第3話 鬼ごっこ/ニア/一喜一憂

人狩り、騎士兵と山賊…そして、国王様。

3つのキーワード。


誠の中に、疑問が湧き上がった。


(だが、国王の命令にしては変だ。国王の命令なら、配下の騎士兵達だけを動かすはず…何をしでかすか分からない山賊のゴロツキどもと組む理由はない。なぜ騎士兵と山賊は組んでいる??)


真相を知りたい探究心と、戦闘になったらどうしようという恐怖心が、誠の心の天秤にかけられる。


「・・・・・。」


(いまは武器も何もない。あの崖の爆発は自分のスキルだったのか、自分を足止めするために使ったスキルなのかさえわからない。敵兵に鉢合わせたが最後…俺に勝機はないな。とりあえず、いまは逃げるのが最善の選択か…)


敵兵の足音と話し声が段々遠ざかって行った。

遠くへ過ぎ去ったのを確認し、念のためさらに数分待機した。


「もう誰もいないようだな…」


目的の村まで一気に走って向かおうと、茂みから森の一本道へ抜け出すことにした。


一本道は、先まで見通しが効く分、敵兵に発見されやすいが、木々や草などの障害物がなく平坦な地面であるため、茂みの中を走るよりも速く走れるからだ。


(村へ到着すれば、こっちのもんだ。ひと足先に村へ向かったリーナが警備へ事情を伝えてくれてるはず…そうなれば、あとは村の警備に匿ってもらえるはずだ。)


つまりは、〔鬼ごっこ〕

たとえ敵兵に発見されたとしても、捕まる前に村へ到着さえすれば誠の勝ちだ。


一本道へ出る前に、茂みから周囲を警戒する。

道の両端・周囲の茂み・木々の横とその上…


隅々まで警戒し、異変や敵影がないか細々と茂みから頭だけをひっそりと出して周囲を確認していく。

敵影も人間が出す異音も全くなかった。


「オールクリア…いまのうちに逃げよう。」


茂みから一本道へゆっくり移動し、再度、道の前後両端を確認し、呼吸を整えて…勢いよく茂みから飛び出して、村へと向かって誠は一本道を走り出した。


すると数歩走った途端、さっきまで誰も居なかったはずの一本道で、何かにぶつかった。


「…痛っ!?」


ぶつかった勢いで、誠は地面に転がる。


(茂みから道に出る直前に確認した時は誰も居なかったはず…てことは、スキルだ。何も見えないということは…『透過』スキルか!)


『透過』スキルの持ち主なら、1人だけ知っている。


「もしかして、リーナか?」


(先に行ったリーナが戻って来たのかもしれない…)


しかし…彼の期待は虚しく散った。


パンッという音と共に、宙へ向けて何かが放たれた。

それは空高く飛んだと思いきや、強い光と破裂音を放ち爆発したかと思うと、残り火のようにしばらく光続けた。


そう、それが〔ぶつかった何か〕の答えだった。


「・・・!!」


咄嗟に起き上がり身構える誠。

しかし、特に何も起きない。

スキルの攻撃ではないようだ…


まさか、信号弾?それなら、まずい。そもそもこの世界に、現代のような文明があるのか?もしそれなら、剣なんかより銃器を使うはずだよな…


「ぶつかっておいて、非礼の詫びもなしか?異世界人よ。まぁ、周囲に溶け込んで道の真ん中に立っていたのは私の方だがな。」


虚空から声がしたかと思うと、頭から徐々に足に向かって姿を表した。緑色のラインが入った鎧と白いドレスを一体化させたようなアーマードレスを着た、黒髪のショートヘアの女が腕を組んだまま立っている。


その手に信号銃のような物などは何もない。

おそらくスキルか、自力で上空へ投げて信号弾のようなものを爆発させたようだった。


「ばぁ…なんてな。」


「何故、俺が異世界人だということを知っている?

