三毛猫は彼氏を見ている⑥




自分が加恋であると分かるようなことは何もしていない。 現に空智は全くそんな風に思っている様子はなかったのだ。 だがあまりにも突然だったため、加恋の頭の中はパニックになってしまった。


―――どうして私のことを知ってるの!?

―――私たちは初対面ですよね!?

―――貴女は誰!?

―――それにどうして猫になっても私だと分かるの!?


女性は目を細めて頭を突いてくる。


「何か喋ってみなよ」


―――私は猫です。

―――喋れません。


黙っていると女性は呆れたように言う。


「どうせ『ニャー』しか声にしていないんでしょ? 普通に喋れるって。 ほら、何か言ってみたら?」

「私は・・・。 あ」

「ほらね」


本当に喋ることができた。 彼女は何を知っているというのだろうか。 得意気に笑っているのが妙に癪に障る。


―――どうして猫の姿なのに喋れるのか気になるけど!

―――今はそれ以上に聞きたいことがある!


空智はキッチンへ向いていて声は聞こえていないようだが、念のために怪しまれないように小声で尋ねかける。


「どうして私が加恋だと分かったの?」

「さぁ? どうしてでしょう?」

「どうしてクイズ系?」


加恋から女性に見覚えは全くない。 なのに相手は自分のことを知っているというのが不気味だ。 緊急事態だというのに悠長にしている女性を睨み付けてみる。 しかし答えてくれる様子はなかった。


―――もう、自分で考えればいいんでしょ。

―――猫が私だと知っているのは・・・?


思い当たる人物は一人しかいなかった。


「昨日の占い師・・・?」

「正解」

「え? 本当?」

「そうだよ?」

「貴女は昨日の占い師なの!?」

「そんなに驚くこと?」

「どうして占い師の貴女と空智が・・・ッ!」


占い師は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「というより! 12時になっても私の体が元に戻らないんですが!?」

「あぁ、それね。 加恋の体はもう人間に戻ることはないよ」

「はい!? ・・・って、ふざけないでくださいよ! どうしてそんな薬を私に渡したんですか!? 貴女は人間に戻らないことを知っていて、私に薬を渡したんですか!?」

「その通り」

「一体どうして!」

「加恋からあっくんを奪うためだよ」

「・・・え?」


思いもよらなかった言葉に唖然とする。


「それ以外に何か理由がある?」

「・・・」

「貴女はもう二度と人間の姿には戻らない。 あっくんと貴女は自然消滅。 あっくんはアタシと一緒にゴールインするの」

「何、それ・・・」


話していると空智が料理を持ってやってきた。


「わー! 美味しそう! 本当にあっくんって料理が上手いよね」


そう言って占い師は空智にべたべたとくっつく。 話は強制的に終了で、苛立たしい気持ちばかりが湧いてくる。


「そんなにべったりくっつくなって」

「別にいいじゃない」


空智は言葉では嫌と言うが、特に突き放したりはしていない。 見ているとどうしてもモヤモヤするし、焦りもする。


―――どうしよう。

―――このままだったら、本当に私たちは・・・。 


べったりくっつく二人を見ているのが嫌になった。 正確には空智に一方的に占い師がくっついていこうとしているのだが、それを強く否定しないのが嫌なのだ。


―――占い師さんだけ、ズルい・・・。


食事中も空智はスマートフォンを弄っていた。 それを見た占い師が不満気に言う。


「あっくーん? 食事中はスマホを触らない!」

「いや、分かっているんだけどさ・・・」

「そんなに大事なこと?」

「あぁ」

「何をしているの?」

「加恋に連絡が付かないんだよ」


―――・・・え? 


まさかの言葉に驚いた。


「流石に昼は過ぎているから、もう起きていると思うんだけど・・・」

「それでも駄目! スマホはしまって!」


占い師は強引にスマートフォンを奪い取る。


「・・・分かったよ」 


行儀が悪いと思ったのか、すんなり空智は身を引いた。 心がモヤモヤとする。


―――私のことを心配してくれているの?

―――空智と占い師さんの本当の関係は?


加恋はよく分からなくなっていた。



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