写真を撮る

いつでもいいっていったって、


やっぱり早いほうがいいだろう。


彼女を送り出してから急いで支度をして、


開店の時間に合わせてまずスーパーまで向かう。


何となくだけれど昨日写真の機械を見かけたような気がしたから。


店員らしいおばさんが


入口のあたりをウロウロしていたので


聞いてみたら案内してくれた。


おばさんは遠ざかりながら何度かぼくのほうをふりかえる。


やっぱり上着はあったほうがいいのかな。


どうしようもないけどさ。


そんなこと考えながらぼくはカーテンを閉めて


せまい空間で備え付けのイスにすわる。


しばらくして写真が出てくる。


気に入らないけど、それはいつものこと。


最近撮った写真で気に入ったものなんて一枚もない。


大丈夫。別人には見えない。


ぼくはスーパーを出て地下鉄の駅に向かう。


そしてメモを取り出して降りる駅を確認する。


「お電話いただけるとよかったのですが」


受付の女の子がぼくに言う。


そうだよね。


いつでもいいっていうから


小さい会社なのかなって思ってたら、


それなりの会社だった。


やっぱりアポぐらい取らないとまずいよね。


そう思いながらぼくはまたポケットからメモを取り出す。


ちゃんと電話番号が書いてある。


なんかもう、すっかり結果が見えちゃったって感じ。


でもさ、そもそも僕はこの会社のこと何にも知らないんだよね。


わけもわからずここに来ちゃったけれど、


うまいことごまかせるかな。


何となくおどおどしているぼくの前で、


受付の女の子はニコニコしながらぼくに何やら説明している。


どうもこれからぼくが行く


部屋の場所のことを説明しているようだ。


受付の女の子は、彼女が説明していることを


ぼくがほとんど理解していないことがわかったのか、


立ち上がってぼくを部屋まで案内してくれた。


ぼくは受付の女の子にすすめられるまま、


通された部屋のパイプ椅子に腰をかける。


ぼくの前には折りたたみ式のテーブルが置かれている。


受付の女の子が出ていって、


ぼくは一人この殺風景な部屋に取り残された。


時間だけが過ぎていく。

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