透過』スキルを使って、先に村まで逃げてくれ!そして、村の警備を呼んできてくれると助かる!それまで、追手は俺が引き受けよう。」


(きっとこれが最善の選択肢であるはずだ。)


「そんな、大丈夫ですか?!誠さんは、まだ自身のスキルさえもわからないのに…」


「賭けさ。2人とも捕まるよりはマシだろ?それに、追い込まれた人間はそう簡単には死ないのさ。俺のことはいいから、先に行け!早く逃げろ!!」


「わかりました、ご武運を!必ず戻ってきます。それまでの間、持ち堪えてください。」


森の中にある崖の下へと段々近づいてきた。


「あぁ、大丈夫さ。あそこの崖下の角を曲がるぞ!奴ら追手から、俺たちが一瞬見えなくなる。

その隙にスキルを使って、お前は静かに逃げろ。」


「わかりました。くれぐれも、死なないでくださいね…」


「あぁ、上手くやるさ。じゃあな、一旦ここでお別れだ。」


そう言って、崖下の角を曲がった。

リーナの姿は消えていた。


(あとは、わざと俺が目立てばリーナの逃走には気付かれないはず…でも、単純に目立ち過ぎれば俺が捕まる。あぁ、どうにかならないか?考えろ、考えろ!)



〔背水の陣…昔、誰かが言っていた。「兵は死地においてこそ、初めて生きる」と。〕



(何かおかしい…追手は、追いかけて来るだけで、未だにスキルを使った妨害や攻撃をしてこない。

いまの現状を見る限り、おそらく「出来ない理由」があるはずだ。捕らえるために最適なスキルがないのか、スキルを使うための力がないのか。

それとも、射程範囲外か…何とかして、人狩りの追手を振り切らなければ。)


追手は、もうすぐそこまで迫っていた。


(そうだ!敵に目眩しさえできれば…先へ行ったリーナも俺も安全に逃げられる。でもどうすれば………そうだ、崖の岩壁だ!岩壁を破壊すれば砂煙を起こせる。そうすれば、敵の視界を奪えるはず。あそこの岩壁をどうにか爆破して…いや、俺には無理か…爆破なんて《出来ない》)


そう思った瞬間、岩壁が大きな音を立てて崩れ落ちた。それも大規模に崖全体がもろともに…


大規模な爆発で砂煙を立ててくれたのはいいが…

土砂崩れをおこし、道を全て塞いでしまった。


謎の爆発による崖崩れにより、誠の進路は無くなってしまった。


目の前は、先程の崖崩れにより土砂が森の木々にまで達している。

土砂の山を真っ直ぐに乗り越えていく時間はない。


進路も退路もない中、砂煙が濃く視界が悪いのだけが幸いだった。


「こうなったら…」


急いで右へ方向転換し、森の中の方へ走る。

次第に砂煙が収まり、周囲が見通せるようになってきていた。


誠は、いままでずっと走り続けていたため体力の限界が近かった。


(頼む!俺に気付かないでくれ!)


誠は心の中で必死に願ったが、それは叶わなかった。


「おい!あっちに逃げたぞ!追ぇー!!」


(クソっ、気づかれたか!ダメだ…もう足が棒のようだ。とりあえず、隠れなければ…)


誠は、背の高い草の茂みの中へ入り、しゃがんで息を潜めた。


「この辺りにいたぞ!皆の者、探せ!!」


リーダー格の騎士兵が叫ぶ。

その声は、誠のいる場所から少し遠くの方で聞こえた。


(いまの声の大きさから考えるに、敵兵はまだ近くにはいないはず…)


移動するべきか、留まるべきかそう考えていると、次第に足音が近づいてきた。


(やばい…このままじゃ見つかる!)


姿勢をさらに低くし、身を屈めて気配をさらに消す。


すると、1mほど先の茂みで足音は止まった。

金属同士が触れるカシャカシャッという音とズリッと何やら布のようなものを下げるような音がする。


発する物音でわかった、この音の正体は1人の敵兵だと。


「こんなとこに茂みがあって助かったわ。最近、体が冷えるせいか、おしっこが近いのよね〜。」


直後、ジョーッという何とも言えない音が、誠がいる場所のほんの少し先でしている。


「な……。」


誠は思わず声をあげそうになった。

しかし、いま居場所がバレてはまずい。

匍匐の姿勢になり、見ないように顔を地面に伏せて息を殺す…


(何でこんなところで用を足すんだよ……お花摘みに行くなら、ちゃんとお花畑に行ってこい。)


「ふぅー、スッキリした。良かった、誰にも見られていないわね。組織は男どもばかりだから、恥ずかしいのよね…さてと、さっさと少年を見つけて国王様のところへ戻らなきゃ。」


また、先程と同じようにズリッと布を上げるような音がし、金属同士がカシャカシャッと触れ合う音と共にそんな女性の声がした。そして、その足音はまた遠くへ去って行った。


(まったく、野ションするなんて……それよりも、国王様?何故だ、俺たちを追っていたのは人狩りじゃないのか??)


人狩り…騎士兵と山賊の協力…そして、国王様。


(いったい何がどうなっている??)


一見、関連がなさそうなキーワードによって、誠の頭の中に疑問が湧き上がった…

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