それに、お前は誰なんだ?」


「私は名乗るほどの者でもないが…ニアだ。

昨日、1本の木が立つ丘に雷のような大きな眩い光が差し込んでな。

以前もそのような現象が起きた時、その光の差す場所にこの世界では見ない服装の人間が倒れていたことがあってな。そいつが異世界人だったんじゃ。

というか、こんな昔のこと知らなかったとしても、お主の服装を見れば、この世界の人間じゃないことぐらい、すぐわかるじゃろうが。」


「た、たしかに…」


もっともなことを言ってくるし、女の語尾に年齢を感じるが、この女、歳は20代後半〜30代前半ぐらいだろうか…見る限り意外と肌艶がよく顔立ちが綺麗に整っている。


「おっと…じゃあな、異世界人。また会う時があれば語ろう。」


「おい!ちょっと待ってくれ!お前が昔に会った、その倒れていた異世界人って…」


「もし今度、生きて再会できたら教えてやる。

それまで、さらばじゃ。

あとは任せた。私はフリーランスでな。

異世界人の少年を探せとしか、言われていない。

戦闘は苦手でな。」


ニアと名乗る女の言葉…後半は、誠に向けられた言葉ではなかった。


ニアはそのまま去っていった…いや、正確にはまた虚空へと消えたのだ。


ニアと入れ替わりで、虚空から現れたのは…緑色の鎧を装備した騎士兵達と山賊だった。

誠の周囲を取り囲み、剣を抜いて切先をこちらへ向けていた。


「いったい、どうなってやがる…」


「お前を包囲した。動くな、さもなくば斬る!」


リーダー格の騎士兵の男が、誠に剣を向けながら言った。


「お前達は、誰だ?いったい何が目的だ??」


「私は騎士団長のアレクだ。国王様よりお前を捕縛するようにとの命令が降った。おとなしく投降しろ!」


「俺を捕縛して、どうする気だ?」


「それは我々も知らされていない。」


「まじかよ…」


(非常にまずい状況だな…さて、どうする。ん?待てよ……俺の周囲を取り囲み、わざわざ剣を向けて投降を呼びかける辺り、強制的に拘束できるようなスキルを持つものが居ないということだよな…)


誠は無言で腕を組み考え込む。


「ほら、何をしている。さっさと両手を上げておとなしく地面に伏せろ!」


騎士団長のアレクは、痺れを切らして催促する。

しかし、誠はその言葉へも動じない。


「・・・・・。」


(俺は異世界人…てことは素性の知れない異端者。

俺は丸腰でスキルもわからないから、いまは何も抵抗する手段はないが、それを相手は知らないはず…

皆殺しにできるような、強いスキル保持者の演技でもして、ハッタリかませば何とかなるかもしれない。

それに、捕縛命令ということは、俺を絶対に殺せないはずだ。)


そして、ようやく考えがまとまり誠が口を開いた。


「何をされるかもわからないのに、おとなしく捕まれだと?お前ら、いったい何様のつもりだ?

いったい誰に剣を向けているか理解しているか??」


(高圧的な口調で、ボスキャラ風に演じれば…)


「ほら、ここ見ろ。ここらの地面は強い陽射しで、カラッカラッに乾いてやがる。これじゃあ、植物が可哀想だ…なぁ?お前達もそう思うだろ?」


問いかけられた騎士兵、並びに山賊達は〔こいつは何を言っているんだ?〕と頭に疑問符を浮かべ戸惑いを見せる。

誠はそんな様子など気にすることなく、言葉を続ける。


「つまりだ、ここら一帯へ水を撒いてあげる必要がある。それも、たっぷりとだ。誰か水を持ってるやつ居ねーか?居ねーな??

残念なことに綺麗な水はねぇみたいだ。だが、ちょうどいいところに、鉄臭い真っ赤な水ならここに豊富にあるようだ。どれどれ、ひぃふぅみぃ…」


誠が取り囲む騎士兵や山賊達を、一人一人指差しながら数え始める。


「「うぅ・・・。」」


誠の言葉の意味を理解したのか、取り囲む騎士兵や山賊達は、少し後退りをし始めた。


「ふむ…たっぷり水が入った容器が15個分はあるようだ。さて、お前らに選ばせてやる。ここで五臓六腑を撒き散らして大地の栄養分となるか、それともここはおとなしく引き下がるか…

いや、やっぱ全員分、ここに撒き散らしてやろうか?俺のスキルは、便利でな。剣などなくても、貴様らをミンチ肉にするなど容易いもんだ。」


(全てハッタリであるが……頼む、ビビって引け!この場を引いてくれ…)


