三毛猫は彼氏を見ている⑨
しばらくすると空智はハッとし、二人の間に割って入る。
「あー、先輩ごめんなさい。 俺たちはそろそろ」
それが占い師を庇っているように思えて、というより完全に庇っていて加恋はまたもやモヤモヤとしてしまう。
「もう時間? 仕方ないか。 けーちゃん、また話そう」
「俺はもう話したくないです」
「男の娘でも俺は興味があるから」
「俺はあっくんにしか興味がありません!」
「一体何の話をしてんだよ・・・」
“雨の中よくやるな”と思う反面、加恋も人としてこの場に立っていたのなら口を挟みたいだけに何も言えない。 健斗がウィッグを被りパッドを付け直してから、一緒にこの場を離れた。
「ありがとう、あっくん。 助けてくれて」
「・・・」
空智は先輩と離れてもスマートフォンをずっと見ていた。
「・・・あっくん?」
「悪い。 俺、加恋の家まで行ってくる」
「え? ・・・どうして?」
健斗の声のテンションが明らかに変わった。
―――空智・・・?
不思議に思い加恋も空智を見上げる。
「連絡はもちろん、既読も一切つかないし心配なんだ。 だから行ってくる」
「・・・そう」
「ミケを預ける。 後は任せたぞ!」
空智は猫と傘を健斗に渡すと、雨の中を走って加恋の家へと向かった。 加恋と健斗の二人きりになれば、当然のように気まずい空気が流れる。
―――・・・だけど占い師が知り合いの健斗くんだと分かったら、まだいいかも。
知らない人間よりも知っている相手の方がまだ安心だ。 だがだからこそ怖いということを加恋は知らない。 身近であるから憎しみも喜びも大きくなる。
健斗からしてみれば、意中の相手である空智の隣に陣取る加恋が憎くて仕方がないのだ。
「・・・健斗くんだったんだね」
「・・・悪いか?」
「別に。 空智のことが好きなら好きって、教えてくれればいいのに」
そう言うと抱えられている腕に力が入る。 小さな体がギリギリと締め上げられた。
「痛ッ・・・」
「空智の彼女である加恋に言えるわけがないだろ」
「え?」
「お前たちが付き合っちまったらもう遅いんだ」
「恋愛に早さなんて関係ないよ。 女装は趣味?」
「いや?」
「じゃあどうして?」
「空智は男を恋愛対象に見てくれなくてさ。 だから俺自身が女になろうって思った。 ただそれだけ」
「・・・そっか」
何とも言い難い状況だ。 ただ女性が空智にちょっかいをかけているよりは加恋の心が軽い。 それに加恋自身思うところもあるのだ。 雨の音が聞こえる中小さな声で言う。
「・・・でも私は、健斗くんが羨ましいよ」
「は? 何だよそれ」
それを聞いた健斗は強い口調で言った。
「自分が空智の彼女だからっていう優越感? 見せつけてんの?」
「ううん、違う。 私と空智はカップルなの」
「だから何だよ」
「カップルはあくまでカップルなの。 いつか別れる時が来るのかもしれない。 そしたらもう一切関われなくなる可能性がある」
「・・・だから何だって言うんだよ」
「でも健斗くんの場合は、もしカップルになれなかったとしてもずっと親友のままでいられるでしょ?」
「はぁ?」
「だから羨ましいなって」
その言葉に冷たく返された。
「・・・何だよそれ。 親友だって、ただのダチと同じだよ。 キッチリ振られたら親友ポジも失う可能性だってある。 いや、俺がこんな格好するようになった時の気持ちなんて知りもしないんだろうな」
「・・・」
「お前の言葉は俺の恋愛事情を踏みにじっているだけじゃねぇか」
「そういうつもりで言ったんじゃないけど・・・。 ごめん」
話していると一人の老婦人がやってきた。
「あの・・・」
「どうしました?」
健斗は気持ちをスイッチを使ったかのように切り替え、女性に対応した。 普段から演技して生きているのか、その様は素直に感嘆せざるを得ない。
「さっきその猫を飼ってくれる人を探していましたよね?」
「あぁ、はい」
「私が引き取ってもいいでしょうか?」
「「・・・」」
二人は揃って黙り込んだ。
―――まさか、ね・・・?
加恋は軽く健斗を見上げる。 少し悩んだ挙句、健斗はそっと加恋を差し出した。
―――・・・え?
―――嘘でしょ!?
「どうぞ。 可愛がってあげてください」
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