そう言って誠は、テレビでしか見たことのない格闘技の構えを真似した。


取り囲む騎士兵達の顔が青ざめ、剣を構える手もブルブルと震えてきている。


山賊に至ってはこの場の恐怖に腰を抜かし、もう既に逃げ去り始めていた。


スキルの有無など、いまは関係ない。

敵にとっては、相手が未知であるということ自体が恐怖の的であり、誠にとってはそれが武器なのだ。


「な、なんてやつだ…禍々しいオーラまでしてやがる……皆の物、予定変更だ。これより、対象は危険人物であるとし、捕縛は不可、対象の抹殺へと予定を変更する。」


「「「ははっ!!!」」」


騎士兵達は、返事をし再び剣を構え始める。


「は??」


誠は、まさかの展開に今度は誠が驚く。


「危険な人物であれば、各自の判断で殺せとの命令も国王陛下より預かっている。このままお前を生かしておくわけにはいかない…この場で地に沈めてくれる!!」


騎士団長のアレクは誠へ叫ぶ。

それを聞いた誠は、思考がフリーズしてしまう。


(え、嘘、まじで?ちょ、やめて?山賊達みたいに、さっさと逃げてくれない??強キャラ感を出したのが仇になったか…?)


「我が奥義をくらうがいい!!」


アレクは剣を上段構えでこちらに向かって来た。

その剣は、いつのまにか炎を纏い燃えていた。


(ヤバイ……俺、死んだな。せっかく知らない世界でリーナって言う可愛い女の子と仲良くなれたのに…

このまま斬られて燃え尽きて終わるのか…


あぁ、斬られたく《ない》、燃え尽きて終わりたくなんか《ない》、そしてまだ死にたく《ない》。


俺には、やり残してることがまだたくさんある。

死ねない…生きて再会すると、あの子に約束した。

あぁ、また、あの子に会いたい…)


こんなことを考えている間に…とうとう騎士団長の必殺の一撃が誠を襲った。


そして、ようやく「いま」(第1話)の状況に至る。


「なぜだ!いままで数々の者どもを地に伏してきた一撃だったんだぞ!それなのになぜ…お前はまだ立っている!?」


緑色の鎧を着た、炎に包まれた剣を持ったアレクは驚きの声を口にした。


「さぁ、なんでだろうね?」


中心に立つ少年…誠は、無傷のまま不敵な笑みを浮かべてみせた。


冷や汗を額にかきながら、誠はいまの状況について整理して考えていた。


(俺はさっき、確実に斬られた感覚はあった。だが、俺の体に擦り傷ひとつなく、おまけに着ているTシャツやズボンにも全く斬られて裂けたような場所はない。無論、炎で燃えた痕跡も…

敵に俺が見えていると言うことは…俺は死んでもいないようだな。

ひょっとして、俺がさっき斬られる直前に怖れて考えていたことが、全て無効化されている?)


「い…いったい何なんだ貴様は!?」


アレクは驚きとともに、その声は微かに震えている。


「・・・・・。」


誠は、無言でただ考えていた。


(このまま戦闘を続けられるのは困る…俺は戦い方なんて知らないし、この仮説が合ってるかもわからない。下手に戦闘を長引かせてしまうと、自分の頭と体がおさらばする可能性もある。

とりあえずいまは、ボスキャラ並に強いんだぞアピールを継続して、軽く脅かしてからさっさとお引き取り願うのが最良だな。)


そして、誠は口を開いた。


「さぁな。それよりもさっきのお前の攻撃、一撃必殺の奥義だったようだが……俺に何かしたか?痛くも痒くもないが…」


そう言いながら誠は、手を横に広げやれやれといったポーズをしながは、アレクをひと睨みした。


「ぐぬぬ……」


騎士団長のアレクは、完全に押されていた。

戦局はもう既に決している。


奥義が通用しない時点で、アレクの中で敗北は確定していた。しかし、彼は諦めていなかった。


「まだだ!1対1で勝てないなら、取り囲んでいる騎士全員で一斉に総当たりすれば良い。いくらお前が相手でも、この数に勝るものはないはずだ!野郎ども!構えろ!!」


アレクが仲間の騎士兵達に叫ぶ。

すると、後退りしていたはずの騎士兵達がその言葉に鼓舞され、次々に戦意を取り戻し始める。


騎士A「あぁ、そうだ。騎士団長の言う通りだ!みんな構えろ!」


騎士B「俺たち全員でかかれば、倒せるさ!」


騎士C「仮に物理攻撃がダメでも、私のスキル攻撃なら有効なはず!!」


誠は、顔色ひとつ変えないものの内心は冷や冷やとしていた。


(クソッ…これでもまだ退かないのか。まずいな…さっきはたまたま運良く生き延びただけだ。もし一斉攻撃をされれば、いくら俺でも耐えられないかもしれない…なんとかして、こいつらの総攻撃だけは回避しなげれば…)

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